1591年九戸政実の乱(2/3)
バリバリッ、ゴウゴウゴウッ。
野砲陣地炎上の炎が、九戸城を妖しいシルエットに浮かび上がらせていた。
ここは九戸城地下司令室。
「ふっふっふっ」と九戸政実。
「白馬は燃えているか」と原田宗時。
「確認しました」と通信士。
「超重爆撃機アサマ、全翼爆撃機ヤツガ共に大破」
「白馬は燃えています!」
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・
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一方、徳川信康本陣。
「どうした、なぜ出ない」と通信士官。
ビーッ、ガシャッガシャガシャ。
受信音と共に数字盤が三行の不吉な文字列を吐き出した。
「601。基地消滅信号を受信しました」と通信士。
「なに!」
基地消滅信号601は緊急時に基地敷地内に埋められた熱電対が摂氏400度を感知した際に自動発信される。
有り得ない超高温に曝された際の「フェイル・セーフ」であった。
起こってはいけない事態が起こっている。
信康がとうとう通信室に駆け込んできた。
信康「601だと、本当か!」
通信士が必死に呼びかけている。
「白馬基地、応答せよ」
「白馬基地、応答せよ」
だが白馬軍事空港は応答しない。
「栂池基地は出ないか?」と信康。
栂池は山一つ隔てた基地である、出ない筈がない。
「音声信号途絶、あ、モールス受信!」
通信士がすぐにメモを取り出した。カキカキ。
単純な1行の文章を繰り返している。
「-・- --- -・・・ ……」
「ワレハクバホウメンニセンコウヲミトム」
「我、白馬方面に閃光を認む、です!」
「なんということだ……」と信康。
軍事基地はその恒常性の為、監視体制は野戦基地の比ではない。
基地要員は地元の出身で10年遡って履歴を徹底的に調べ上げて採用している。
外部からの特攻兵が突撃で監視網を破り、基地に突入する事は出来ない。
ではその基地要員に九戸の発っ破が紛れこんでいたのだ。
10年前から何食わぬ顔で普通に働いていたのだ。
「スリーパーセル……」と信康。
スリーパーセルとは普段は何食わぬ顔の味方であり、有事に破壊工作を行う潜入工作員のことだ。
暗示によって本人の深層心理にトリガーが仕込まれており、本人自身が工作員だと知らない場合がある。
その場合は絶対に分からない、本人も知らないのだから。
九戸城地下司令室。
「もう誰も信用出来まいな、信康のヤツも」と政実。
時計を見た。もうすぐ午前1時だ。
「計画通り、最前線の機関銃砲座に騎馬で出撃し、蹂躙する」
「出撃せよ!」
バリバリッ、ゴウゴウゴウッ。
猛烈な炎と爆発が夜空を焦がしていた。
午前1時。
ここは徳川信康軍最前線・機関銃座陣。
兵士A「はあ~、盛大に燃えとるなあ」
兵士B「野戦砲座は特攻兵の自爆で全滅だそうだ」
兵士C「捕虜にならず自爆するそうだ」
伍長「はいはい、私語は慎め、前後左右に目を光らせろ」
兵士ABC「へ~い」
どどっどどっどどっ。
「な、なんだ、この地響きは?」
「敵騎馬軍、来襲!」
「なんだと!」
近代戦では有り得ない事が起こっていた。
「馬に乗った騎兵が突撃してきます!」
「なにっ、近代戦だぞ!」
「十字砲火機関銃座陣の真っ只中にか?」
「全軍、各砲座自由射撃!殲滅せよ!」
もう抜刀隊や馬による騎馬突撃の時代ではない。
近代兵器による大量殺戮の時代なのだ。
1分間に3600発の銃弾が降ればいかなる騎馬攻撃も殲滅できる。
その筈だったのだが。
九戸城から75mm速射砲100門の無差別射撃が機関銃砲座群に降り注いだ。
合間を縫って煙幕弾が雨あられと降り注いだ。
敵は煙幕弾の援護射撃の中を突進してきた。
見えない、まったく見えない!
機関銃砲座にレーダーはない。
陣地にたどり着くまでの恐るべき消耗戦が始まった。
煙幕の中でも当たるっちゅうたら、まあ当たる。
騎馬隊の第1陣から第3陣までは全滅覚悟だった。
第4陣はナパーム手榴弾を投げつける投擲隊である。
陣地を構成する塹壕を飛び越える際の置き土産だ。
あわてて投げ捨てようとすると油脂がくっついて離れない。
反応が始まると水をかけても消えない。
たちまち火だるまになった兵士がのたうち回り、爆砕した手榴弾は弾薬に引火した。
九戸軍兵士「抜刀!」
徳川軍兵士ABC「う、うわ、うわ、ちょちょっとおっ」
ズカッ「うぐうっ」兵士Aは斬り伏せられた。
ドカッ「ほんええいっ」兵士Bは肩口から腹部まで真一文字。
ズバッ「はわわぁっ」兵士Cは拳銃ごと両手首が吹っ飛んだ。
もはや信康軍は大混乱である。
九戸軍は斬って斬って斬りまくる。
前列を突破され、中列は支離滅裂、後列は撃つのを躊躇っている。
今撃てば、生き残りの前列中列の兵士も巻き込んでしまうからだ。
曹長「撃て!後列を突破されたら本陣ぞ!」
軍曹「こんな事で瓦解してどうする!撃て!」
信康軍もとうとう同士討ちも構わず、撃って撃って撃ちまくった。
大混乱の中でも当たるっちゅうたら、まあ当たる。
敵も味方もばたばたと倒れてゆく。
2時間後に敵は全滅した。
死者は九戸軍1000人、信康軍15000人。
負傷者は九戸軍0人、信康軍20000人。
死を覚悟して敵陣に突っ込んできた九戸軍に負傷者はいない、0人である。
動けなくなった者は自爆して果てた。
全員が死亡し、自爆はまわりの負傷兵も、助けようとした看護兵も巻き込んだ。
野戦病院に担ぎ込まれてから、体内に縫い込んだ爆弾を自爆させたのだ。
「なんということだ……」と信康。
もはやこれはケンカであった。
次回は1591年九戸政実の乱(3/3)です。