クエスト
脱力感が俺に襲いかかり、がくりと俺は地面に倒れ込んだ。
「お兄様、大丈夫ですか?」
グレシアが心配してくれたようで、話しかけてきた。
「ああ、大丈夫だ」
トコトコとアレスが真顔で俺の方に近づいてきた。
「なぁ、レイン。ちょっと、いいか?」
アレスにそう言われた俺は妹達とシリウスから離れた場所に移動した。
「メシアスはあのダークエルフに殺された。メシアスは本当にいい奴だったんだ。なのに......俺はあいつが許せねぇ。だが、俺じゃあいつは倒せない。だから、頼む。あいつの仇を討ってくれ」
「当然だ。あいつを倒して、俺と妹達の呪いを解いてやる!」
ヤサカを殺し、俺と妹達の呪いを解く——そう心に決めた。
「よろしくな、レイン。いや、剛!」
「なぁ、アレス。剛って誰だ?」
俺の言葉にアレスは驚いたのか、目が大きくなった。
「な、何言ってるんだよ! お前の名前だろ?」
「あれ、そうだったか?」
俺は信じられないことに自分の本名を忘れかけていた。
「おい、大丈夫か? 明日あたりアリスさんに見てもらえよ」
「わ、分かった」
シュンゾウ、そしてヤサカとの戦いを終えた俺たちは迷いの森を抜け、家へと戻った。
信じられないことに、俺は自分の名前を忘れかけていた。日本にいた時のことを思い出すと、ところどころ記憶が抜け落ちていることに気づいた。
働いていた時の会社の名前を思い出せなかったり、大学時代の元カノの名前を忘れていたりと記憶の欠如が見られた。
理由は恐らく、禁断のマジックアイテムであるコースリングを使ったせいだろう。
次の日、俺はアレスの言う通り、俺はワープ瓶を使って、アリスのところへと向かった。ついたのはどういうわけか、どこかの森で目の前にはテントがあった。
「すみませーん、アリスさんいますか?」
俺はテントの中に入った。
「いらっしゃい。レインくん。何か用かしら?」
テントに中にはアリスがいた。ランプと大きなリュックのようなものがテントの中には置かれてあった。
アリスは胸元が大きく開いた上着と、タイトスカートを着ており、目のやり場に困る服装をしていた。
「あの、アリスさん。ここで一体何してるんですか?」
「キャンプよ。たまにはこういうのもいいと思ってね」
「全くもってキャンプらしい格好には見えませんね」
俺は率直な意見を言った。
「うふふふ。この格好、あなたには刺激が強いのかしら?」
「へ、変なこと言わないでください!」
この人と話しているとペースが乱されるな。早く本題に入るか。
「これについて質問があります」
コースリングを取り出した。すると、アリスは真剣な表情を見せた。
「そう......使ったのね。それを」
「ええ、これを使った後にいくらか日本にいた時の記憶の欠如が起こりましてね」
「コースリングを使った時の代償は人それぞれだけど、あなたの場合は元の世界での記憶のようね。これ以上記憶を失いたくなければ使わないことよね」
コースリングを使わない方がいいか。だが、それではヤサカには勝てない。
「それでは俺に呪いを掛けた奴を倒せません。なんとか記憶を失わない方法はありませんか?」
「そんな方法ないわよ」
あっさりとアリスにそう言われた。
「自分で選ぶといいわ。記憶を失うのがいいか。命を落とすのがいいか」
「そ、そんなの命の方が大事に決まってるじゃないですか」
俺の命ももちろん大事だが、妹達の命もかかっているのである。自分の記憶なんか優先させることなんかできない。
「なら、それを使ってた戦いなさい。あと、記憶を失わない方法はないけど記憶を呼び覚ます方法はあるわよ」
「ほ、本当ですか?」
本当なら、万々歳である。一体、どんな方法なのだろうか。
「魔王を殺すことよ。魔王を殺せば、どんな願いも一つだけ叶うと言われているわ」
アリスは不敵な笑みを浮かべた。ハムンビラ古代遺跡で見つけた本にも同じことが書いてあったが、本当なのだろうか。
「なるほど、なら......魔王を殺すしかないですね」
「ふふふ、その意気よ。頑張ってね。剛くん。あ! それと」
「なんですか?」
「ワープ瓶、使えるの後一回だから注意してね」
アリスは悪戯っぽく笑顔で俺にウィンクしてきた。
アリスとの面会を終えた俺はそのままギルドハウスへと向かった。中に入ると、妹達はすでにギルドハウスで待っていた。
「お兄様、お待ちしておりました」
「遅いよ、まったくお兄さん!」
「ははは、悪い悪い」
ご機嫌斜めなフレアに謝る俺。
「それじゃ、お兄ちゃん行こう!」
「はい、回復用のポーション。一応、渡しておくね」
リブからポーションを受け取った。
もっと、強くなるべく、ヤサカとのたくさんのダンジョンに挑戦する。この妹達は俺が救ってみせる。
