ヒモ男は地味に家事スキルが高い
「それじゃ行くよー兄貴はエリックの弾く演奏を鬱陶しいと思っている。イエスオアノー?」
「ノー」
俺は即答した。蔓はピクリとも動かなかった。ふんとリブは鼻を鳴らした。不満そうに顔をしかめている。
「どうやら本心みたいだね。エリックの演奏が好きなんて、兄貴も変わってるね」
リブは両手を後ろに手をやり、つまらなそうにそう言った。
「もういいだろ。二人とも。フレアとグレシアが買い物してるんだ。早く合流するぞ」
「分かったよ。でも、少し待って。このランプ買うから」
リブは銀貨を一枚差し出し、ランプを購入した。
リブのやつ、素直じゃないな。さっき家でエリックが演奏していた時、指でトントンとリズムを刻んでいた。おそらく無意識なのかもしれないが、なんだかんだリブもエリックの音楽が好きなんだと思う。
俺は二人を連れて、フレアとグレシアの元へ移動した。二人ともまだ、肉屋にいるだろうか。
「くそ、フレアとグレシアいないな」
「どこ行っちゃんたんだろうねー」
呑気そうにエリックが呟いた。
「大体、お前ら二人が他の店を見ていたからだろ......」
「せっかく買い物に来たってのにマジックアイテムを物色しないわけにはいかないでしょ」
「その通り。私も来たからには楽器を絶対に見る。お兄ちゃんはまるでわかっていない」
二人はやれやれという顔をした。
俺が悪いのだろうか。訂正だ。やはりこの二人、合うのかもしれない。
「お兄さーん!」
声の方向を見ると、フレアが手を振っていた。横にグレシアも並んでいる。二人ともパン屋野菜などが入った袋を持っていた。
「もー! お兄さん達、どこをフラついてたのさ」
フレアはジト目で俺の腹を肘でつついてきた。
「いやぁ、悪い悪い。エリックとリブが他の店に行ったもんだから追ってたんだ」
「全く......二人とも勝手に移動しちゃダメじゃない!」
「だって......」
「う......」
二人ともグレシアから顔を逸らした。二人ともグレシアには頭が上がらないのようだ。
「まぁまぁ! 二人とも反省しているようだし。早く家に帰ろう」
「まぁまぁ! 二人とも反省しているようだし。早く家に帰ろう」
俺はそう言うと、グレシアは驚いたような顔をした。
「お兄様が庇うなんて、記憶だけじゃなくて性格まで変わったんですね」
「記憶を失う前の俺はどんなだったんだ?」
レインという男がどういう性格だったのか俺は気になった。
「お兄様は厳粛で自分に厳しいストイックな方でした。私たち姉妹のことは基本的に私に任せていて口数が少なかったのですが、今のお兄様は全く雰囲気が違いますね」
「そ、そうか......」
「確かに。記憶喪失とは言え、前のお兄さんと全然違うね。まるで別人みたい」
フレアのやつ結構、核心ついてきやがった。
「うちは今のお兄ちゃんの方が絡みやすくていいかなー」
「私もー」
エリックとリブはレインより龍ヶ崎剛モードの俺を気に入っているようである。
家に戻り俺はベンチに腰をかけた。
「ふー疲れた」
目が覚めたら妹が四人いたり、異世界に来たりと色々あって何だが疲れて来た。
「それじゃ、お兄様。料理が終わるまで部屋でゆっくりと待っていてください」
キッチンのような場所でグレシアとフレアが料理を始めようとした。
俺はベンチから起き上がった。
「俺も手伝うよ」
「ええ!」
フレアが心底驚いたような声を上げた。
「何だよ。そんなにおかしいか?」
「だって......お兄さん今まで料理なんてしたことなかったし。大丈夫なの?」
「大丈夫。できる気がする。やってほしいことがあれば何でも行ってくれ!」
どんと胸に手を当て、おところしく宣言した。俺は料理にはこれでも自信がある。ヒモ時代に俺は料理のスキルを飛躍的に上達させたのである。
俺が作った料理を明子は美味しいと絶賛してくれた••••••追い出されたけども。
「ありがとう。お兄様。それじゃ、この玉ねぎを細かく切ってもらっていいですか?」
グレシアが大きめの玉ねぎを差し出してきた。
「分かった」
俺は玉ねぎを受け取り、木でできたまな板に置いた。
「切ると目が痛くなるから気をつけてね」
フレアが俺に忠告をした。この世界でも玉ねぎを切ると目が痛くなるらしい。というか野菜などは元の世界のものとほとんど変わらない。
「ああ。なぁ、テッシュある?」
「はい。お兄様あちらに」
グレシアは手でティッシュが置いてある方向を示してくれた。焦げ茶色のコップやら器が置いてある棚の中に銀色のティッシュ箱のようなものが置いてあった。
おお、すごい豪華そうなティッシュ箱だ。ティッシュ箱を持つと、ズシリと重量感を感じた。
俺はティッシュを箱から取り出し、鼻に詰めた。
お、お兄様......何をしてるんですか?」
鼻にティッシュを詰めると玉ねぎを切っても目にしみないんだよ。
「あはははは! ごめん。お兄さん。正直、面白いわ」
フレアが腹を抱えて笑い出した。
「コラ! フレア。お兄様に失礼でしょ! でも、お兄様本当にこれで目にしみないのですか?」
「ああ! バッチリだ」
俺は見事な包丁捌きで玉ねぎを鮮やかに切って見せた。
「全然痛くなーい!」
グッと俺は親指を立てた。




