1573年岡崎城攻略
被弾したのは次男晴信であった。
右肩に射創を負った。
晴信「大事ない」
清信「なにおいう」
浅信「銃弾の威力が弱く、銃弾が人体内に留まった盲管射創(penetrating GSW)だ!」
「狙撃だ!クソッ、笛の音色を聞く位置を狙われた!」
浅信「清信兄さん、落ち着いて、晴信兄さんは大丈夫!」
清信「なにおいう」
慌てふためく武田軍首脳陣は、上を下への大混乱であった。
浅信「典医を!典医を早く!」
狙撃は遠射創(distant wounds)だ。
筋肉、血管、神経をズタズタに切り裂きながら、骨に跳ね返り、体内を進む。
刀でスパッと斬った切創(incised wound)なら創縁は整っている。
表皮剥脱を伴わないし、創底は平面で、組織の離断は単純で組織架橋はない。
つまり刀傷の方が外科手術は簡単なのだ。
至近射創(near contact wounds)ならば銃創では銃弾で組織が熱凝固されることがある。
そうなると自然に止血されやすい。
この遠射創が最も厄介な外科手術になるのだ。
晴信はショック状態に陥った。
ただちに典医がかけつけ診察した。
「これは……」
浅信「助かるか?」
典医「はい、いや、あの、しかし……」
1%ブドウ糖加酢酸リンゲル液を静注しながら対応する典医。
もの凄い勢いで術式を考えている為か、返答が変だ。
ただちに空気ボンベが持ち込まれ、医療テントが立ち上がる。
医療僧形が慌ただしく、手術の準備に動き回る。
「拍動を中枢側で触知,末端側で触知せず!」
「外傷性出血による循環血液量減少性ショックだ」
主任僧形が目紛しく、手術の指示を行う。
銃弾が肺を傷つけ、出血している可能性大だ。
「ただちに血胸の郭清と止血操作だ!急げ!!」
晴信は戦場で緊急手術を受けた。
緊急小開胸手術である。
低侵襲手術は可能になったが、まだ腹腔鏡手術はない。
これが限界だった。
10cm切開して開創器をかけ、ウーンドリトラクターを挿入する。
1505-1518年にゴムを輸入出来るようになって、初めて可能になった医療品だ。
術医僧形A「これが発明されてから創感染の心配が無くなった」
術医僧形B「創部保護膜も進歩したなあ」
麻酔医僧形「素早く!手早く!迅速に!」
術医僧形AB「へーい」
右胸腔内に血胸を認める。
右胸腔ドレナージを施行した結果1000mlの血性排液を認めた。
まず貯留していた血性排液の郭清と止血、銃弾の摘出である。
肺裂傷からの出血を認め、電気メスにて止血、空気漏れは認められない。
銃弾は肺野縦隔側の右心横隔膜角に認め、これを摘出した。
マイクロサージャリー班が、ちぎれた血管の損傷部断端を切断して、端々吻合する。
1%ブドウ糖加酢酸リンゲル液を静注し、等張アルブミン製剤は使用しなかった。
血性排液の胸腔ドレーンを出して、緊急手術は終了した。
これ以上は戦場では望むべくもなかった
血流の確保と安定、呼吸の確保だけの応急処置である。
ただちに甲斐中央の奇妙寺高度医療施設に後送しなければならない。
医療僧形A「伊那街道から三州街道を経て、甲斐本国へ向かいましょう」
医療僧形B「うむ、伊那は山がちの急峻な山道だが最も近い」
医療僧形C「悪魔沢を通らねばならん、何も無ければ良いが」
晴信「頼んだぞ、Ouch!(アゥチ!)」
清信「京都で待ってるぜ」
浅信「兄上、お大事に!」
武田軍素っ破A「仰々しいとかえって目立つ」
武田軍素っ破B「必要最小限の随行者とする」
武田軍素っ破C「狙撃には用心しろ」
慌ただしく後送の準備をする素っ破の軍団たち。
こうして晴信は、いつの間にか戦場を去った。
清信と浅信が臨時司令官となり、西上作戦はプラン通り続行。
司令官不在でも戦略+戦術+兵站に問題はない。
かつて武田軍は「武田という形のないモノ」を神格化して社とした。
