エッグライス
「お兄さんすごい! 玉ねぎ切るの私より上手くない? 本当は料理できたんだね!」
フレアは俺の包丁捌きに偉く感激したようだった。ヒモ生活も決して無駄にはならなかった。
「お兄様。私も試してみます」
「へ?」
グレシアがティッシュを鼻に詰めた。
「え......」
「な......」
俺とフレアが唖然とした。
確実に美少女と言ってもいい少女が鼻にティッシュを詰めている。
なかなかインパクトの大きかった。
「では試してみますね」
一定のリズムでまるで機械のように玉ねぎを切っていった。俺に勝るとも劣らない見事な包丁捌きだった。
「お兄様のいう通りです。全然目が痛くなりませんでした!」
グレシアが微笑んだ。ほとんど表情の変えることのないグレシアだったが年相応(といってもい年齢はまだ不明だが)の笑顔でとても可愛らしかった。
「いやぁ......でもグレシア、すごい間抜けそうに見えるよ」
「んな......ちょ、ちょっとティッシュ外してきます!」
フレアに指摘されると、グレシアは恥ずかしくなったのか、顔を赤くして、してその場から離れた。
「恥ずかしやがりだなーグレシアは」
「それよりも今日は何を作るんだ?」
「ん? カレーだよ」
カレーか。簡単で栄養価の高い料理だがこの世界にも普及しているようである。
「そうか。なら、ちゃちゃっと作っちゃうか」
俺は人参の皮を剥いていった。
「なんか、今日のお兄さん、女子力っていうか主婦力高いね」
「そんなことないさ」
フレアは大きな肉をまな板に置いた。赤みを帯びた肉でなかなか美味しそうだった。
「なぁ、フレア。この肉って何の肉だ?」
「ホワイトドラゴンだよ。普段は高いんだけど、奮発して買っちゃった」
「へぇ......」
ドラゴンって食べれるんだな。そういえばこの世界では豚とか牛はいるのだろうか。
「お待たせ」
グレシアが戻って来た。
「ただいま。それじゃどんどん料理していこう!」
「そうね」
俺たち三人は黙々と調理を進めていった。
「なぁ、火はどうするんだ?」
俺はどうやって火を起こすのか尋ねた。ガスコンロのようなものは見つからない。この世界にはないのだろうか。
「それも覚えてないか.....まぁ、見てて」
フレアは鍋に肉や野菜を投入した。そして鍋に手を当てた。
「へぇ......そうなんだ」
フレアのやつ、食事に必要な貴重な能力を持っているようである。
「それではご飯を炊きますか」
グレシアはプラスチック製の白い大きな卵型の道具を取り出した。
「これは?」
俺は見たこともないこの道具について訊いた。
「これはマジックアイテム。エッグライス。この中に研いだお米を入れて魔力を注ぎ込むと一瞬でお米が炊けるんだよ。この道具も覚えてないか......料理の仕方は覚えているのに不思議だね。ていうか、これまで一度もお兄さんが料理したところ見たことなかったんだけど」
フレアがアイテムについて説明してくれた。
「あはははは......不思議だな。どうして、料理できたんだろ」
俺は愛想笑いをして誤魔化した。それにしてもエッグライスか。炊飯器よりも便利なアイテムじゃないか。
「このエッグライス。誰でも使えるのか?」
俺はこのマジックアイテムを試してみたくなった。
「はい。お兄様。魔力を持つものなら誰でも使えます......しかし、お兄様は産まれながらにして魔法が使えないのでここは私たちにお任せください」
「そ、そうか......」
俺は少しガッカリした。俺が憑依している元の身体の持ち主は魔法が使えないらしい。そういう体質なのだろうか。
しかし、もしかしたら俺がこの身体に憑依したことで、魔法が使えるようになったかもしれないと考えた。
まぁ、そんな都合よく行く訳ないか。だけど、一回試してみたい。
「なぁ、一回だけ試させてもらっていいか?」
そういうと、グレシアは首を傾げ、キョトンとした顔をした。
「え? まぁ、構いませんけど......」
俺はグレシアからエッグライスを受け取った。
「どうやって使えばいいんだ......」
使い方がイマイチ分からず、途方に暮れそうだった。
「魔力を使う際は心を鎮めてください。そして、エッグライスに意識を集中させて、ご飯が炊きあがるイメージをしてみてください」
「わ、分かった。やってみる」
俺はグレシアの言う通り、心を鎮めた。心頭滅却。頭の中をカラにし、ご飯が炊きあがる様子を思い浮かべた。
ほっかほかのご飯。『あいつ』と二人で楽しく食べた白い白米を思い浮かべた。
「アクティベイト」
呪文を唱えると、エッグライスが光りだした。
「うわ!」
思いの外眩しくて、目を細めた。
「う、嘘! お兄さんがエッグライスを!」
フレアが驚いている。
「お、お兄様。記憶喪失の影響なんですかね......それにしても、急に魔力を使えるようになるなんて私、驚きました!」
グレシアが興奮して喋っている。ぐいっと距離を近づけてきて、思わず俺は少しドキッとした。
「そ、そうだな......」
俺たち五人は一緒に夕食を食べることにした。食卓にカレーライスとサラダ、細かく切った緑色の果実を並べた。




