別の世界でも会えたなら
猛スピードでヤサカに接近した。修行の成果でコースリングを使わなくてもある程度のスピードで動くことができる。
憑依しているレインの身体のスペックが高いのもあるのだが。
「一気に決めてやる! 『ライトニングスラッシュ』!」
黄色い魔法陣が発生し、剣先を通り抜け、電気を帯びた。剣はバチバチと音を立てている。
エリックから教わった雷の魔法を元にした魔法。
剣先に電気を帯びさせ、殺傷力を上げる。剣を横に振り切った。
「結構、早いね。ほ!」
ヤサカは高くジャンプし、俺の斬撃を避け、
「マジックバレット」
空中で魔法攻撃を繰り出した。
俺はマジックバレットを剣で止め、そのまま切り裂いてやろうと試みたが、力が強く無理だと判断し、横に倒れて避けた。
「いてて......」
倒れたせいで体を強く地面に打ってしまった。
「なーんだ、そんなもん? 今のマジックバレット、全力の半分くらいだよ?」
ヤサカは期待外れだといわんかりの表情をした。
「そんなわけないだろ。これからだ!」
地面に落ちた剣を拾い、再び立ち上がった。もっと、速くだ。もっと速く——
今度はヤサカの後ろに回り込み、首筋に狙いをかけて剣を振った。
ヤサカはシュンとしゃがみ、避けると、
「あらよっと!」
俺の腹に強烈なパンチを決めて来た。
「ぐ......お......」
痛みのあまり、四つん這いになった。
「だから、他の人たちも連れてこれば良かったのに。あーあ、つまんないなぁ」
ヤサカは頭の後ろで手を組み、残念そうに愚痴をこぼした。
やはり、ヤサカは強い。
こいつと戦う約束してから、危険なクエストも、大変な修行もこなしてきた。全ては妹達を死なせないためである。
だが、全力を出してもこいつには届かない。俺はコースリングを取り出し、立ち上がった。
「一つ言っておこう。俺もお前と同じ、違う世界からやって来た」
俺の言葉に今日、始めて驚いたような顔を見せた。
「え? そんなバカな......それじゃ、君の妹達もなの?」
「いや、俺だけだ。レインの身体に俺の精神が憑依している」
「へー、それは随分、変わってるね」
俺はコースリングを指に嵌めた。身体中に力が漲った。
「こっからが本番だ! 最強の元ヒモ男、龍ヶ崎剛の力を見せてやる!」
俺は大きい声で叫んだ。この戦いが終われば、自分の名前すら覚えていないかもしれない。だからという訳でもないが、自分の名前を叫んだ。
「龍ヶ崎剛......」
復唱するかのようにヤサカは俺の名前を呟いた。
「ねぇ、ヒモってなんなの?」
こいつ......そこ聞いてくるのか。
「じょ、女性に養ってもらっている男のことだ......」
「なるほど、ロクでもないやつってことだね」
「まぁ、そうだな」
つい認めてしまった。よく考えたら俺は何をヤサカに宣言しているのだろうか。
「あと、ひとつどーしても言っておきたいことがあった。お前、とんでもないところに呪いの刻印を刻みやがって!」
「呪いの刻印が刻まれる場所はランダムなんだよ。とんでもないところってどこなのさ?」
「こ、股間だ!」
すると、ヤサカは大爆笑し始めた。
「あはははは! こ、股間って、ウケる! 超ウケる!」
腹を抱えている。そんなに面白いか。
「お前なぁ! どうしてくれるんだ、これ!」
「まぁ、エッチするときとか困るよね」
「そ、そういうことじゃない!」
「童貞なの?」
こいつ、可愛い顔してなんつーこと、訊いてくるんだ。
「違う。俺は違うぞ。いや、レインの方は知らんけど」
笑いが収まったのか、ヤサカは真面目な顔をした。
「いやー、面白いね君。仲間だったら仲良くできたと思うんだけど」
「そうだな。だが、無理だ。それとも今すぐ呪いを解いてくれるのか?」
ブンブンとヤサカは首を横に振った。
「無理、ってかできない。呪いは一度発動してしまうと、私が死ぬまで解けないよ。私でももう解除できないから」
「それじゃ、やっぱりお前はここで殺さなければいけないな。お前と話していると元の世界にいた時の妹を思い出すんだけどな」
沙也加も小さい時、俺をからかっては、言い争い喧嘩した。
「そっか。それは残念だね。名残惜しいけど続きを始めようか」
「ああ」
正面からヤサカに向かった。先ほどとは比べものにならない速さで動けた。
「な......」
ヤサカは面食らったような表情を見せた。間髪入れず、魔法名を唱える。
「フレイアライディンススラッシュ」
炎の剣でヤサカの上半身に斬りかかった。
「マジックバリア」
ヤサカが唱えると身体全体にドス黒いオーラを浴びると、手で炎の剣を受け止めた。
「一気に強くなったじゃん。そうこなくっちゃね」
「余裕そうだな。悪いが絶対にお前をぶっ倒すからな」
俺とヤサカはその後、およそ一時間、お互い無言で戦い続けた。
俺は機会を伺い、ちょくちょくポーションを飲んで体力を回復させていったのだが、ついにポーションも底をついた。