愛郷心や愛国心の類いのようなものを信じていた。
だが今の軍団は戦闘集団であり、命令一下戦う戦闘機械の歯車である。
司令官不在でも粛々と西上作戦は遂行出来る。
<1549年天下統一への道参照>
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翌日午前4時。
ここで驚天動地の凶報が武田軍にもたらされた。
晴信は甲斐本国に後送中に、容体が急変。
休憩中だった信濃国伊那の駒場で没したとの事。
清信と浅信はこの報を移動司令室で聞いた。
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浅信「なんとしたことだ……」
清信「なにか、言い残した事は?」
臣下「<いいか、3年の間……>、その後は聞き取れませなんだ」
浅信「<いいか!3年の間に天下を統一せよ!>では?」
清信「うむ、晴信ならいいそうだ!」
喪に服している暇はなかった。
初めからいなかったようだ。
悲しみは、なぜか急に乾いてしまった。
清信は、なぜか急に立ち直った。
これはすべて、浅信の超常の力だった。
全ての悲しみを浅信1人で受け止めている。
これは相当な負担であり、浅信はすっかり体調を崩してしまった。
超常の者とはいえ、恐ろしい負担だったのだ。
負の感情の嵐が浅信を蝕んでいた。
西上作戦は続く。
武田軍の進軍先に岡崎城が見えてきた。
徳川家康「ここは私にお任せ下さい」
岡崎城主・徳川信康は家康の嫡男である。
清信「そうか、やってくれるか?」
浅信は伏せっている。
「家康ならやってくれるだろう」と清信は決断した。
家康「ははーっ」
開城は容易だと思われた、が。
岡崎城を取り囲んだ武田軍先鋒隊は父親の家康軍である。
信康は父子の関係を盾になめてかかっていた。
「父上、御身は恥ずかしくないのか」と信康。
「武田軍に降伏し、おめおめ先鋒など務め」
「信康」と家康も負けてはいない。
「戦国とは千変万化」
「この先生きのこる事こそ」
「ええい、聞かぬ!知らぬ!」と信康。
ゴゴゴゴゴ……。
腐っても徳川家康である。
「攻撃せよ!」
今や武田軍先鋒隊として最新兵器で武装した徳川軍。
片や種子島や大筒など、旧態依然な兵器の寄せ集めである信康軍。
ドッカアア~ンッ!
容赦ない射撃の砲弾が、雨あられと降り注いだ。
家康「撃て!撃って撃って撃ちまくれ!」
ズガガガァ~ンッ!
岡崎城は粉々に飛び散り四散してしまった。
信康は捕縛され、武田軍先鋒隊の家康の前に引き据えられた。
「くっ…殺せ!」
「よし切腹を命じる」と家康はさらっと言った。
「えっ」信康はびっくりした。
本当は強がりだった。
まさか本当に切腹する事になろうとは思いも寄らなかったのだ。
「くっ殺」も冗談だったのだ。
「ちょ……おま」
「服部正成、介錯を」と家康。
「えっ」正成は突然の指名に仰天である。
「あ、いえ、わたしは」
「では、天方道綱に介錯を命じる」
「はっ」
「おわうぁ。えっちょっとぉ」と信康。
「若様。お覚悟」
「ひええ~っ」
振りかぶった刀が鈍く光ったと思った瞬間!
ガッキイィィンッ。
家康が鉄扇で介錯人の刀を受け止めていた。
「もうよい」
「はっ」
道綱は退出した。
信康は白目をむいて気絶していた。
その髪の毛は恐怖で真っ白に変色していた。
「これに懲りて二度と逆らうのでないぞ」と家康。
岡崎城は無血開城した。
「イヒ!、イヒ、イヒ」
座敷牢に幽閉された信康は普段と違う風体であった。
その後、信康は精神に異常をきたしたもようだ。
後方に移送され、浜名湖湖畔の庵に閉じ込められている。
ちょっとお仕置きが過ぎたようだ。
あえて言おう。
徳川信康死んでない。
次回は1573年濃尾平野です。




