修行をするかクエストをするか
「どうしたの、兄貴?」
突然、リブに話しかけられた俺は顔を上げた。
「え?」
「な......どうしたの、兄貴。泣いてるの?」
自分でも気がつかなかったが、俺の目には涙が浮かんでいたようである。
「あーいや、何でもない」
「みんなのバスト聞けて嬉しさのあまり泣いちゃったのかな? なんと、フレアのバストがFに成長してたんだよ!」
「バカ! そんな理由で泣くわけないだろ!」
ほう、フレア。そんなにあるのか。普段、あんまり胸が目立たないが、着痩せするタイプなのかもしれない。
「ちょっと、リブ辞めてよもう! ほら、お返しだ!」
フレアは仕返しとばかりにリブの胸を揉んだ。
「ひゃん!」
リブが不意打ちに対して、変な声を上げた。
「おおー? これは、中々だねぇ。これはDってところかな? うん」
「お、お前らな......とりあえず、俺はそろそろ上がるからな。のぼせないように注意しろよ」
俺は温泉から上がり、脱衣に向かった。
この温泉に来たことで四人のバストのサイズを知ることができた。だから、何だという話だが。
脱衣所で白い着物に着替え、俺はロビーで一人、ふかふかの長椅子に座ってくつろいでいた。
「お兄様。となりよろしいですか?」
グレシアが訊いて来た。他の三人もグレシアの横に並んでおり、全員、俺と同じような白い着物を着ている。
「ああ。いいぞ」
「失礼します」
グレシアが横に座って着た。他の三人はテーブルを挟んで向かい側の長椅子に座った。
グレシアから石鹸のようないい香りがしてきた。
「いい温泉でしたね。お兄様」
「そうだな」
グレシアの顔が近い。近距離に思わず胸の鼓動が高まった。
「お兄様。明日はどうしますか? クエストを受けますか?」
ダンジョンか。今日頑張ったからできれば休みたい。我ながら情けない考えである。しかし、時間に猶予がないのも事実だ。何せ俺たちには呪いが掛けられている。
「そうだな。何かクエスト受けるか」
するとリブが立ち上がった。
「みんなちょっとここで待ってて」
「え? ああ」
およそ一分後、リブが戻ってきた。手には水晶を持っている。
「リブ、それは......」
「うん、魔族の居場所が分かる水晶だよ。ちょっとこれを試してみようと思ってね」
以前、リブがマジックアイテム屋から買ったと言っていた水晶である。水晶は色んな色の光彩を放っており、神々しく輝いていた。
「そうか。いいんじゃない? リブ。これで魔族の居場所を探してみなよ」
フレアがリブに水晶を使うように促した。
「分かった」
コクリとリブが頷いた。椅子に座り、両手で水晶を持った。
「それじゃ、行くよ。『アクティベイト』」
水晶は眩い青白い光を放ち始めた。あまりの眩しさに思わず俺は目を瞑った。
やがて、徐々に光は消えていった。
「みんな、このマジックアイテムを使ったら迷宮の森が浮かんできたよ」
「なぁ、リブ。迷宮の森って......」
俺は四人がダークエルフのことについて語ったときのことを思い出した。
「うちらに呪いを掛けてきた、ダークルフと出会った場所だね」
いつもよりも低い口調でエリックが呟いた。
「でも、そのダークエルがそこにいるとも限らないのでしょう?」
グレシアがリブに訊いた。
「そうだね。この水晶は魔族全般に反応するから、下っ端かもしれないし、魔王本人かもしれない。でも、何か手掛かりは掴めると思う」
「そうか。なら明日、回復薬とか色々必要なものを準備して、明後日、そいつのところへ向かおう」
俺はそう提案したが、リブが不服そうな顔をした。
「明後日だともう、迷宮の森から離れてるんじゃないかな?」
「仮に迷宮の森から離れてても、またその水晶で居場所を探せばいいだろ。遠くに移動していたとしても、俺たちにはレッドドラゴンがいるし、すぐに魔族のいる場所まで辿り着けると思う」
「それもそうだね。兄貴の言う通り、急がなくてもちゃんと準備してから明後日に討伐に行った方がいいと私も思う」
フレアが俺の意見に納得したようだった。キプトベンプをダメにしたから買い直したい。というか、予備にいくつか買っておいてもいいな。
すると、エリックが身を乗り出してきた。
「いや! それよりもさ、うちら修行すべきだよ!」
突拍子も無いエリックの提案に俺は思わず目を丸くした。
「しゅ、修行?」
「そう。今の私たちでは多分、あのダークエルフに勝てないからさ。修行したほうがいいと思うんだ」
「だけど、猶予は一ヶ月もないのよ。修行立ってせいぜい、三週間くらいが限度じゃないかしら」
「いや、エリックの言う通りかも。三週間でも修行はしておいた方がいいかもね」
リブがエリックの意見に賛同した。
「けど、修行たって、何をするんだよ?」
修行。バトル漫画ではよく聞く話だが、実際にするとなると検討がつかない。亀の甲羅を背負って山を走ったりするのだろうか。嫌だなぁ。
「別に特別なことする必要はないんじゃない? ひたすら、高めのクエストを受ければ自然と力がつくと思うよ」
「分かってないな。フレアは。いくら戦闘技術をあげても基礎能力を上げないと、奴には通用しないんだよ」
エリックがフレアに言い返した。
「そんなこと言ったってさ、いくらなんでも一ヶ月もないのに基礎能力をあげるなんて無茶だよ」
「まぁまぁ、二人とも。ダンジョンに行く日と修行をする日を決めて活動する。これでどうかしら?」
グレシアが二人の意見を汲んだ案を出した。
「まぁ......それなら」
「私もそれでいいよ」
二人はなんとか納得したようだ。
「マジックアイテム屋に魔力を引き上げる薬があるから明日、買ってくるね」
そんな薬があるのか。すごいな。プロテインかよ。
「そんな便利な薬があるのか」
「そうだよ。結構、高いけどね。でも、命がかかってるからいいよな」
「そうだな。遠慮なく買おう。なぁ、リブ。身体能力をあげる薬もあるのか?」
「一応あるよ。魔力が上がる薬よりも高いけどね」
まじか。あるのか。なんて便利な世界だろう。
「でも、薬で力が上がるのも限界があるからね。一定レベルまで行ったら、自分で修行してあげるしかないんだよ。まだ私たちは伸びしろあると思うけど」
そう簡単にはいかないか。しかし、少しでも力を上げておくに越したことはない。
「そうか、分かった。俺もマジックアイテム屋に行こう」
「兄貴も随分とマジックアイテム屋行くの好きになったね」
呆れたような顔でリブは俺の方を見た。
「まぁな」