それから俺は数々のダンジョン、そして修行の日々を送った。妹達から魔法も教わり、いくつか魔法を使えるようになった。魔力、身体能力を引き上げる薬も毎日欠かさず飲んだ。
その結果、コースリングを使わなくてもある程度のモンスターを倒せるようになった。
今日はレンブリカ湖に生息するビッグオクトパスを討伐しにいく。ちなみに今日のパーティメンバーは俺とアレス、メシアスの三人で妹達は別のクエストへ向かった。
「剛、お前今日は鎧を着てきたんだな」
アレスは俺が鎧を着ていることに興味を示したようだ。加えて今日は盾も持って着た。
日本出身の冒険者しかパーティにいないせいか、アレスは俺を本名で呼んだ。
「まぁな。着ていると防御力も高くなるしな」
着ているのは防御力を上げるためだけではなく、修行の意味も込めて重い鎧を着ていた。
ヤサカと戦うときは、この鎧は着ないつもりでいる。着ない方が遥かに早く動くことが可能である。
「なぁ、アレス。この世界に来た時ってすぐにモンスターを倒せたりしたのか?」
「ん? いやぁ、実は最初は俺も戦うのが怖くてな、なんとか恐怖心を克服してモンスターを倒せるようになったんだ」
アレスは少々、気恥ずかしそうな顔をした。どうやら、アレスはいきなりチート能力持ちという訳でもなさそうであった。
「そうか。シリウスはどうだった?」
「私も最初はモンスターと戦うのは怖くて仕方ありませんでした。初めてメシアスとダンジョンへ向かった時のことを今でも覚えています。モンスターの群れに囲まれていたところをアレス様が助けてくれたんです」
「ああ、そうだったな。それから三人でパーティを組むようになったんだったな」
懐かしそうにアレスが呟いた。
「ええ。懐かしいですね。三人で色んなモンスターやダンジョンに挑んで本当に......楽しかったです」
シリウスは笑みを浮かべているが、その表情にはどこか悲しそうな雰囲気を感じた。やはり、メシアスが殺されてしまったのが堪えているのだろう。
「なぁ、剛。お前はさ、あのダークエルフと戦うの怖くないのか?」
アレスは神妙な表情でそう訊いた。
「怖いさ。すんごい怖い。本当は戦いたくはない。俺は日本で社会からの戦いからも逃げた男だしな。命のやり取りなんてごめんって感じだ。でもな......」
この世界にやって来た時のことを思い出して言った。
「グレシア、フレア、エレック、リブ。この世界で出会ったあいつらは俺の宝物だ。絶対に失いたくはないんだ。例えこの命に代えてでも」
「ふっ。言うじゃねぇか。直接、四人に言ってやれよ」
アレスはそう言うが、そんな恥ずかしいセリフ、本人たちに言えそうな気がしなかった。
「嫌だよ。恥ずかしい」
「グレシアさんたちは、聞いたら喜ぶと思いますよ。まぁ、全員ブラコンなので命に変えてもってところで否定するかもしれませんけど」
シリウスは微笑んでいる。
初めてコースリングを嵌めた時、レインの記憶が流れ込んで来た。その際、レインと妹達のやり取りの様子を垣間観ることができた。
レインはいつも、四人のことを引っ張り、クエストでは先陣を切り数々のモンスターを葬っていた。
そんなレインに四人は慕っているようだった。特にグレシアは。しかし、レインは決して四人に感謝の言葉をかけていなかった。もし、レインと話せるのなら、四人のことをもっと大切にしろと言ってやりたい。
レインの人格はどこにいるのだろうか。この身体の奥深くで眠っているのだろうか。
「剛、メシアス。ようやく着いたな」
「そうですね」
レンブリカ湖に着いた。そこそこ広い湖だが、一見すると何の変哲もないただの湖に見える。水面をみると、青色でなかなか綺麗な水だった。
「なぁ、ビッグオクトパスってどうやっておびき出すんだ?」
すると、シリウスは身につけていたリュックから部品のようなものを取り出し、慣れた手つきで組み立てていった。
「これです」
「これは......」
どうみても釣竿だった。これでビッグオクトパスを釣る気なのだろうか。
「ええ、釣竿です。餌にビッグオクトパスを呼び寄せる餌を使ってます」
「見たことないけど、ビッグオクトパスってでかいんだろ? 釣り上げられるのか?」
依頼書には全長十メートル前後と書いてあった。進◯の巨人に出てくる巨人並みである。
「俺とお前、二人で引っ張り上げれば大丈夫だろう」
自信満々に言い切るアレスだった。
「そんじゃ、早速始めるとするか。それ!」
アレスは勢いよく、釣竿を水面へと投げ込んだ。竿先は勢いよく水面へと投げまれ、大きな水紋を発生させた。
「それじゃ、私もビッグオクトパスが表れたときの為に魔法を使う用意しておきますね出でよ、我が精霊! 『スピリットコール』!」
白い魔法陣が発生し、中からミルフィが出て来た。




