隈ベアー
「わ、分かったよ......」
シリウスもメシアスを制してくれた。
二人の様子を見ていたアレスは、
「まぁ、あれだな! ここはダンジョンを共にこなして仲良くなるしかねぇよな。それじゃ、ちょっくら依頼を探してくるわ」
椅子から立ち上がり、依頼を探しに行った。
「おい! 見つけたぞ!」
すぐに戻ってきた。手には依頼の内容が書かれている紙を持っていた。
「これだ!」
アレスは机の上に依頼表を置いた。
「えーと、なになに......」
俺はしっかりと依頼表に書かれている内容を確認した。
「迷宮の森での魔王軍の討伐依頼?」
内容は迷宮の森で屯っている魔王軍を討伐して欲しいという内容だった。リブの水晶で魔王の手先がいることは分かっていたが、水晶を使うまでもなく、迷宮の森に魔王軍がいることは他の人に知られているようだった。
「迷宮の森ってさ。いろんなモンスターが出て来て、冒険者には必須の場所だろ? 魔王軍が迷宮の森を占領していて困ってんだとよ」
アレスがクエストの概要について説明してくれた。
「迷宮の森か......ねぇ兄貴、私たちに呪いを掛けた奴と会ったら勝てるかな?」
とても不安そうな顔でリブが俺にそう尋ねた。
「リブ、大丈夫だ。今回は俺たちだけじゃない。アレス達もいる。そうそう負けないはずだ」
「ああ、そうだ。リブちゃんだっけ? 俺たちがいるから安心しな!」
アレスが自身満々にそう言うのを見て、リブは少し安心したようね表情を見せた。
「アレス様、さっそく迷宮の森に向かいますか?」
「そうだなメシアス。早いに越したとはない。早速、向かおう。レイン達もいいか?」
「ああ」
「はい」
「ええ」
「おっけ」
「うん」
俺はこくりと頷いた。妹達も準備ができているようだった。
俺たちはギルドハウスの外へと出た。リブがモンスターカードをトンガリ帽子から取り出した。
「出でよ! レッドドラゴン。『サモンズ』」
レッドドラオゴが俺たちの前に現れた。
「よーし、みんな乗って!」
リブにそう言われ、俺と妹達はレッドドラゴンの上に乗った。
「ほう、お前ら良いもん持ってるな」
アレスが感心したように呟いた。
「ごめんねアレスさん! このレッドドラゴンは五人用なんだ! これ以上はちょっと乗れそうにない」
リブがス◯夫のようなことを言い出した。リブはこの世界の住人だし、たまたまだよな? ものすごい奇跡じゃないか?
「余計な心配してんじゃないわよ! こっちだってあるんだから! 『サモンズ』!」
メシアスがモンスターカードを取り出し、呪文を唱えると、白い魔法陣が地面に発生し、大きなコウモリのような翼の生えた、雪のように白いドラゴンが出て来た。手足に長く鋭い爪が生えている。
「これが私たちの移動用モンスター、スノードラゴンよ! すごいでしょ!」
「ああ、確かにすごいな......」
確かにレッドドラゴンよりも一回り、大きくて迫力がある。
「さぁ、シリウスとアレス様も乗って!」
促されるまま、シリウスとアレスがスノードラゴンの背中の上に乗った。
「それじゃー迷宮の森に行くわよー!」
メシアスが叫び、
「おおー!」
リブがそう言って、腕を上げた。
レッドドラゴンとスノードラゴンは迷宮の森を目指して、羽ばたいた。
白い大きなハンヂーラ城を超えると、どこか不気味な樹々の集まりが目に入った。
あれがおそらく、迷宮の森だろう。
レッドドラゴンは徐々に下降しておき、地面へと降り立った。
「ついたよ。みんな」
リブの言葉を聞き、俺たちはレッドドラゴンの背中から降りた。
「ここが迷宮の森か......」
目の前には、日本で見る木よりもひと回りもふた回りも大きい木が立ち並んでいた。
「迷宮の森に入るのも久々だな。お前ら、俺が先頭を歩くからはぐれないようにしろよ!」
そう言うと、アレスが先頭を歩き始めた。
「ちょっと待ってくださいアレス様!」
慌てて追いかけるメシアスと、
「......」
無言でアレスについていくシリウスだった。
「私たちも行きましょうか」
「そうだね。グレシア。さてと、行こうか」
俺はその場で立ち止まっていた。
「お兄さん、行かないの?」
不思議そうな顔でフレアが訊いてきた。やれやれ、分かってないな。
「俺は一番後ろの方を行く」
「お兄ちゃん。なんで?」
「エリック。それはな。俺はあんまり強くないからだ。強いものは積極的に前線に出るべきだと思うが、強くない俺は後ろでサポートに徹しようと思うんだ」
