2-1 双撃の雪山
翌朝。
ギルドのシャワー室から出て来たキャロルと、朝食をギルドでとっていたローネは、ばったりと顔を合わせた。
「あ、ローネさん! おはようございます!」
元気に手を挙げるキャロルに、ローネも軽く手を挙げる。
「おはようキャロル。昨日は結構辛そうな様子だったが、大丈夫か?」
「もう大丈夫です! それに……昨日はローネさんが休息室に運んでくれたんですよね。ありがとうございました!」
「あぁそれはいいんだが……少し、話がしたい。今から良いか?」
特に断る理由がなかったキャロルは、ローネとそのまま話をすることにした。
もっとも……キャロルの方にも、ローネに話したいことがあったのだ。
椅子に座ったローネは、キャロルと向かい合いながら、話を始める。
「その……何だ、キャロル。話について、なんだが……」
「……お願いがあります、ローネさん」
神妙な顔をするキャロルに、ローネは口を止めた。
そしてキャロルは、勢いよくガバッと頭を下げた。
「私の腕はまだまだで、実際、一昨日だってローネさんに会わなかったら多分……グレートブルーに、食べられていました。……でも、私は強くなりたいんです。今は無理でも、いつかは……金色の剣皇のように。だから……お願いです! どうか私に、冒険者としての力を叩き込んでください! お願いします!!」
キャロルはこの弟子入り志願にも似たセリフを、だめ元でローネに言った。
何故なら自分の目の前にいるローネは、ギルド長のオーフェン曰く、あの金色の剣皇と似通った実力の持ち主であるというのだ。
初心者セットの装備でBランクモンスターを容易に倒した腕前から……少なくとも、ローネのランクは最低でもA以上だろう。
そんな雲の上の存在の如き彼に、新米の自分がこんなことを言っても、如何に優しい彼だってきっと嫌がるだろう……と、そうキャロルは思っていたのだが。
「……分かった。実は俺も、キャロルの腕前について言おうと思っていたんだ。そしてキャロルを冒険者として鍛えるなら……そうだな。やはり、同じパーティーとして行動した方が良いだろうと思うが、どうだ?」
ローネのあまりにあっさりとした承諾に、逆にキャロルの方が椅子から転げ落ちそうになった。
「えっ……!? いいんですか!? それに、私とパーティーを組んでくれるって……!?」
「これもきっと、何かの縁だ。俺がお前を鍛えてやる……ただし。俺もお前をパーティーメンバーとして扱うから、おんぶにだっこは……あまりなしだ。……いいな?」
「ありがとうございます!」
千載一遇の機会を手にしたと感じたキャロルは、内心大喜びだった。
こうして……後に伝説となる冒険者パーティーのひな型が、ここに設立されたのだった。
***
「さて、まずは……雪山に行こうと思う」
壁に貼り付けられた依頼の一覧を見ながら、ローネはそう口にした。
「早速……雪山に行くんですか?」
「何か、問題でもあるのか? 何かあれば、遠慮なく言ってもらって構わない」
キャロルは思っていることを言葉にするべきかを一瞬だけ悩んだが、同じパーティーでこれからやっていくということもあり、ここは素直に打ち明けることにした。
「その……冒険者としての力を付けてもらうのって、最初は筋力トレーニングとかするのかな、って思っていたので……」
ローネは手を横に振り、「それは自分でやることだ」と返す。
「さっきも言ったが、俺はキャロルのことをパーティーメンバーの一人として扱うから、そういうことは自主的にやって欲しい。俺がお前に教えるのは、実戦的な技能が大半になるだろう。それと、あまりに酷い怠け方だと置いて行くことも考えられるから……覚悟しろ」
「は、はいっ! 気を付けます!!」
この時キャロルは、「ローネさん、実はスパルタ……!? でも、強くなるためには仕方がないよね!」などと思い、半ば恐々としていた……のだが。
