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Takeda Kingdom!甲斐国は世界を目指す  作者: 登録情報はありません
第11章
145/169

1588年アルマダの戦い(8/8)北海爆弾低気圧

イギリス上陸作戦の実行には暗雲が垂れ込めていた。

その時ダンケルクから「上陸部隊撤退」の報が入った。


ネーデルランド南部10州(スペインに恭順)のスペイン領主パルマ公の逆心である。

ロンドン上陸部隊のほとんど(17000人)は、この10州からの徴用であった。


パルマ公「領地の南部10州に不審な動きあり」

「遺憾ながら急遽転進し、事態の収拾に当たります」


この期に及んで、スペイン艦隊の有様を見て、怖じ気づいたのだった。

あきらかにロンドン上陸作戦の敢行は不可能となった。


パルマ公の心境はこうであった。

プロテスタント主導の北部7州との武力衝突の恐れがあるこの時期の徴用。

だがスペイン国王フェリペ2世の援軍要請の絶対命令には逆らえない。


そこで仕方なく、ダンケルクに300隻の徴用船を用意し、兵士にも準備させた。

だがノブナガ率いるイギリス艦隊の内、ヒデヨシの分隊が沖合に陣取っている。


動くに動けないパルマ公の上陸作戦部隊。

そうだ!領地の危急の難を察して転進だ!

シドニア公「あからさまな偽計の策なんぞ労しおって!」

カンカンに怒る司令官を副司令がなだめていたが、怒りは収まらない。


 シドニア公「せめてイギリスの地を1歩たりとも踏まねば、おめおめスペインに帰られようか!」

 副司令「パルマ公の上陸部隊は転進し、艦隊はノブナガの圧迫戦術で引き返す事も叶いません!」


シドニア公は副司令をキッと睨んだ。

副指令も上目遣いにシドニア公の顔色をうかがった。


シドニア公は机の上の海図を見た、北海はがら空きである。

副司令が察したように頷いた。


 シドニア公「では北海をぐるりと遠回りして、アイルランド経由でスペインに帰れと……」

副司令「御意……」


シドニア公も薄々は分かっていた、もう上陸作戦は不可能なのだ。

なら、こんな場所に長居は無用だった。


イギリス海峡を逆進して帰国すれば最も近道であった。

だがノブナガ率いるイギリス艦隊が黙ってみているわけがない。


通常の3倍の航路をとってイギリスを一回りして帰国する。

それ以外に安全に帰国する道は、いや海路はなかった。


 こうしてスペイン艦隊は地獄の竈の蓋が開いたとも知らず、爆弾低気圧に突っ込んでいった。

 上甲板構造物を相当に破壊された機帆船、装甲艦は長長距離気象観測が出来ない状態にあった。


無線による気象予報も全て欺瞞である。

「風やや強し、次第に収まり晴れるでしょう」

「風やや強し、次第に強くなり暴風雨となるでしょう」が実際である。


100隻以上の残存艦がありながら、満足に気象観測も出来なかった。

総員が上甲板やデッキに出て、空を睨み、空気の匂いを嗅いだ。


辺りが暗くなり、雨が降り始め、風が強くなってきた。

波頭に向けて船首を向け、転覆しないようにする。


今でもタンカーが真っ二つになる北海低気圧に突っ込むのは愚の骨頂だった。

だが帰国するには、この悪天候を乗り切るほかない。


ますます風波は強くなり、波頭に白い飛沫がぶつかり合った。

1時間に400ミリの集中豪雨、風速70km/hの突風が吹き始めた。


イギリス西部のアイルランドは、敵地で野蛮人の住む粗野な土地である。

イギリス人技術奴隷に作らせた近代兵器で武装した厄介な土地だ。


 そのアイルランドの沖で風雨を避けようと、ドニゴール(Donegal)湾に退避した時の事であった。

暴風雨に混じって大砲を撃つ音が聞こえてくるのである。


ドグオーンッ、ドグオォーンッ。

沿岸部で閃光を確認!アイルランド原住民だ。


狙いはメチャクチャだ、というより狙っても当たらない。

という事は当たるかもしれない、という事だった。


ズガアアーンッ、直撃だ!

