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2-5 双撃の雪山

「……結構吹雪いていますね」

 

「確かにな……予想よりも、少し早かったな」

 

 ローネは顔を若干曇らせて、少し悩んだ素振りを見せる。

 

「どうか……したんですか?」

 

「……あぁ。ここがただの雪山なら、この吹雪の中を突っ切って行っても良かったかもしれない。ただ、この雪山には……吹雪の時のみ現れる、厄介なモンスターがいる。そいつと会うのはできる限り避けたい。ここは洞窟の中に戻って隠れた方が……」

 

 良いかもしれない、そう続けたローネだったが、その声は。

 

『ドォォォォォォォォ!!』

 

 吹雪を切り裂くかのような咆哮に、掻き消されたのだった。

 

「な……何ですかこれ!?」

 

 大気と共に内臓まで揺らすかのような咆哮に驚いたキャロルは、思わずローネに張り付いた。

 

「近いな……補足された可能性もある。仕方がない、急いでここから離れるぞ。俺達の位置が既にあちらにばれていた場合、このままここにいたら、最悪俺達が洞窟の中に追い込まれて身動きが取れなくなる。……行くぞ!」

 

「は、はいっ!」

 

 全力で走り出したローネを、キャロルもまた泡を食ったかのように追いかける。

 

「はぁ、はぁ、はぁ……! ろ、ローネさん、待って……!!」

 

 暫くはローネについて行けたキャロルはだが、吹雪による視界の悪さと、雪に足を取られることで、次第にローネから距離が離れていた。

 それに気づいたローネは急いでキャロルの駆け寄り……その矮躯を抱きかかえる。

 

「ろ、ローネさん!?」

 

「少しの間だ、我慢しろ」

 

 ローネはキャロルを抱きかかえたまま、全力で疾駆する。


「私を抱えながら、こんなに早く……!?」

 

 ローネの走る速度は、驚異的なことに、一人で駆けていた時とさほど変わりはなかった。

 

「舌を噛む。黙っていろ……!!」

 

 ローネは走る、走り続ける……だが。

 

「チッ……追いつかれたか」

 

 ローネはキャロルを抱きかかえたまま、大きく数メートルほど跳ね飛んだ。

 

「きゃぁ!? ……えぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」

 

 突然の大跳躍に、ローネの腕の中にいるキャロルは小さく悲鳴を上げた後、大きく声を上げた。

 何故なら二人の目の前の地面が、雪ごと盛り上がり……雪塊を弾きとばしながら、巨大なモンスターが現れたからだ。

 キャロルくらいの身長の人間なら丸呑みにできそうな程に、長くも巨大な口。

 上顎と下顎からは乱杭歯がはみ出し、黄色い瞳が猛吹雪の中でも存在感を放つ。

 体長は十二メートル前後の白い体躯で、それが大木の如き四本脚に支えられ、二股に分かれた長い尾を持っていた。

 

「おっきな……ワニ!?」

 

『ドォォォォォォォォォ!!』

 

 二人の前に現れた大型のワニ型モンスターは、獲物を見つけた喜びに、低くも大きな咆哮を上げた。

 

「B+ランク……ティスノホワイト、やはり現れたか」

 

「ティスノ……ティスノって、あのティスノですか!?」

 

 巨大なワニ、ティスノホワイトを見据えるローネに、キャロルが反応する。

 キャロルが言うティスノとは……ペットにもされる、小さなワニだ。

 くりくりとした瞳が愛らしいそのワニだが、眼前のティスノホワイトのように巨大でもないし、二股に分かれた尾も持ってはいない。

 だが、ローネはキャロルに首肯を返す。

 

「そうだ。あのティスノホワイトは……通常種のティスノの近縁種であると言われている。あのティスノの祖先がどう進化したらこのティスノホワイトになるかを、一度学者に聞いてみたい気分だ」

 

「う、嘘!? ……いつかティスノを飼ってみたいと思っていたのに、怖くてもう飼えません……」

 

 キャロルはショックを受けていた。

 

「さて、俺がこのティスノホワイトと遭遇したくなかった理由だが……理由は二つある」

 

 ローネはキャロルを降ろして、自身の後ろに下げる。

 

「一つはティスノホワイトの体色が白いお陰で、吹雪に隠れて見えにくい上に、さっきみたいに地面に潜って奇襲を仕掛けてくるから、相手をするのが非常に厄介なこと。そして、もう一つは……」

 

 ローネは背嚢を投げ捨て、腰から夕暮を引き抜いて低い声を出す。

 

「俺達が骨からツルハシとショベルを作ったあの場所……実は、あそこはあぁ見えてティスノホワイトの食事場だ。……キャロルも、あの骨達と同じ末路は辿りたくないだろう?」

 

「あそこ、そんなに危ない場所だったんですかーーーー!?」

 

 衝撃の事実にキャロルが目を剥いた途端、ティスノホワイトの巨体が二人に飛び掛かった。

 

「避けろ!」

 

「わ、分かりました! ……きゃっ!?」

 

 二人は二方向、別々の方向に回避する。

 しかし、キャロルは雪に足を取られ、逃げる途中で思い切り転んでしまう。

 ティスノホワイトがキャロルを追いかけようとした瞬間、ローネは隙だらけのティスノホワイトの後ろ脚に斬りかかる。

 全身が鱗で覆われているとはいえ、ティスノホワイトの体全体はそこまで硬くはない。

 寧ろ、鱗の下は脂肪なので、意外と柔らかいのだ。

 

『ドゥゥゥゥゥゥ!!』

 

 ローネが斬りつけた傷から噴き出た血液が、白の大地を赤く染める。

 決して軽くはない一撃によってもたらされた痛みに、ティスノホワイトが怯む。

 その一瞬の隙に……ローネは魔力を解放する!

