ナデシコ
その日、俺たちはそのまま温泉の宿で寝泊りをした。勿論、俺と妹たちの部屋は別々である。
次の日、俺は気持ちよく目が覚めた。部屋の窓を開け、外を眺めた。
遠くの街を一望できた。街の上空にドラゴンが飛んでいるのが確認できた。優雅にそして自由そうに飛び回っていて実に楽しそうである。
白い着物から普段着に着替え、俺は食堂へと移動した。朝ごはんを食べに向かう。
「おはようございますお兄様」
「おはようお兄さん」
「おはよう」
「兄貴、おはよー」
四人が先に食事をしていた。大きめのテーブルに座っている。俺はフレアの隣に座った。
俺はフレアが食べている食事を見た。黒い器には白米に味噌汁、野菜の煮物、お魚と和風の料理が入ってあった。
「なぁ、食事ってどうやってもらうんだ?」
「頼めば、持って来てくれるよ。すみませーん! 料理一つ追加お願いしまーす!」
フレアが俺の分の食事を頼んでくれた。
「ありがとう。フレア」
「えへへ、いいよ。それくらい」
お礼を言われて嬉しくなったのかフレアが嬉しそうな顔をした。すぐにご飯が運ばれて来た。
「いただきます」
白米を一口入れた。なかなか、美味しい。他の四人は食べ終えたようである。
「いやー、おいしかったね。ペンドリアでは見ない料理だったよ」
フレアが満足そうに料理の感想を言った。
「そうね。本当に美味しかったわね。お兄様。私たちは先に部屋に戻っています。ロビーで待ってますので、食べ終わったら帰りの準備をしてロビーに来てもらっていいですか?」
「ん? ああ、そうだな。分かった」
「それでは失礼します」
グレシアたちが部屋に戻っていった。俺は料理を黙々と食べた。いやぁ、野菜の煮物とか、お魚とか日本にいた時を思い出すな。
しかし、俺は料理を食べていてふと思った。
さきほど、フレアはペンドリアではあまり見ない料理だと言っていた。
もしかして、これを作ったのはもしかして日本人なのではないかと。
すると、お店の人が俺の横を通りかかった。
「あの、すみません」
俺はお店の人を呼び止めた。
「はい?」
「この料理を作った人を呼んでもらってもいいですか?」
すると、お店の人が訝しんだ表情をした。
「あの、うちの料理に何か問題でもありましたか?」
「いえ、そういう訳ではありません。とにかく、この料理を作った人とお話をしたいんです。ダメでしょうか?」
お店の人は少し、考えたのち口を開いた。
「分かりました。少々、お待ちください」
暫くすると、小柄なショートで黑髪の女性がやって来た。割烹着を着用している。童顔をしており、見た目は俺よりも年下に見える。
そして、この人明らかに日本人っぽい。
「はじめまして、この料理をお作りしましたナデシコと言います。あの、うちの料理に不満がありましたか?」
ナデシコという女性は不安そうな表情で訊いてきた。
「あの、お尋ねしたいんですけど、もしかしてあなたは日本からやってきましたか?」
すると、ナデシコの表情が強張った。
「まさかあなたも......でも全然、日本人には見えませんね」
この様子だと、ナデシコは日本からやってきたようだ。
「俺も日本からやってきました。でも、やってきたのは精神だけだでこの身体はこの世界の人間の人のもので俺の精神がこの身体に憑依している状態なんです」
「えーと、イマイチ理解できないんだけど、幽霊みたいに乗っ取ってるってことですか?」
「ええ、まぁそんな感じです」
もっといい例え方はないのかと思ったが、今はひとまずおいておこう。
「なるほど......私も二年ほど前にこの世界にやってきました」
「聞きたいことがあるんです。ある人が言っていました。元の世界からこの世界に来た人はものすごい力を手に入れられるというのは本当なんでしょうか?」
「断言できませんけど、それは多分、本当だと思います。私もこの世界に来た時、色んな魔法を使えました。今はもう使えませんけど」
「え? それはどうして?」
すると、ナデシコは怯えたような仕草をとった。
「魔王が、私の魔法を奪い去ったのです。いえ、魔法だけじゃない! 私の大切なパーティも全て! 私は魔王と会って以来、冒険者をやめて、料理人に転職しました。もうあんな怖い目には合いたくないですから」
ナデシコは過去に魔王と会っているのか。これは貴重な情報をゲットできそうだ。
「あの、魔王ってどんなやつなんですか?」
「それは......ダメ、言いたくない!」
ナデシコは耐えられなくなったのか座り込んでしまった。
「そんな......頼みます! 教えてください。俺たちも事情があるんです!」
「い、いやよ! 魔王のことなんて、思い出したくもない!」
すると、他のお店の人がぞろぞろと集まってきた。
「お客様。うちのナデシコがお困りのようなので、そろそろお引き取り願えますか?」
中年くらいのお店の女性が静かに言い放った。静かな声だがどこか圧倒感がある声質である。
だが、ここで引けない。
俺はともかくとして、妹たちの命がかかっている。
「そうはいかない。俺の......いや、妹たちの命がかかってるんだ! 頼む! ナデシコさん、この通りだ! お金ならできるだけ出すから!」
俺は土下座をした。突然の行動に他のお店の人は戸惑っているようだった。この世界では土下座という概念がないのかもしれないが俺はつい土下座という行動を取った。
「あなた、なぜそこまで......」
「魔王の手先から俺と妹の身体に呪いを掛けられたんです。もう猶予は一ヶ月しか......何か少しでも手がかりがあれば知りたいんです」
俺の覚悟を読み取ったのか、ナデシコが俺に近づきこんなことを言った。
「分かりました。できるだけ、魔王に関する情報をお教えします。すみません、みなさん、もう大丈夫ですから戻ってください」
中年のおばさんを除くナデシコに戻るように言われたお店の人たちは自分の持ち場に戻って言った。
「ナデシコ、本当に大丈夫なのかい?」
中年のおばさんは心配そうな顔をして、ナデシコに訊いた。
「もちろんです。大丈夫だから、心配しないでください」
「分かったよ。あんまり無理するんじゃないよ!」
俺に帰れと言ってきた中年の女性は納得したようで厨房へと戻っていった。
「それじゃ、魔王のことを話しますか。その前にあなたのお名前を聞いていいですか?」
「俺の名前は龍ヶ峰剛です。よろしくお願いします」
「私も改めて紹介します。私の名前は小野撫子。元の世界ではシェフとして働いてまして。龍が峰さんは何をして働いていたんですか?」
「えーっと、実を言うとヒモをしてまして......」
誤魔化せばよかったのだろうが、つい本当のことを俺は言ってしまった。
「えーそうなんですか」
撫子は俺をまるでゴミをみるような目で見てきた。
「ちょ......そんな目で見なくてもいいじゃないですか!」
「いや、だって......さっき、あんなかっこいいこと言ってたからてっきり警察とか消防士みたいな職業だと......」
「あんな、危険で大変そうな職業、俺にこなせるわけがないでしょう。それよりも魔王のことを教えてください」
「はぁ......まぁ、いいです。それじゃ私が知っていること全て教えますね」
俺はナデシコから魔王に関する情報をいろいろと聞いた。




