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シュンゾウ

 魔法を使う気まんまんだったグレシアは唖然としていた。

「す、すごい。なんて、魔法の発射スピードなの......私達の魔法よりもはるかに早いわ」

 グレシアが唖然とした表情で、ポツリと呟いた。

「な、なぁリブ。シリウスの魔法って魔法陣が発生してなかったけど、精霊使いだからなのか?」

 俺はリブに質問した。妹達の魔法は、使うたびに魔法陣が発生していたのを見ていたのだが、シリウスの魔法には一切見られなかった。

「多分、そうだと思う。私も初めて見たから自身はないけど」

「その通りだよ! シリウスは僕の魔力を使って魔法を使ってるからね、魔法陣が生まれないんだ!」

 ミルフィは俺の近くにやってきて、説明してくれた。

「へぇ......そうなのか」

 しかし、魔法陣が発生しないだけで、普通の魔法使いと変わらないような気もする。何か、メリットってあるのだろうか。

 そう考え込んでいた時、

「魔法陣が発生しないメリットはね、すぐに魔法を発動させることができるんだよ! すごいでしょう!」

 俺の心を読んだのか知らないが、俺の疑問にミルフィが答えてくれた。

「そ、そうか。すごいなそれは」

 隈ベアーを退けた俺たちは迷宮の森を進み続けた。その後もちょくちょく、モンスターと出会ったが、先ほどのアレス達の戦いぶりに奮起された妹達は張り切って戦闘に参加した。

「フレイムインパクト!」

 炎魔法で黒い大きなツノの生えた羊のようなモンスター、『クラッシュゴート』を倒すフレア、

「サンダーフォース!」

 雷魔法で槍を持った猿のようなモンスター、『スピアーモンキー』を倒すエリックと、この二人は特に張り切っていた。

「見た見た? お兄さん、私の魔法決まってたよね?」

「お兄ちゃん! うちの魔法も見たよね? 私の魔法もすごいでしょう?」

 フレアとエリックは俺にものすごい勢いで訊いてきた。どうやら褒めて欲しいようである。

「ああ! 二人ともすごい魔法だったぞ。よくやったな!」

 俺は二人の頭に手を乗せ、優しく撫でてやった。

「えへへへへ......」

 嬉しそうにニヤけるエリックと、

「や、やめてよお兄さん、恥ずかしいから......」

 顔を赤くし、手を払いのけるフレアだった。

「ず、ずるいわ。二人とも! 私にも......」

 グレシアが何かを呟いたが、小さすぎて聞こえなかった。

「グレシア。何か言ったか?」

「い、いえ。なんでもありません!」

 背筋をピンと伸ばしてグレシアが答えた。

「そ、そうか」

 確かに何かを呟いたように聞こえたが、気のせいだったのだろうか。

「おい、シスコンども。早く行くぞ!」

 アレスが迷宮の森を進むように急かした。

「誰がシスコンだ!」

 俺は異世界で出会ったこの妹達を大切に思っているが、断じてシスコンなどではない。

「どうみてもシスコンじゃねえか。おい、シリウス、メシアス。魔族の気配は感じるか?」

「あっちの方向から強烈な魔力の気配を感じるよ! あそこに魔王の手先がいるんじゃないかな?」

 アレスの質問に答えたのはミルフィだった。俺は何も感じないが分かる人には分かるのだろうか。

「なぁ、リブはなにか感じるか?」

「と、当然でしょう!」

 リブは顔を逸らして俺の質問に答えた。どうやら、リブには何も感じないらしい。

「よし、それじゃあっちに行くぞ」

 アレスはミルフィが指し示した方向へと歩き出した。俺も続いて歩き始めた。

 それからしばらくすると、開けた場所にでた。

 目の前には大きな湖があった。水面に太陽の光が反射し、キラキラと輝いている。

「おい、あそこに誰かいないか?」

 アレスが湖を挟んだ向かい側を指差した。遠くであまりよく見えないが、確かに人影のようなものが確認できた。

「そうだな、近づいてみるか」

 俺たちは湖に沿ってゆっくりと歩きだした。

 歩き続けること、約一分後、釣りをしている紫色の和服を着た俺よりも年上っぽい男性が目に入った。髪は男性にしてはやや浅く、無精髭を生やしており、右目には傷のようなものがついていた。地面には明らかに日本刀と思われる刀が置かれていた。

