第一楽章-3
「あたしはあんたのフルートの精霊よ。名前はフルティーノ、よろ…っ…!?って…ちょっ…!」
「可愛い~っ!!!」
新生活もかなり落ち着いてきて、気分的にフルートが吹きたいと思っていたところで、楽器ケースを手に取った。
普通ならば何も起こらない、日常の何気ない行動だったのに…目の前には透き通るような銀髪を、上手にツインテールに括った少女が現れた。
これがえすさん (真由莉のことである) がいつも言っているような『美少女』なんだろうか。
とりあえずその可愛さに抱きついてしまったのだが…。
「ちょっとっ!離れなさいっ、同性と言えどセクハラよっ!!」
彼女はそう訴えながら手をじたばたさせていた。
さすがにセクハラで訴えられたらどうしようもないのでとりあえず離してあげることにした。
…ん?まてよ。
「だったらお前も不法侵入だっ!」
「…な、なん…だと…?…って、違うわよっ!あんたがいきなり抱きつくから悪いんでしょ!?」
「え?そうだっけ?」
詩乃がわざととぼけると、フルティーノは少し涙目になりながらじっと見つめてきた。
意外とメンタルが弱いのかな?
さすがにやってるこっちもえすさんみたいにドSではないので可哀想になってきた。
「それで、フルティーノ、なんの話だっけ?」
ようやく話を聞いてくれるのに安心したのか、明るい表情になっていた。
「…えーっと、初めに言った通り、私はあんたのフルートの精霊よ。で、なんで出てきたのかっていうのは…ここが私みたいな楽器の精霊が具現化できるように作られた特別な場所、言わば聖地なの」
楽器の精霊が具現化…いつも、頭の中お花畑と言われている詩乃でも考えたことはなかった。
「そんな事ありえるのか?」
「だから私が今ここにいるんでしょうが」
物分りが悪い詩乃に呆れるように腕を組んで溜息をついていた。
フルートの精霊、中学生の頃からずっと吹いてきた楽器、そんな相棒みたいな楽器に宿った精霊…。
「…な、なんとか言いなさいよっ!」
「ってことは、詩乃の…ふぃあんせ?」
フィアンセの意味は前にえすさんに『生涯ともに生きるという運命の相手…まぁつまり婚約者だよ』という回りくどい言い方をされたが百合の話をしてたから多分フルティーノのことであってるよねっ!
ところがフルティーノは硬直して酷く赤面していた。
「…ば、ば…ばかぁぁぁああああっ!!!!!!第一私たちは女性同士なのよっ!!しかも精霊と奏者っ!そ、そんな事が…ゆる、される…わけ…///」
「…?」
何のことを言っているんだろう?
えすさんから聞いた通りだったと思うんだけど…。
「詩乃ちゃーん、その子に何言ったのー?」
ドアが開くと同時にそう言ったのは月那だった。
「あ、月那~っ!!ううん、この子がねフルートの精霊だっていうから詩乃のフィアンセだね~って言っただけ~」
「…詩乃ちゃん?それ使い方間違ってるよ?…ごめんね、詩乃が酷い誤解してたみたーい、あははっ」
「…そ、そうよね…、あははー…はぁ…」
結局何が間違いだったかはわからないけど、とりあえず何かが始まってしまったのは分かった。
これからどうなるのか全然想像つかないけど、楽しくなりそうだ~!
「じゃあ、これで3人とも存在を確認出来たわけだよ…ね?真由莉ー」
詩乃が真由莉はドSって言ってるけど、呼び方がえすさんなのも江角 真由莉の『えす』とドSのえすをかけている状態らしい。
(作者は偶然こうなってしまった)