シドニア公「どの船か!」


測的員「サン・ディアゴ、直撃です!」

この暴風雨だ、みるみるうちに船影は荒波に消えてゆく。


 助かった者もいるだろうが、この白い波頭砕ける荒波の上では、為す術もなく沈んでいく。

また、岸に流れ着いても、凶悪な原住民に八つ裂きにされる。


イギリス領事に斬首した首を見せて、褒美をねだるだけだろう。

こうして5時間の停泊の内に500近くの砲弾が撃ち込まれた。


「ラビア」「サン・ファンデ・シシリア」の2隻がさらに犠牲になっていた。

シドニア公「こんな事で、あたら命を捨てることに……」


 第一第二の爆弾低気圧をくぐり抜けたのも束の間、最大最後の爆弾低気圧が待ち構える。

 荒波に翻弄され沈没、暴風雨に押し戻され座礁して沈没、敵性原住民の砲撃で沈没……。


実敵はイギリス艦隊ではなく、100年に1度の三連爆弾低気圧なのだった。

こうして47日目にスペインのサンタンデールに帰国したスペイン艦隊。


 130隻で出撃したスペイン艦隊は65隻(うちアイルランドで沈没行方不明46隻)に減じていた。

人員に至っては47.6%しか生き残れなかった。


スペイン無敵艦隊とは一体何だったのか?

イギリス海峡での小競り合い、上陸作戦の頓挫、北海低気圧による沈没。


ノブナガの心理作戦に引っ掛かって自滅した感が強い。

こうして無敵艦隊はイギリスに指一本触れる事なく敗北……。


 いや宣戦布告を正式に布告したわけではなく、それゆえに敗北という文字は相応しくない。

すべては有耶無耶にされてしまったのだ。

フェリペ2世「ぐぬぬ……」


一方イギリスのバッキンガム宮殿の私室。

無敵艦隊沈没の第一報が入ってきたところだ。


エリザベス女王「……」

海賊ドレーク「……」


エリ「ホホホ……」

ドレ「フフフ」


エリ「おーほっほっほっ」

ドレ「ぶわあっはっはっはっ」


嵐の中で自滅した無敵艦隊に笑いが止まらない女王と海賊。

高笑いと歯ぎしり、運命が天と地を分けたのだ。


フェリペ2世「余は嵐と戦うために艦隊を派遣した訳ではない」

なおそう言った国王であったが、帰還者には手厚い庇護の手を差し伸べている。


そこには、かつてのフェリペ2世の唯我独尊の勇姿はない。

持病の痛風が悪化し、ペンさえも持てない身体になってしまったのだ。


贖宥状(しょくゆうじょう)の意味もあったのかもしれない。

罪の許しを請い、天国への門を近くに!という贖罪の意味もあったろう。


 車椅子の生活と褥創(じゅくそう:床ずれ)に苦しむフェリペ2世は、黄泉の世界を彷徨う亡者もかくやという姿である。

 肉が大好きで野菜を摂らず、病床にあっても、チキンスープを好物としたフェリペ2世。


高尿酸血症で動けなくなり、寝たきりで全身性、局所性廃用症候群に陥ったのだ。

 奇妙寺出身の医療スタッフたちの食事療法も聞かず、改めなかったために病状はさらに悪化した。


フェリペ2世「好きに生きてきた、最後も好きにさせてくれ」

 1598年、マドリードから50km離れたエル・エスコリアル修道院で崩御した、享年71歳。


ここにひとつの時代が終わった。

スペインはこの後も、中世封建制の残滓を色濃く残したまま続いてゆく。


1608年スペインはフランスのピエール第一統領により征服の憂き目に遭う。

これがスペイン・ハプスブルク朝の終焉となった。


一方イギリスは「国王は君臨すれども統治せず」として議院内閣制をとった。

ここに大きな差が現れ、スペインは「日の沈む帝国」として没落してゆくのである。

文中のフランスのピエール第一統領は架空の人物です。

<詳細は1606年欧州征服に出てきます>

次回は1591年九戸政実の乱(1/3)です。

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