呪いの紋章
「いただきます」
そう言うと、五人は俺の方を見た。
「お兄ちゃん、いただきますって?」
いただきますの定義をエリックが訊いてきた。この世界では食事をする前に、いただきますっていう習慣はないのか。
「あー......いただきますって言うのは、料理になった動物や植物に感謝しようっていう儀式だ。なんか、誰かに教わったような気がするんだ。うん!」
ぎこちない言い訳をして、誤魔化そうとした。
「素敵な儀式ですね。それじゃ、私もいただきます」
グレシアは特に疑った様子もなく、いただきますをした。
「いただきます」
「いただきまーす」
「そんじゃ、私もいただきます」
他の三人も特に怪しむ様子もなくいただきますをした。
「おいしい! なんかお米がいつもと違う! どうしたのこれ?」
リブは頰を緩めながら米の感想を言った。
「なんと、お兄さんがエッグライスを使って炊いてくれたんだよ!」
「お、お兄ちゃんが? お兄ちゃんって魔力を扱えなかったんじゃ......」
エリックが俺のことを不思議そうな顔で見つめてきた。
「記憶喪失が関係してるのか、魔力を使えるようになったみたい。本当、不思議よね」
「ははは......そうだな」
魔力が急に使えるようになっただけで、さすがに俺が別の世界からやってきたと思うことはないと思うが、あまり変な目で見られるのも困る。
「やっぱりあれなのかな••••••お兄さんが変わったのって魔王の手先のせいなのかな?」
フレアがボソリと呟いた。魔王の手先。
どんなやつなのだろうか。それに魔王の手先ってことは、もう魔王は倒せなくないか? 魔王が手先より強いってことはないだろう。
「魔王の手下ってどういうやつだったんだ?」
すると、四人は顔を強張らせた。
「と、とても恐ろしいやつだったよ。」
フレアは泣きそうな顔でブルブルと震えだした。
「そ、そんなにか?」
「兄貴は覚えていないのかもしれないけど、奴には私たちの魔法が全く通じなかったんだよ。頼みの兄貴の体術すら見切られてたしね。もう二度と戦いたくはないな」
出会ってからいつも飄々としている様子のリブが信じられないくらい怖そうに戦った相手の感想を言った。
恐ろしいやつだな、魔王の敵。元ヒモの俺の精神が憑依してしまった俺が戦っても瞬殺されること間違いなしだな。
「なるほどな。それはヤバイ敵だな。もう、魔王軍とは戦うべきではないな!」
俺は堂々と言い放った。すると、グレシアは顔をしかめた。
「いえ......そういう訳にはいきません。我々、全員に呪いをかけられたのですから」
「の、呪い?」
物騒な言葉に俺は思わずギョッとした。
「うん。お兄さんは覚えていないかもしれないけど、私たち全員、魔王の手下に呪いをかけられちゃったんだよ」
フレアは割と呑気そうに衝撃的な事実を言った。
「や、やばいじゃないか! どうやって呪いを解除するんだ?」
「確か......あのダークエルフは私を倒さなければ、貴様らはいずれ衰弱して死んでいくっていってたよね」
エリックが仏頂面で説明した。どうやら、俺たち全員を倒して魔王の手下というのはダークエルフっぽい。しかしダークエルフっていうと、褐色肌なのかなやっぱ。色黒? 色黒といえばそういえばあいつも高校の時、日焼けサロンに通っていたな。
「なぁ、ハッタリっていうことはないかな。呪いなんて本当はかけてなかったみたいな」
俺は希望的観測を述べた。すると、グレシアが長い白いドレスをまくりから艶かしい綺麗な細い足出した。
「な......!」
俺は突然のグレシアの行動に驚いた。
「これが呪いの紋章です」
グレシアの太腿には、痛々しい赤い紋章のようなものがついている。
「私にはここに」
フレアが腕を捲り上げた。フレアの右腕にはグレシア同様、呪いの紋章がついている。
「うちは背中についてるよ」
エリックの紋章は背中についているらしい。バラバラなのだろうか。
「私はお腹に」
リブはお腹にあるらしい。
「お兄様にはありませんか?」
グレシアが訊いた。
「分からない。ちょっと待ってくれ」
俺は席を立ち、トイレに移動した。さきほど、家の中を探索したのだが、この家は俺の部屋と妹四人の部屋で分けられている。
さらにリビング、トイレ、物置部屋とあり、お風呂的なところはなかった。どこで風呂入るんだろ。
俺はトイレに移動した。上半身に着ている服を脱ぎ、呪いの刻印を探したが、なかなか見つからなかった。
下半身だろうか? 俺はズボンを脱ぎ、脚や足の裏まで細かく探したが、見つからなかった。
「ないな......もしかして俺は運よく呪いというやつから免れたのかな」
俺はホッとした。安心したらなんかもよおしてきた。
自分のパンツを下ろした。さて、トイレを済ませて、食事に戻るぞっと......
「え......?」
俺は自分の股間を見て、驚愕した。
なんと、俺の股間に呪いの紋章が刻まれていた。




