1573年野田城攻略
1573年。
戦国の巨獣と言われた晴信は野田城攻略を開始した。
しかし30000人の大軍は動かなかった。
守る城兵は500人。一気に揉み潰せなくもない。
まるで何かを待っているかの如くだった。
やがてプルプルと腰砕けな音が聞こえてきた。
見ると上空に何か飛んでいる。
それは「ドローン」だった。
ドローンは書簡を投下すると去っていった。
城将・菅沼定盈は書簡を読んだが内容はこうであった。
「秘匿兵器<航空機>は従来の兵法を覆す新兵器である」
「抵抗は無意味だ」
「降伏せよ」
城内は徹底抗戦と無条件降伏に揺れた。
その時である。
さらに変わった形の動力付きハンググライダーが本丸・天守曲輪に着陸した。
操縦者は武田浅信ただ1人だった。
ただちに雑兵たちが手柄首と襲いか……からなかった。
「城将殿にお目通り願いたい」
「ワシは武田浅信じゃ」
浅信の両目が妖しく光る(眼底反射)。
あわてて足軽大将は上司に事態を伝えた。
「なに?武田家三男が?そんな馬鹿な」
城将・菅沼定盈はまろび伏すようにして駆け付けた。
その定盈に浅信は高圧的に接した。
「降伏を勧めに参った」
「抵抗は無意味だ」
浅信はハンググライダーのエンジンをかけた。
ブウュイ~ンッ。
猛烈な風が巻き起こり、フワリと浅信は空中に舞った。
「3日待とう、よく考えられよ!」と浅信。
あとには野田城守備兵と城主がポカーンと口を開けて立っていた。
さながら古墳から出土した埴輪やらの日干しの列である。
いまのは現実か?
ここは本丸・天守曲輪だぞ!
籠城において最も堅固で強固な絶対防衛線だ!
そこにフワリと敵将が、まるでちょっと遊びに来たという調子、とは何事だ……。
しかし航空機に空を支配されたのでは。もはやどうしようもない。
どうやって防ぐ?どうやって攻撃する?
矢を射かけても届くのは高さで30mが限度。
鉄砲でも当たらないだろう。
いやむしろ動いている上空の目標にどうやって?
しかし惜しい事をしたものだ
不意を突かれたからといって、みすみす武田家三男を逃すとは!
もはや口惜しいと言っても後の祭りだった。
・
・
・
菅沼定盈は一晩考えると言って自室に籠もった。
その夜の事だった。
野田城には笛の名手がいるらしい。
毎晩ある時間になると美しい笛の音色が聞こえてくる。
野田城の松村苞休という笛の名人が、籠城の疲れを癒す為に吹いていた。
しばし晴信も家臣もその音色に聞き入り、戦旅の哀れさを感じ取っていた。
晴信「戦場にも風流なヤツがいるものだ」
浅信「アントニオ・デ・カベゾンのオルガンはもっと……」
晴信「スペインのは荘厳すぎてどうもな」
パイプオルガンを戦場に持ってくるワケにはいかん。
晴信は笛の音色を聞くいつもの場所を決めていた。
木の枝をそれとなく立て、わかるヤツにはわかるようにしていた。
だがそれがまずかった。
鳥居三左衛門という狙撃の名手がそれを見とがめていた。
それはよく狙撃で使う目印だったのだ。
昼間の内に2m測距儀で彼我の距離を測量した。
彼我の距離は約80m。
当時の銃の射程は約100mである。
必殺必中の距離だ。
射線は右肩の鎖骨から左の脇腹に貫通するあんばいである。
鎖骨下動脈を傷つけ、肺に穴を開け、血胸となる。
照準線上の正しい位置に狙撃用に精密加工した銃を準備した。
日が傾き、あたりが少しずつ暗くなってきた。
そしてその晩、いつものように笛の音が聞こえ始めた。
真っ暗闇で何も見えない中、頃合いは良しと判断して、引き金を引く。
ズダーンッ!
「うぐう」
当たったらしく悲痛な声が闇夜にこだました。
しかし誰に当たったのかはこの時点では分からなかった。