2-2 双撃の雪山
日にちまたいでしまった……というわけで本日は2回投稿です!
「うわぁ! 本当に……寒いっ! くしゅん!」
洞窟の入り口から見える雪山の景色に、キャロルはしゃぎながらも小さくくしゃみをした。
キャロルの格好は少し厚着をして、その上に革の鎧を装備している状態だ。
だが、それでは少々どころか結構、防寒の面で不安がある。
そこで一応ということで、ローネはキャロルに一つ聞くことにした。
「キャロル。ちゃんと炎蛾鉱石は持ってきたか?」
「……えんがこうせき? 何ですかそれ? これから採取しに行く氷蝶鉱石の仲間ですか?」
それを聞いた時、ローネは頭を抑えたくなる衝動に襲われた。
「確かに仲間ではあるが……キャロル、俺は雪山に行く準備を、と言ったんだが……」
「だから、防寒着を準備してきました!」
ローネは今度こそ頭を抱えた。
「……キャロル、冒険者になってどれくらいだ?」
「うーんと……半年です!」
「半年も冒険者をやっているのに、炎蛾鉱石を知らない……いやまさかお前、平原以外のエリアに来るのは……初めてか?」
「……? えぇ、そうです!」
キャロルは不思議そうな顔をしたが、不思議そうな顔になりそうだったのはローネも同じであった。
まさかローネも、キャロルがそこまでの駆け出し冒険者であるとは思わなかったのだ……しかし。
──いや、各エリアの特色や、必須アイテムを教えなかった俺の落ち度か。
「……すいません。言われた通りにしたつもりでしたが、準備するものを間違えましたか?」
不安そうにするキャロルに、逆にローネが謝った。
「いや、すまん。詳しく言わなかった俺のミスだ。足りないものは、俺の予備でどうにかするから問題ない」
ローネは異空間……ハンガーから炎蛾鉱石を取り出し、キャロルに与える。
「それが炎蛾鉱石だ。見た目は赤いだけの石だが、そこに強い衝撃や、こうして魔力を加えてやると……よしどうだ、暖かいか?」
「温いです!」
この炎蛾鉱石は使用者の体温を上げ、適温に保つ効果を持った魔法石だ。
雪山などの寒冷地に行くなら、この炎蛾鉱石は必須アイテムとなる。
「それなら、それは絶対に落とさないようにしまっておけ」
キャロルは炎蛾鉱石を懐に入れ、何度か跳んで落ちないことを確認する。
そんなキャロルの様子に、ローネは微笑ましいものを感じていたが……すぐに顔を引き締める。
「準備ができたのなら行くぞ。氷蝶鉱石は山頂近くにある洞窟で採集できる。……だがその前に、行くべき場所がある」
ローネは洞窟を出てから、山の少し上を指さした。
「山頂の下の辺りに、崖があるだろう? そこに用事がある」
「ハァ……ハァ……」
最初の目的地である、崖の下に何とか着いたものの、その時にはキャロルの息が大分切れていた。
「どうしたキャロル、大丈夫か?」
「まだまだいけます。依頼は……始まったばかりですから!」
キャロル本人はそう言うものの、傍目から見れば慣れない山登りで、かなり疲れているようだった。
「……キャロル、これを飲め。疲労を抑えるポーションだ」
「いや、でも……」
炎蛾鉱石を貰ったことに負い目を感じているのか、キャロルは遠慮気味だった。
だが、ローネはポーションを押し付けるようにして渡す。
「ここでお前にへばられると、俺の方も困る。今日はまだまだ始まったばかりだ。だから、これを飲んでしっかりと頑張ってもらう」
ローネの言うことがもっともだったこともあり、キャロルはしぶしぶといった雰囲気で、ローネからポーションを貰うのだった。
「……分かりました。それでは、いただきます」
キャロルはポーションを一息に飲み干し、薬瓶をローネに返す。
ローネは薬瓶をハンガーにしまいながら、キャロルに説明を始める。
「ここに来た理由についてだが、この崖のあちらこちらに、凍った骨が見えるだろう。それを使って、氷蝶結晶を掘り出すツルハシやシャベルを作り出す」
「……骨なんかで、ツルハシやシャベルが作れるんですか? 仮に作れたとしても、強度に難がありそうな気がしますけど……」
半信半疑のキャロルに、ローネは「大丈夫だ」と力強く返す。
「ここにあるのは、全てモンスターの骨だ。体内に魔力を持つモンスターの骨は強力な上、これだけカチカチに凍っていれば、下手な鍛冶屋が打った鈍よりも硬い。それに前にも言ったが、冒険者なら現地調達した素材からアイテムを作り出す技能は必須だ。今回は、その練習だと思ってもらえればいい」
ローネに骨と骨を縛る紐を渡されたキャロルは、暫くの間、ツルハシとシャベル作りに励むこととなった。
「うーん、形は……これがいいかも。でも少し大きいから……剣で小さくしようとしても……はぁ、硬すぎてだめよね……」
キャロルがツルハシ作り初心者であることもあるが、あまりに時間が掛かっていたため、ローネは既にツルハシを五本とシャベル二本を作り上げ、ハンガーに放り込んでいた。
「キャロル、使いやすさを選んでいたら、日が暮れてしまう。だから、最初は最低限使えればいいくらいに考えて作れば良い。……今回はもう時間がないから、俺のものを貸そう」
「……ありがとう、ございます」
ツルハシすらまともに作れなかったキャロルの表情は暗いが、それでもローネは「問題ない」とキャロルを励ます。
「これから同じパーティーでやっていくんだ。今できなくても、いつかできるようになってくれればそれで構わない」
「でも……今の私は、おんぶにだっこです」
それを聞いたローネは、朝は少し言い方が悪かったか、と反省した。
「それは仮に、キャロルが怠けておんぶにだっこになったら嫌だ、という意味で言っただけだ。できないことが多くても、一生懸命やっている人間に腹を立てられるほど俺は偉くもないし、そんなことをするような馬鹿でもないつもりだ」
ローネは自分の肩くらいにあるキャロルの頭を、できるだけ優しく撫でてやった。