「はぁはぁ、君も粘るねぇ......」
「そりゃぁな」
だが、そろそろきつくなって来た。体力以上に、魔力がそろそろ尽きかけて来た。普通の魔法ではヤサカの能力で吸収される。
それゆえに剣に魔法を変けて攻撃を仕掛けたのだが、マジックバリアのせいでなかなか有効な一手を決めることができない。
「でも、そろそろおしまいでしょ? 私にマジックバリアを使わせるなんてすごいことだよ。誇っていいよ」
だが、ヤサカの様子を見ると、向こうも疲労がそれなりにあるように見える。
一か八か——この作戦で行ってみるか。
「撃ってみろよ」
「え?」
「お前の全力のマジックバレット撃ってみろって言ったんだ。受け止めてやるよ」
この挑発に乗るかどうか正直、賭けである。ヤサカの性格的に乗りそうだが。
「分かった。いいよ。もう終わらせないとだね。『マジックバレット』」
右腕でマジックバレットを作りだした。どんどん大きく膨らんでいった。
しかし、同時にヤサカの身体に纏っていたマジックバリアが消えていた。
俺はヤサカに全速力で向かった。
「マジックバレットを作ってる途中で攻撃しようっていう作戦? 悪くないけど、私の方が早いよ! ほら!」
俺が攻撃を仕掛ける前にヤサカがマジックバレットを投げて来た。
とてつもなく大きな魔弾に触れた俺は、中に閉じ込められた。
中は魔力の密度で思わず気を失いそうになった。
「これで終わりだよ!」
ゆっくりとマジックバレットを上空へと上げて言った。
二十五日前の初めてヤサカと戦った時、今みたいに俺はマジックバレットの中に閉じ込められた。
俺にトドメを刺そうとしたヤサカにグレシアは魔法を打ち込むと、奴は吸収しきれないで攻撃を食らったのである。
つまり......今が攻撃する絶好のチャンスということである。
「合わされ四つの力。重なれ四つの魂。飛び出るわシスターズラブ!」
めちゃくちゃにかっこいい詠唱をすると、桃色の魔法陣が発生した。
「な、まさか......」
予想外の攻撃にヤサカの余裕そうな表情が崩れた。
この魔法は対ヤサカ用に俺が編み出した切り札である。
「レインボール!」
魔法陣の中から、大きな桃色の魔弾が発生し、ヤサカに命中した。
「うわぁぁ! 熱い! 冷たい! 痺れる!」
この魔法には、炎魔法、氷魔法、雷魔法、草魔法すべての性質を兼ね備えている。
え? 草魔法が入ってないって?
マジックバレットが割れ、俺はヤサカのいる近くに地面に着地した。
「く、くそ! 蔓が邪魔で動けない!」
ヤサカの身体には太い蔓が巻きついていて、うまく身動きが取れないようだった。
しっかりと草魔法の性質も入っている。
「これで終わりだ!」
俺はヤサカの心臓を剣で貫いた。
「く、悔しいな。私が負けるなんて......これはせめてものの抵抗だよ」
ヤサカは俺の右手を触れた。パリンという音が聞こえた。
ヤサカの身体から剣を引き抜き、右手を確認すると、人差し指に嵌めていたコースリングの宝石が砕けていた。
ヤサカは胸から大量の血を流している。ヤサカの立っている場所付近にある草や石は赤く染まっていった。
「グフ!」
口から血を流し、地面に突っ伏して倒れた。
ヤサカに近づくと、ヤサカが嵌めていたコースリングの黒い宝石も砕けていたのが確認できた。
「ヤサカ、お前は強かったぞ。本当に強かった」
俺は長時間戦ったヤサカに対し、敬意を込めてそんな言葉を贈った。
すると、ヤサカは俺の足を掴んだ。まさか、まだ戦うつもりなのか。
「お兄ちゃん......最後に私、思い出したよ。元の世界にいた時の記憶を。会えて嬉しい」
ヤサカの言葉に俺は思わず、耳を疑った。
「お、お前。まさか、沙也加なのか?」
すると沙也加は嬉しそうな表情をした。
「そうだよ。お兄ちゃん」
俺は沙也加の身体に触れ、支援魔法をしようと試みた。
応急処置の魔法を使えるようにはなっていた。
「死ぬな、沙也加! 『リカバリー』!」
俺が剣で刺した箇所に手を当てるが、全く血は収まる気配がなかった。
「いいんだよ。私が死なないと、お兄ちゃんが死んじゃうしね」
沙也加の瞳が虚ろになって来た。まずい、これはまずい。
「ふざけるな! 俺は謝りたかったんだ。元の世界でお前を救えなかったこと。そして、今も! 俺はお前を殺した! 一度のみならず、二回も。俺は大バカ野郎だ......」
気がつくと、涙が溢れ出ていた。
「本当、お兄ちゃんはバカだね。自分が悪くないのに勝手に責任感じて。でも、ありがおう。お兄ちゃん愛してる。もし、違う世界で会えたならまた兄妹でいたいな......」
そう言い終えると、ヤサカは目を閉じた。
「おい、沙也加! 沙也加!」
いくら強く揺すっても反応を示さない。
「う、うわあああああああああああああああ!」
俺は叫んだ。こんな仕打ちあんまりではないだろうか。やっと妹に会えのに。殺したのがこの俺だったなんて。
気がつくと、俺は気を失っていた。