 その男は俺たちに気づいたようで気だるそうな顔をして俺たちの方を振り向いた。

「なんだ? お前ら。そんな大人数で」

 貫禄のある低めの声で訊いてきた。

 アレスは腰に刺さっている剣を取り出し、それを男に向けた。

「答えろ。お前、魔王の手先か?」

 すると、やれやれという表情で男はため息をこぼした。

「おいおい。質問に質問で答えるとは失礼じゃねぇのか? 疑問系には疑問系で返せって学校で習ったのかよ?」

 男はそういうとニヤリと笑った。多分、この人日本から来た人だ。うん。

「いいから答えろ!」

 アレスがものすごい迫力で叫んだ。

「しょうがねぇな。お前の言う通り、俺は魔王様に使えるもの。魔王軍四天王の一人、シュンゾウだ。お前ら、冒険者だな? 魔王様からは、冒険者を見かけたら殺すように命令されてんだけど、今釣りで忙しいから見逃してやるよ」

 そう言うと、釣り再び集中しはじめた。シュンゾウは口笛を吹きながら気だるそうに水面を見つめている。

 俺はシュンゾウの近くまで移動した。

「聞きたいことがある。お前らと同じ、四天王のダークエルフはどこにいる?」

 シュンゾウは俺の方をチラッと見て、

「失せろ。邪魔だ」

 そう言い、再び釣りに専念した。

 くそ、こうなったら力づくで——そう思った俺はキプトベントを取りだした。

「アクティ......」

 今まさに、キプトベンプを使用しようとしたその時だった。

「ウィップバイン!」

 リブの声が聞こえ、俺の腰は蔓で巻かれ、身体は宙に浮かび、リブの元まで一気に引き寄せられた。

「リブ、お前何するんだ」

「兄貴、お腹見てみ?」

 リブにそう言われ、自分の腹を見ると、浅い切り傷が刻まれていた。今更ながらチクリと腹部に痛みが走った。

「なんだ......これいつ付いたものだ?」

 シュンゾウの方を見ると、右手には日本刀の柄を握りしめており、左手には鞘を握っていた。

「まさか、日本刀で?」

 俺がキプトベンプで攻撃を仕掛けたようとした時、確かに日本刀は地面に置かれていて、シュンゾウは釣りをしていた。

 あの一瞬で抜刀し、俺に攻撃を仕掛けたってことか。速すぎる。

「かなりの早さだね。私の助けがなければ、兄貴真っ二つに斬られてたよ」

「あ、ありがとう。リブ」

 今更ながら恐怖感が湧いて来た。しかし、シュンゾウってやつ、かなり強そうだ。ディンゴと同等、いやそれ以上か。

「お前ら、鬱陶しいからまとめて殺してやるよ」

 ものすごい迫力でシュンゾウが宣言した。静かな声なのに得体の知れない圧迫感がある。

「ほう、この人数で勝てるってのか?」

 アレスは挑発するようにそう言った。

「まぁな。そんじゃ、そこの金色鎧野郎、お前からいくぞ」

 シュンゾウは一瞬でアレスとの間合いを詰め、日本刀で斬りかかった。

「く!」

 アレスはなんとか、シュンゾウの動きに反応し、日本刀を剣で受け止めた。

 さらにシュンゾウは驚異的なスピードで斬撃を繰り返すが、アレスも負けじと防いでる。 

 カキィン、カキィンと何度も刃物と刃物がぶつかり合う音が耳に鳴り響いてくる。

 ものすごい戦いに思わず目を奪われた。

 シュンゾウの攻撃もすごいが、ギリギリのところで防ぐ、アレスもまたすごい。

「なぁ、メシアス、シリウス。手助けしなくていいのか?」

 黙って戦いを見ている二人に尋ねた。

「無理よ。二人の距離が近すぎて、魔法を放ったら、アレス様も巻き添えになるから。ある程度距離を取れたら魔法を使えるんだけど」

 そう答えるメシアスだった。シリウスは黙って二人の戦いを見つめている。

「それにしても、すごい戦いだねぇメシアス。なんかワクワクしてくるよ」

 ミルフィはまるでプロ野球ゲームでも見ているかのように楽しそうに二人の戦いを眺めていた。

「なぁ、ミルフィ」

「ん? なんだい、レイン」

 ミルフィが俺の近くにやってきた。気になっていたことがあるので、ミルフィに訊くことにした。

「ミルフィ、シュンゾウから魔力を感じるのか?」

「うん、ものすごい魔力を感じるよ」

 そう答えるミルフィ。ということは......

「ってことは、あいつも魔法を使えるってことか?」

 メシアスとシリウスははっと、こちらの方を見た。

「そりゃぁ使えるでしょ。魔王軍の四天王なんだし」

「まじか......」

 今の所、日本刀の攻撃だけで魔法を使っている様子は微塵も感じられない。つまり、まだ本気ではないのだろうか。

 いくら攻撃してもアレスにダメージを与えることができないと考えたのか、シュンゾウはアレスと一度、距離を取った。

「いやぁ、結構強いなアンちゃん」

「そりゃどうも」

 ハァハァとアレスは息を切らしていた。対して、シュンゾウはあれほどの動きをしていたのに全く息を切らしていない。


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