魔王の正体
その日以降もクエストをこなし、力を着実につけていった。
そして、いよいよ明日はヤサカとの対戦の日である。自分で言うのもなんだが、この世界に来てからだいぶ強くなったと自負している。
妹達とかるめの修行をした後、俺はワープ瓶を使って、アリスのところに向かった。
「な、なんだここ?」
着いたのはどこかの山の頂上だった。あたり一面雲が見える。
「あ! おーい、レインくん!」
少し離れた場所でアリスが手を振っていた。ゆっくりとアリスが俺の近くまでやってきた。
「アリスさん。今日は何を?」
「登山よ登山! 見てよ、この景色、最高じゃない?」
確かにいい眺めである。しかし、登山だというのにアリスは最初に会った時となじく短いスカートの白いナース服という登山に不向きな格好をしていた。
「なかなか、アウトドアですね。アリスさん」
「まぁね。それで、今日は何の用かしら?」
風が強く、栗色のアリスの髪がなびいている。
この日、俺はどうしても訊いておきたいことがあってやってきた。
「明日、俺たちに呪いをかけたやつと戦うんですけどどうしても訊いておきたいことがあってきました」
「そう。明日なのね......それで訊きたいことというのは?」
大きく息を吸い込み、アリスさんに質問した。
「単刀直入に聞きますアリスさん、あなたは魔王ですか?」
俺の質問を訊いたアリスは真顔になった。
「面白い質問するのね」
アリスは微笑んだ。しかし、目は全く笑っていない。
「いいから、質問に答えてください。『ウィップライディテクター』」
俺の掌から蔓が出て来た。この魔法は相手にした質問の答えが嘘か本当か確かめる魔法。リブから教わった魔法である。嘘なら蔓が揺れ動き、本当なら動かない。今日のためにリブから教わった。
すると、アリスはまるで観念したかのように目を閉じた。
「ええ、そうよ。私が魔王よ」
俺の質問にアリスが答えた。蔓はピクリとも動かさなかった。
「やっぱりそうか......」
「いつから私が魔王だと気づいていたのかしら」
「最初に怪しいと思ったのは、シュンゾウとヤサカがコースリングを見せた時ですね。二人ともこのマジックアイテムのことを知っていましたし、ヤサカに至っては効果まで知っていました」
すると、アリスはしょうがなさそうな顔をした。
「そう。二人にレインくんがコースリングを使っているのを見ても、知らない振りするよう言っておけば良かったかしらね。ヤサカにもあなたと同じ、コースリングを与えたのよ。でも、それだけで私が魔王だと思ったの?」
確かにそれも理由の一つだが、他にも理由はあった。
「いえ、それだけじゃありません。以前、とある温泉に行った時にあなたに魔法を扱う力を奪われたという女性に会いましてね。魔王の特徴を聞いていたんですよ。今思えば、あなたと一致するところが多かったですね」
リカバー温泉で撫子と出会った日、彼女は魔王の人間の時の姿について教えてくれた。栗色の髪を束ねており、やや背が高くスタイルの良い目つきの鋭い女性だったと。
まぁこれだけの特徴では、やや決定不足であるが。
「ふーん、それで私が魔王だと分かったと」
「いえ、まだあります。これです」
俺はハムンビラ古代遺跡で見つけた日記を取り出した。
「ディンゴのやつ......遺跡に置いてある私の私物は全て始末するよう言っておいたのに」
俺はこの点にふと疑問に思うことがあった。
「アリスさん、そもそもなぜあそこにあなたの日記があったんですか? あそこはダンジョンのはずです」
「あそこは元々、私たちが拠点にしていた場所だったからね。新しい魔王城を建てるまであそこで私は暮らしていたの。魔王城が完成したから私は出て言って管理をディンゴに任せておいたのよ」
淡々とアリスがダンジョンに日記を置いてあった経緯を説明した。
「なるほど、あなたが出た後、あそこをダンジョンとして出現させ、攻略に来たディンゴに冒険者を殺させた訳ですね」
「ええ、そういうことよ。まぁ、ディンゴはあなたたちに殺されちゃったけどね」
アリスの表情は少しもの寂しそうに見えた。自分の部下にそれなりに情があったのだろうか。
「それで、私を魔王だと確信したわけね?」
「いえ、まだです」
「えー、まだあるの?」
アリスはうんざりだというような顔をした。
「この時点では、まだアリスさんが魔王だと確信するには至りませんでした。そこで、俺はアレスとあなたの会話を思い出しました」
「えーっと、何だったかしら」
アリスには心当たりがないようである。
「アレスが言ってましたよね? 『アリスさんは元凄腕の冒険者だった』と。俺はアレスから冒険者時代の話を聞いたんです」
「あー、会ったわね。そんなことも」
ようやく、アリスは思い出したようだった。俺がアレス達とパーティを組むようになったきっかけが訪れた日。
アレスは元凄腕の冒険者という情報を聞き、アリスを自身のパーティに誘っていた。
「アレスから、色々話を聞きましてね。あなたが『かつて魔王を倒したパーティの一員だった』ということを知ったんですよ。それで、あなたが魔王だと確信しました」
日記には、パーティメンバーの裏切りに激昂し、世界に絶望した冒険者が魔王を殺し、自身が魔王になったことが書かれてあった。
「なるほどねぇ。前の魔王を倒した後、すぐに冒険者を辞めたのだけれど、知っている人は知っているものね。これは私も詰めが甘かったかしらね」
「アリスさん、あなたの目的は何ですか? どうして、本来なら敵である俺の手助けをしてくれるたんですか?」
俺にコースリングを渡したのはどうしても腑に落ちなかった。これを使ったことで、アリスの部下であるはずのシュンゾウを倒すに至った。
「私の狙いはあなたの魔力の成長よ。このコースリングを使い続ければ、あなたの魔力の量、質は進化を遂げるわ。私はそれをいただくのが目的だったの」
「そうですか、あなたの目的はよく分かりました。それじゃ、そろそろ帰りますね」
「私のことを魔王だと知って、放置しておくの?」
「あなたと戦うのはヤサカを倒してからです」
俺はアリスを睨みつけた。アリスはやってみろとばかりに微笑んだ。
「そっか、頑張ってね。一応聞くけど君、私の仲間になる気はない? 出来ればあなたは気にいってるるから、あなたの魔力を吸い取った後、私の仲間にしたいと思ってのよね」
アリスが魔王軍に入るよう勧めて来た。だが、考えるまでもない。
「悪いですけど、全力でお断りです」
ワープ瓶の蓋を閉め、家の前に戻った。
ヤサカとの戦いを控えたその日の夜は、武器の手入れ、アイテムの確認をしてゆっくり休んだ。




