1586年奥州仕置き(1/3)
伊達政宗は撤退した。
二本松城は解放し、伊達輝宗は客分として武田軍預りとなり、甲斐東光寺に匿われた。
これは伊達政宗の家督継承の陰謀説(父親暗殺作戦)を警戒しての処置だった。
米沢・舘山城天守曲輪の寝所。
「あ~う~」
伊達政宗の症状は重い。2日間もうわごとを言っていた。
このまま死ん……。
ビシンッ。
政宗は突如として腹筋を使って跳ね起きた。
「軍勢はどうなっておるか?」
近習は唖然として突っ立っている。
「軍勢はどうなっておるか?」
「あ、はい。総崩れで舘山城へ向けて撤退中です」と近習。
「小十郎を呼んでくれ」
片倉景綱が呼ばれてやって来た。
「小十郎に御座ります」
「この舘山城へどう攻め込んで来ると思うか」
「二本松より猪苗代湖沿岸を経て会津若松、会津若松より米沢へ至ると思われます」
「二本松街道と米沢街道を使うという事か」
「大軍ですから旧街道や脇街道は使わないでしょう」
「ふうむ」
伊達軍は誰も、武田軍の重火器や航空機と戦った事が無い。
奇策を見た事が無いのである。
1586年現在、武器兵站の地上兵器は、ほぼ日本全国同じであった。
今の今までは。
その夜、夜間警戒にあたっていた舘山城警備兵は夜空を見上げた。
ムギュ。
誰かが乗っかってきた。重い。
グサッ。あれ、俺、死んで……。
夜間降下突撃隊。
黒い落下傘に黒い突撃服、脚部防弾盾を装備した特殊戦闘突撃隊である。
吾妻連峰から飛来したグライダーから降下したので無音である。
次々と本丸曲輪に降り立つその数は20人。
目的はただ一つ、伊達政宗を拉致するのだ。
「何者だ!誰の許しを得て、グハッ」
「出会え!くせオフウッ」
「なんだ、騒々しい、小十郎、見てまいれ」と政宗。
「はっ、あれ、グウッ」と小十郎。
「どうし、グウッ」と政宗。
亜酸化窒素と吸入麻酔薬イソフルランの混合ガスを吸ったのだ。
ガスマスクを付けた特殊戦闘隊が雪崩れ込んできた。
「急げ!気道確保」
喉頭鏡で舌を押さえつつ、マギール鉗子で挿管する。
全身麻酔は呼吸が止まるので呼吸をサポートしながらの拉致である。
こうしてあっけなく政宗と小十郎は拉致されてしまった。
普通はこういう事は絶対に不可能である。
もし可能なら歴代の国主は、全員忍者に暗殺されている。
ただ武田軍の特殊戦闘隊の装備が振り切れているだけなのだ。
翌日の朝。
城内は大騒ぎである。
「御館さまはどちらに?」
「寝所にも厠にもいない」
「い、いったいどうしたんだ」
「どこにもいないぞ」
「どこにもだ」
「夜間の見張りが殺されてる……」
「まさか、まさか!」
搦め手(間道)も使われた形跡がない。
どこからも侵入した形跡がない。
あらゆる箇所に石灰を撒いてあるのだ。
触らずに侵入出来る筈がなかった。
ただ一つの例外を除いては。
一同は空を見上げた。
「まさか空から……」と近習。
「武田軍が空から奇襲を掛けたという話を聞いたことがある」
「1573年のことだ」
「野田城攻防戦だな」「聞いた事があるぞ」
「絵空事だと一笑に付したものだったが……」
だが事実、政宗と小十郎は舘山城から消えたのである。
次回は1586年奥州仕置き(2/3)です。