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カーテンを開けて何度目になるかわからない本を読み返す。卒業して3ヶ月がたった。桜の花はすっかり散って青々とした葉が茂っている。
私の病状はどんどん悪くなっていった。今日はなんだか体がだるくてベッドから起き上がることができない。
最初の一週間ぐらいは毎日志恩はこようとしたが面会謝絶をした。それがあの子のためだから。きっとこんな風にどんどん衰えていく私を見てたら伊作はショックを受けるだろう。
コンコンコン
ノックの音が聞こえた。
「はーい」
「・・・調子はどう?」
入ってきたのは賢二だった。
「変わらずだよ」
賢二は相変わらず週一ぐらいでお見舞いに来てくれた。そして私が見れない分学校であったいろんな話を聞かせてくれた。
「最近志恩はどんな感じ?」
賢二は椅子に座ると最近あった志恩の不運話を聞かせてくれた。
「それで、友達も巻き込んだの?」
笑いながら話を聞くこの時間が今の私の一番の楽しみだ。
「・・・物凄かったよ」
志恩は元気でやっている。そのことだけで胸が温かくなる。その後もたわいのない話をして賢二は部屋を出た。
「・・・またか」
賢二が部屋を出てすぐに私の目から涙が溢れた。いつもそうだ、賢二が部屋を出ると涙が溢れる。どうしようもないくらい寂しくて悲しくて仕方なくなる。
「う・・・うぐ・・・」
私はどうすればこの涙が止まるかなんてわからなくてただ涙を流し続けた。
「華さんお薬の時間ですよ」
「ありがとうございます」
日に日に増えていく薬に嫌気がさす。今日も朝から気分があまり良くなかった。だから本も読まずベッドに横になって窓から見える空をぼーっと眺めてた。前は良く志恩と鬼ごっことかしたなー。志恩大体転ぶからいつも私のポケットには絆創膏が入ってるんだよな。もう必要ないのに今も癖で病院で着ている寝巻きのポケットに絆創膏が入っている。
「・・・・・・・・・・・志恩」
コンコン
ノックの音が聞こえた。時間帯的に多分お母さんだろう。
「はい」
短く返事をして窓側の方に横になったまま空を見続ける。空は青くて綺麗でなんだか落ち着いた。
「・・・・・・・・・・・華」
思わず目を大きくした。その声は何度も何度ももう一度聞きたいと思っていた声で。私はゆっくりと寝返りをうった。
そこには苦笑いを浮かべて、何処かでまた転んだのか、少し汚れた高校の制服に身を包む志恩がいた。
「・・・・・・な、なんで志恩がいるの?」
私の声は震えていた。この震えが会えたことに対する歓喜なのか、志恩が来てしまったことに対する嘆きなのかはわからなかった。