妹たちとお買い物
俺は地球という単語に反応した。
「ち、地球? そこです。俺のいた世界は!」
「ふーん、地球ね。それじゃこの世界にやってきた人たちは宇宙人ってことなのかしら」
宇宙人か。トラックに轢かれたら違う惑星に来ていた......ってことになるのだろうか。2
「この星の名前はなんていうんですか?」
「私たちの星はプラニウス星と呼んでいるわ」
「プラニウス星か......あの、違う世界からやって来たって言い張る人たちはどうしてるんですか?」
「その人たちはどこかの国に旅したり、農作業して働いているわね。そうそう、会いたいって思ってもやめておいた方がいいわよ。私に相談しに来た患者はここからかなり離れたところに住んでるから」
俺と同じ世界からやってきた人に話を聞こうと思ったがそれは難しそうだ。
「それにしてもあなたはこれまでに見た患者の中で例に見ないタイプね」
「へ? どういうことですか?」
「大抵、別の世界からやってきたという人は国の戸籍に登録されていない人で、変わった服装もしているのだけれど、あなたの場合、つい最近まで王族に使えていた兵士だった。それが、魔王の手先に攻撃を食らって自分が別の世界からやってきたという。おかしいと思わない?」
「た、確かに......」
するとアリスは真剣な表情をした。
「ここからは私に推測を言うわね。あくまで仮定として、別の世界があったとしてあなたは本当にその世界からこっちの世界にやってきた。精神と身体、両方この世界にくるはずが何らかの理由で精神だけこの世界にやってきて、今の身体に乗り移った」
俺は黙ってアリスの推測を聞いた。精神だけこの世界にやってきた。そんなことがあるのだおるか。しかも、レインという男の身体にまるで幽霊のように入り込んだなんていささか信じられない。
「難しそうな顔してるわね。まぁ、とりあえず治療で今の私にできることはないかなー」
なげやりな感じでアリスがそう言った。
「そ、そんな! アリスさん! 何とかならないんですか!」
「ない。それにあなたはどうしたいの? 元の世界に帰りたい? それともこの身体から解放されて元の身体でこの世界で暮らしていきたいの?」
「お、俺は......」
「そこのところをまずははっきりさせる必要があるわね。これ渡しておくわ」
アリスは俺にとある透明なガラスのビンを手渡した。
「これは?」
「これはマジックアイテム、ワープ瓶よ。蓋を開けると一瞬で私のところまで移動できるわ」
「へぇ......便利なアイテムですね」
俺はまじまじとワープ瓶を眺めた。なんの変哲もないただのガラス瓶にしか見えない。
「使用回数は三回までだからあんまりバンバン使うんじゃないわよ。私、結構いろんなところに移動するから、何かあったらそれを使って私のところまで来て」
「はぁ......でも元の場所に戻る時困るんじゃ......」
「心配不要よ。瓶の蓋を閉めれば開けた場所まで戻れるわ。素晴らしいアイテムでしょう?」
「た、確かに......」
アリスは満足そうに微笑んだ。
「それじゃ、私はこれで帰るからあなたもここでの生活頑張ってね」
アリスは手を振って部屋から出て行ってしまった。
そしてすぐに四人の妹達が戻ってきた。
「お兄さん! 大丈夫だった?」
「お兄様! 何も変なことはされませんでしたか?」
「お兄ちゃん、あの女に発情してないよね?」
「兄貴、これ食べる?」
四人が一斉に俺に質問をしてきた。
「ありがとうリブ。貰うよ。あと、特に何もされてないよ。記憶が蘇るまでしばらく様子を見た方がいいってアリサさんに言われただけだよ」
俺はリブから甘い匂いのする小さな黒い丸いカップケーキのようなものを貰った。食べると口の中に蜂蜜のような味が広がり美味しかった。
「ならいいんですが......あまり無理はしないでくださいね」
「ああ、分かった」
俺は頷いた。
「それじゃ、そろそろ夕食でも作りますか。私は買い物に行ってきます。みんな、行きますよ」
グレシアが他の三人を買い物に連れて行こうとした。
「グレシア! あのさ、良かったら俺も行っていいかな?」
「お兄様、体は大丈夫なのですか?」
「ああ。今は特に問題はない」
「分かりました。それではみんなで買い物に行きましょう」
俺たちは家から出て、買い物に向かった。
この世界がどうなっているのか、柄にもなくワクワクした。
確かにこの世界にやってきて不安が多いのだが、この世界には一体、何があるのか好奇心の方が不安よりも勝った。
「おお! すごい人だかりだな」
店にいる人たちを見て、俺は感激した。エルフ耳をした人や、ヒゲと猫耳、尻尾を生やした人間などまさにファンタジーぽい種族がいる。また、リブのようにローブを着ている人や、杖で飛行している人もいる。
「城下町はいつもこんなもんだよ。お兄さん、何か思い出すことはない?」
「ごめんなフレア。全く思い出せない」
「そっか。まぁ、しょうがないか」
というか別の世界からやってきたのだから思い出しようもないのだが。このレインという身体の持ち主の記憶を共有できたりはできないのだろうか。
「なぁ、グレシア。この街の名前、なんていうんだ?」
俺は中世のヨーロッパを彷彿とさせるこの街の名前をグレシアに訊いた。
「この街は『ペンドリア』と呼ばれているます。発展している街ですから、色んな種族の方がよく観光にくるんですよ」
「へぇ......そうなのか」
空を見上げると翼竜のような生き物が人を乗せて運んでいるのが目に入った。やばい、生まれて初めて見た。竜なんて伝説の生き物だと思っていた。