すると、リブが頭を抱えた。
「はー、兄貴って本当情けないなぁ。もういいや。みんな早く行こう。兄貴! はぐれないように注意しなよ!」
「おう! 任せておけ!」
俺たちもついに、迷宮の森へと入って行った。
迷宮の森はジメジメとしていて中々蒸し暑かった。おまけに重い剣やら、マントやら身につけているため中々しんどい。
まぁ、俺の前にいるリブなんか、暑そうなリブを纏っているが平気なんだろうか。
「なぁ、リブ。お前、暑くねぇの?」
すると、リブが振り向き答えた。
「平気だよ。魔力で体内の温度を調整してるからね」
「へぇ......」
便利だな。そんなことができるのか。羨ましい。
「みんな止まれ!」
アレスの声が聞こえた。前方を確認すると、茶色い毛並みの大きな三びきの熊のようなモンスターが立ちふさいでいた。三びきとも目に隈がついていて、眠そうな表情をしていた。
「あ、あれは......」
「お兄様。あれは『隈ベアー』です。見境なく人に遅いかかる危険なモンスターです」
グレシアが説明してくれた。それにしても隈ベアーか。隈と熊をかけているのか。すごい名前だ。
「クマーン!」
可愛らしい鳴き声とは裏腹にものすごい形相で隈ベアーがアレスに襲いかかって来た。
「危ない、アレス!」
俺は叫んだが、アレスは全く動じない。
「オラァ!」
アレスが叫び声と同時に腰に刺さっていた剣を取りだし、たったの一振りで隈を真っ二つに切り裂いた。
上半身を失った下半身から、噴水のような血が溢れ出た。おぞましい隈ベアーの死体が残ると徐々に死体は消滅していった。
「うわぁ......」
「いや......」
「うへぇ......」
「ああ......」
妹達は顔を青ざめた。無理もない。俺もグロテスクな光景を見て気分が悪くなった。
「メシアス、シリウス。残りは任せた」
「分かった」
メシアスが頷くと杖を取り出し、詠唱を唱え始めた。
「空より高く、海より深い我が魔力よ。今こそ真の力を解き放て! 『デストロイアスフラッシュ』!」
メシアスの杖の先から茶色の魔法陣が発生するとその中から光の玉のようなものが発生した。ヒュンと隈ベアーの方まで飛んでいき、光の玉が隈ベアーに触れると、
「バースト!」
そう叫んだ瞬間、爆発が起こり、隈ベアーの身体がバラバラに飛び散ったあと、消滅した。かなり、グロテスクな光景である。
「ああああ、私もう無理。トラウマになりそう」
フレアが青ざめた表情をしながらしゃがみこんだ。
「だ、大丈夫か。フレア!」
俺は心配になり、フレアの元まで駆け寄った。そっと、フレアの肩に手を乗せた。
「お、お兄さん......もう大丈夫だから」
なぜか顔を赤らめたフレアは照れ臭そうに俺の手を払いのけ、立ち上がった。
「そうか、なら良かった」
再び、アレス達の方に目を向けると、シリウスが最後の一匹のクマベアーと向き合っていた。
「クマーン......」
隈ベアーは警戒しているようで、ジリジリとシリウスに近づいていった。
「おう、シリウスはでにやっちまいな!」
アレスは茶化すように手をパンと叩いた。
「はぁ......無駄に魔力を消費したくはないのですが。アレス様がそういうのなら。それじゃ、出でよ、我が精霊! 『スピリットコール』!」
シリウスの顔の前に、白い魔法陣が発生すると中から、翼の生えた白い猫のような生き物が飛び出して来た。
「やぁ! お呼びかい? シリウス」
猫のような生き物はシリウスの周りを飛び回りながら喋りだした。
「そ、それが精霊か? シリウス」
俺は初めて見る精霊というのを初めて見てテンションが高くなった。
「ええ、そうです。この子は私の契約精霊、ミルフィ」
「ミルフィだよ! よろしくね!」
陽気にミルフィが自己紹介してきた。
「レインだ。こっちこそ、よろしく」
「いやぁ、実は私も精霊、見るの初めてなんだよね。私はリブ、よろしく!」
「よろしくねリブちゃん!」
「クマーン!」
弛緩した空気を狙ったのか、隈ベアーが一気に叫び声を上げながらシリウスに迫って来た。
「あぶない!」
叫んだのはグレシアだった。グレシアは手をかざし、魔法を放つ体勢を取った。
「ミルフィ。力を貸して」
「アイアイサー」
ミルフィはシリウスの頭の上に乗った。そして、
「ウィニングスラッシュ!」
シリウスが腕を振り上げると、突如、風の刃のものが生まれ、隈ベアーを縦方向、真っ二つに切り裂いた。
真っ二つになった隈ベアーはバタンと倒れ、消滅していった。