一方のローネといえば。
──キャロルのために……体力回復用のポーションに加えて、疲労を抑えるポーションも持って行くか。後は一応、予備の防寒用アイテムなんかも揃えるか……。
ぶっきらぼうな物言いの割に、意外と……キャロル想いであった。
「今回受ける依頼は、狩猟ではなく採集にする。目的は、雪山でしか採れない氷蝶鉱石の採集だ。ちなみにこの氷蝶鉱石は、後で使う予定だから、少し多めに採集する」
「分かりました! それで……どんなものを持って行けばいいでしょうか?」
今回の依頼が採集目的である以上、採集用の道具を持って行く必要があることは、キャロルにも分かる。
だから、今回持って行くものは、採集道具が大半になる……そう、キャロルは思っていたのだが。
「今回は、防寒具などの雪山での活動に必要な物と、捕縛紐を容易しておいて欲しい。それと、ポーションは今のうちに渡しておく」
「は、はぁ……」
ローネから採集道具を用意しろと言われることは……意外にもなかった。
寧ろ、狩猟依頼でモンスターの捕獲や足止めに使う捕縛紐を準備しろと言われ、キャロルの疑問はより増していくだけだったが……ローネの言うことなら間違いないだろうと、彼女は言われた通りに、それらを買い集めることにした。
そして一時間後の出発に備え、二人はそれぞれの準備を進めるのであった。
一時間後。
ギルドの前でローネと待ち合わせをしていたキャロルは、ローネの姿に少しだけ驚くこととなった。
「ローネさん……鎧も武器も変えたんですか!? 特にその鎧、とっても綺麗ですね」
「あぁ。雪山用に変えてきた」
ローネの全身を包んでいるのは、昨日までの銅色の鎧ではなく……純白の鎧だった。
鋼とも違う輝きを見せるその鎧に、キャロルは興味津々である。
「雪山用に鎧を変えてきたってことは、やっぱりその鎧には何かスキルがあるんですか?」
武器や鎧にも、希少な鉱石類や金属類、更に強大なモンスターの素材を使うことで、固有能力が宿ることもある。
キャロルが言うスキルとは、それらの固有能力のことだ。
「この鎧には、氷属性の攻撃を半減して冷気を遮断する【氷結耐性】というスキルが備わっている。氷結湖という場所で倒した竜の素材が使われているから、きっとそういうスキルが備わっているんだろう」
「り、竜!? ……それって地竜種や水竜種じゃない、本物の竜種ですか!?」
キャロルがこう驚くのにも、理由がある。
通常、地竜種や水竜種ではなく、ただ単に竜と呼ばれるものは空を飛び、様々な属性を自主自在に扱う存在……俗に言うドラゴンを指す。
一般にはSランクは下らないとされる、強大な力を誇るドラゴンを討伐した者は、古くから勇者の称号を得ると言われ、冒険者達のあこがれなのだ。
「それに竜を倒したということは、ローネさんの腕前って……つまり最低でも、Sランク以上!?」
ローネの実力を最低Aランク以上と見積もり、それでさえ雲の上の存在と形容していたキャロルは仰天した。
「……俺のランクについてはまぁいい。それよりも、暴氷竜カルノトリム……あいつは中々に強敵だった」
「さ……流石はローネさん! 金色の剣皇とほぼ同じ実力と、ギルド長が言う訳です……!」
「……それはさておき、早く依頼を受けに行こう。準備はしてあるが、雪山での野営は疲れる。できれば、今日中には帰りたい」
ローネは受付カウンターにいるギルド職員に依頼を受ける旨を伝え、ギルドの奥にある転移魔法陣の上に、キャロルと共に立った。
平原などの比較的ギルドから近い場所での依頼は、冒険者の足で行くことになるが、雪山などのギルドから歩いて数日または一週間以上かかる場所には、ギルドの用意した転移魔法陣で移動をすることになる。
「それでは、依頼の成功を期待しております!」
ギルド職員の声と共に、二人は雪山のとある洞窟へと飛ばされた。