 

「燃え猛ろ……夕暮!!」

 

 爆炎を纏い、赤の刃を形成した夕暮は、その刃の付近に降り注ぐ雪を瞬く間に蒸発させる。

 

「ハァッ!!」

 

 三連の斬撃によってティスノホワイトの後ろ脚の腱を焼き、機動力を大幅に削いだローネは、後ろに飛び退いてその場から離脱する。

 

『ドォォォォァァァァ!?』

 

 ティスノホワイトは激烈な痛みを覚えつつも、ローネに向けて二股の尾をそれぞれ叩きつける。

 だが、ローネは既にそこにはいない。

 気が付けば、ローネはタン、という快音と共にティスノホワイトの片方の尾に飛び乗り……もうひと飛びで、その背中へと瞬時に移動する!

 

「このまま……斬り伏せる!!」

 

 ローネはティスノホワイトの背を自由自在に跳ね回りながら、白の鱗を赤く染め上げる。

 

『ドゥァァァァァァァァァァ!!』

 

 ティスノホワイトは激痛から逃れようと、ローネを振り落とさんと大きく暴れる。


「クッ……!!」

 

 振り落とされれば多大なダメージを受けることは間違いなく、ローネは刀を突き立て、必死にその背に体を固定する。

 

「暴れるな……! 爆竜刃バーナーブレード!!」

 

 ローネは魔法によって、夕暮を持っていない方の手の中に爆炎の刃を生成し、そのままティスノホワイトに突き刺す!!

 

『ドァァァァァァァ!?』

 

 体を内側から焼き尽くされる激痛に、ティスノホワイトは体を折り曲げ、その動きが小さくなるが……それと同時に、体表が氷で覆われだす!

 

「……!!」

 

 その場にいては自分も凍り付く可能性があると判断し、ローネはティスノホワイトの背から飛び退く。

 

『ドォォ!!』

 

 ティスノホワイトは棘の付いた氷の鎧で全身を武装し、咆哮と共に、ローネに突進をする!

 文字通り雪崩と同等の破壊力を持つその突進は、凍てついた岩盤を粉砕しながらローネに迫る。

 その巨体故、ティスノホワイトそのものが、回避不可能な必中の一撃と化す!

 ……というのは、相手が普通の冒険者であった場合の話だ。

 少なくとも、その攻撃すら読んでいたローネには……当たらない!


「お前から逃れられない……というのは、あくまで地上での話だ!!」

 

 ローネは夕暮の纏う爆炎を螺旋状に凝縮させながら、地面に突き立てる。

 そしてそのまま……暴発気味に魔力を解放し、夕暮を中心に小爆発を起こす。

 

「これなら、突進も意味をなさない!!」

 

 爆風と衝撃、そして魔力を通して爆炎の推進力を操り、直上十メートル程に飛び上がったローネは、真下を通過するティスノホワイトの背に着地する。

 

「そして、もう一発……!!」

 

 ローネはティスノホワイトに夕暮を突き立て……ゼロ距離での爆発を叩き込む!!

 ティスノホワイトの分厚い氷の鎧が、その下の鱗諸共爆ぜる。

 それに加え、ティスノホワイトは多大なダメージで全身の鎧を維持できなくなり、総身から氷が剥がれ落ちる。

 

『ドォォォォォォォォォ!!??』

 

「こいつ、一旦態勢を立て直す気か……?」

 

 短時間で予想以上のダメージを負ったティスノホワイトは、その頭と前脚を使い、ローネが侵入できない地下へ逃れようと、潜行を開始する。

 ティスノホワイトに地下へと潜られたが最後、足元から奇襲を受ければ、さしものローネであってもひとたまりもない。

 だが……それをさせまいとする者が、ここに一人。

 

「お願い、絡まって!!」

 

 キャロルは捕縛紐をティスノホワイトに四本投げつけ、前脚と胴体に絡ませ……その動きを一時的に制限する!!

 

「ローネさん、今です!」

 

「……分かった!」

 

 一瞬目を見開くローネだったが、すぐに攻撃を再開する。

 

「ラァァァァァァァァァァ!!!」

 

 ローネは斬撃を強め、速め……ティスノホワイトの体をズタボロにしにかかる。

 ……否、それだけにとどまらない。

 斬りながらも開放する魔力の量を増していき、それと比例するかのように、夕暮の纏う爆炎が大きくなる。

 

『ド、ドドォァ……!』

 

 もがき続け、ティスノホワイトはようやく全ての捕縛紐から抜け出すことに成功する。

 ……もっとも、それは遅すぎる脱出と言わざるを得ない。

 

「この一太刀、受けろっ!」

 

 ローネはティスノホワイトの背中から喉元へと瞬時に回り込み……爆炎の刃で、頭上の喉を一閃する!

 

『ドヒュゥ……ヒュゥ……』

 

 その喉元から、ティスノホワイトの生命維持を支えていたモノが大量に滴り落ち、雪を溶かして赤い池となる。

 

『ドゥ……ォォォ……』

 

 ティスノホワイトは最後に、喉元にいるローネではなく、自身から少し離れたところにいる、雪のように白い少女の姿を目に焼き付けてから……その巨体を横たえ、力尽きた。

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