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ドクターアリス

「お兄ちゃんどうしたの?」

 俺の様子を見たフレアが不思議そうな顔をして訊いた。

「あ......いや、なんでもない」

 俺はごまかした。

「みんなーお医者さん連れてきてよ!」

 扉からリブが入って着た。みんなの視線が一斉に扉に集まった。

 リブに続いて短いスカートの白いナース服の女性が入ってきた。栗色の髪でスタイルが抜群の女性だった。この人がお医者さんか。随分、派手な格好をしているな。

「記憶喪失の疑いのある『レイン』って人は彼?」

 お医者さんが四人に尋ねた。ここで四人が兄と慕っている男の名前が分かった。

「はい。お兄様を診てください」

 グレシアが答えた。

「分かったわ。それじゃちょっと失礼するわね」

 そう言うと、お医者さんは俺の寝ているベッドに座り込んだ。

「ふふ......それじゃ、ちょっと失礼するわね」

 すると、お医者さんは俺の額に手を当てた。

「うーん、熱はないみたいね」

 何をしているんだ、この人。

「あの、お兄さんの記憶喪失について調べて欲しいんですけど」

 フレアが不機嫌そうに言った。

「ちょっと、身体に異常がないか調べたのよ。本格的に調べるからちょっと待ってね」

 すると、お医者さんは聴診器を取り出した。

「それじゃ、胸を出して」

 俺はそう言われ、しぶしぶ服をあげ、胸を出した。元の俺からすれば信じられないくらいたくましい胸板であった。

「ちょっと失礼するわね」

 そ言ういい、変な手つきで俺の胸に聴診器を当ててきた。

「ひゃん!」

 くすぐったくて思わず変な声が出た。

「お、お兄様が......記憶を失っているとは言えこんな情けない声をあげるなんて!」

「お兄さん、やっぱり記憶だけじゃなくてどこか悪くなったのかも」

「おそるべし、魔王の手先......きっと強烈な魔法だったんだね」

「兄貴を早くなんとかしないと!」

 四人それぞれが俺の様子を見て感想を言った。

 お医者さんは顔を近づけ、まじまじと俺の顔を見つめてきた。柑橘系の香水のような香りが鼻に入ってきた。

「心臓の音が激しいわね」

「さ、さいですか......」

「記憶喪失かどうか確かめるから私の質問に答えてね。それじゃ、私をここに連れてきた子の胸の数値を知ってる?」

「な......兄貴、そんなこと知ってるの?」

「知りませんよ」

「そう。それじゃ次の質問。そこの赤い髪の好きな人は誰でしょう?」

 なんなんだこの質問。絶対に記憶喪失関係ないだろ。

「お、お兄さん。知ってるの?」

 フレアが顔を赤くした。

「知りませんよ。そんなこと」

「そう。そういえば、自己紹介が遅れたわね。私は超天才ドクター、アリス。よろしくね」

「超天才って自分で言っちゃうんですか......」

 いやぁ、元の世界でいたなこういう奴。あからさまに自分の持っている容姿や能力に鼻をかけている女。

「まぁね。ちょっとあなた中々男前だから少しふざけちゃった。さて、本格的に調べましょうか」

 アリスは意地悪そうな顔をした。

「やっぱりちゃんと診断してなかったのか!」

「まぁまぁ。悪いけど他の人は出て行ってもらっていい?」

 アリスの提案に四人は明らかに不服そうな顔をした。

「どうしてでしょうか?」

 そう言ったのはグレシアだった。

「だってほら、あなたのお兄さんだって聞かれたくないことだってあるじゃない。ねぇ?」

 同意を求めるようにアリスは俺のことを見た。俺はなんとなく全ての事情をアリスに説明して見てもいいかもしれないと思った。この感じ、この人は何かを知ってそうである。

「ええ。まぁ......」

「お兄ちゃん、聞かれたくないことって?」

「すまないエリック。それは言えない」

「兄貴、それはどうして?」

「もうやめなさいエリック、リブ。アリスさんの指示に従いましょう。それじゃ私たちは部屋の外で待ってますので。ただし、お兄様に何かしたら許しませんから」

 静かな口調で言い放ち、四人は部屋の外から出て行った。

「あらあら怖い。あなたに何かしたらって何をするっていうのかしら。ねぇ?」

「さぁ......」

 とりあえず聞きたいことはたくさんある。

「妹さんからここに来る前に色々と聞いたわ。レインだったわよね。あなた、ここから目が覚める前、本当に何も覚えていない?」

「アリスさん。信じてもらえないかもしれませんが俺は目がさめる前、別の世界にいたと思うんです」

 俺はアリスが驚くと思ったのだが、表情一つ変えなかった。

「なるほどねぇ。それはどんな世界?」

「なんていうかその、この世界より文明が発達した世界です。」

 自分の説明下手さに恥ずかしくなったがこれが説明できる精一杯である。

「ふんふん。どんな機械があったのかしら?」

「例えば、馬なしで大きい走る車とか」

「なるほどなるほど」

 ふむふむと興味深そうにアリスは俺の話を聞いている。

「アリスさん。俺のこと頭おかしいと思いますか?」

「うん。まぁ」

「そ、そうですか......」

 即答だった。興味深く話を聞いているから何か知っているのかもと思ったが期待はずれかもしれない。

「ただ......あなたのような話をする人初めてじゃないわ」

「え?」

「私は職業柄、色んな国に行って、色んな患者と話すことあるんだけど、違う世界からやってきただの、地球という星からやってきただの訳の分からないこと言ってたわ。その人たちは大抵変わった服装をしているの。初めは私も信じてなかったんだけど、段々違う世界があるかもって思ってきたのよね」


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