四人の妹
「えーと......」
辺りを見回すと、四人の女性が俺のことを見つめていた。
「き、君たちは?」
「な、何を言ってるの? お兄さん、私だよ? フレアだよ!」
フレアと名乗る少女は自分を指差した。フレアはそこそこ長い赤い髪とルビーのような綺麗な瞳をしており、赤いドレスという格好をしていた。
「お兄様、私たちのこと覚えていないのですか? グラシアですよ。いつも私の作った料理を食べているじゃないですか。忘れてしまったのですか?」
肩までかかる水色の長い髪とサファイアのような瞳、白いドレスを纏った美しい少女が悲しそうな口調でそう言った。
「す、すまない」
俺は申し訳なくなり謝った。
「どうやら、お兄様は記憶喪失になってしまわれたのですね」
記憶喪失というか何か四人は勘違いをしていると思うのだが。確か、俺はトラックに轢かれたよな。
「本当に思い出せない? うちの名前?」
四人の中で最も背の低く、金髪のツインテールでオレンジ色の瞳をした黒い革ジャケットとショートパンツを着ている、いかにもミュージシャンっぽい格好の少女が訊いた。
「ごめんな。思い出せない」
そう言うと、その少女は不服そうな顔をし、壁にかかっているギターを取り出した。
「エリックだよ、エリック! この演奏覚えているよね?」
すると、エリックは演奏を弾き始めた。ロック調の音楽であまり普段音楽を聴くことは少ないのだが、見事な演奏だと思った。
「なんか聴いたことあるかも......」
全く聴いたことないのだが、気をつかって嘘を言った。
「兄貴、嘘でしょ? 全然覚えてないんじゃない?」
緑色のローブを身にまとった短い緑色の髪と翡翠の瞳をした少女が突然、話しかけてきた。
「お兄ちゃん、そうなの?」
エリックは訝しんだ顔をして訊いてきた。
「い、いやそんなことは......」
俺は明後日の方を向いた。すると、緑の髪の少女が俺の顔の前に手をかざして着た。
「な、なんだ?」
「ウィップライディテクター」
緑の髪の少女がそう唱えると、彼女の手から鞭のようなものが出てきた。
「な......手から鞭が!」
俺は驚いて声を上げた。これはなんだ? マジックの一種か何かか?
「リブの魔法だよ。お兄ちゃん、それすらも忘れちゃったんだ」
エリックは顔をしかめながらそう言った。
それにしても魔法? 本当なのだろうか? トラックに轢かれてあの世にでも辿り着いたのだろうか。
「兄貴、それじゃ今から質問するからイエスかノーで答えてね。嘘を言っていたらこの鞭が揺れるから」
リブが先ほど発動した魔法の説明をした。他の三人が静かに見守っている。なんか怖い。
「それじゃ、いくよ。兄貴はエリックの音楽のことを覚えていた? イエスオアノー?」
俺はごくりと唾を飲み込み答えた。
「い、イエス!」
すると、リブの掌から出ている鞭は大きく揺れた。エリックの方を見ると、彼女の肩はフルフルと震えていた。
「お、お兄ちゃん! 嘘だったんだね! 私の演奏も綺麗さっぱり忘れちゃってたんだね!」
キッとエリックは俺のことを睨みつけていた。
さらに、信じられないことに、エリックの身体の周りにバチバチと電気がほとばしっていた。リブのさっきの魔法といい、これはもう魔法を信じるしかないかもしれない。
「お、落ち着け! エリック!」
俺はエリックの怒りを沈めようと必死になった。こんなことなら、何も覚えておりませんとどっかの県議会議員のように誤魔化せばよかったと後悔した。なまじ、気を使おうとしたからこんな結果になってしまった。
「こうなったら強い電撃をかけて記憶を呼び覚ましてやる!」
バチチチとさらのエリックの体に纏っている電気が大きくなった。
「コラ! やめなさいエリック! 記憶喪失になったんだからしょうがないでしょ! お兄様もエリックがショックを受けないよう気をつかってくれよのよ!」
俺の隣にいたグレシアがエリックを叱りつけた。グレシアの体から白い光が発光しており、突然、肌寒くなった。
「だ、だって......お兄さんが......」
エリックはバツが悪そうな顔をした。
「とにかく、記憶喪失だからお医者さんにきちんと見てもらいましょ。リブ、悪いけど家にお医者さんを連れてきてもらっていい?」
「あいよー」
リブはお医者さんを連れて来るために家から出て言った。
「さてと......お兄様、正直に答えて。何か覚えていることはない?」
「確か、俺はトラックに轢かれたと思ったんだが」
すると、俺以外の三人は不思議そうな顔をした。
「お兄さん、トラックって何?」
「え?」
トラックを知らないだと。となると、おそらくこの世界にはトラックがないのだろう。
「大きい車のことだよ」
ざっくばらんにトラックを説明した。
「お兄ちゃん、それって馬車のこと?」
エリックが不思議そうな顔で訊いた。
「え? ああ、まぁ......」
「お兄様、記憶が錯乱しているます。お兄様は馬車に轢かれたのではなく、魔王の手先に攻撃を受けて倒れたのですよ」
「魔王の手先?」
グレシアの話によると、四人で魔王のお城へ向かった途中、迷宮の森という場所で魔王の手下に襲われたらしい。
俺は魔王の手下から攻撃を受けて気絶してしまい、三人がこの家に連れて帰ってきたそうである。
それにしても魔王の手下ね......さっき見た魔法といい、この世界はファンタジーの世界か。これがあの世、いやまるで『異世界』というべき存在なのかもしれない。
俺は状況を整理した。
まず、元の世界で俺はトラックに轢かれた。それによってこの世界に移動した。しかし、なぜか俺には四人の妹がいる。
「なぁ、手鏡ってあるか?」
「え? うん」
フレアが手鏡を渡してくれた。俺は手鏡の映る自分の顔を確かめた。
「な......」
俺は驚きのあまり声を上げそうになった。鏡に映る自分はどうみても前の世界にいた時の俺ではなかった。
男にしてはやや長めの茶色い髪、精悍で整った男らしい顔立ちをしていた。
カッコいい。同じ男でも思わず『兄貴』と呼びたくなる男らしい顔をしていた。




