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朝起きて髪を軽く整えてからバックに持っていくものを詰めていく。髪をゴムでゆったあとに上からミサンガを巻きつける。このミサンガは志恩と賢二の受験前に三人お揃いで作ったものだ。おとといから久々の一時帰宅。今日は卒業式の日。制服を着て鏡の前で軽く整える。
「華ー。志恩君きたよー」
「今行くー!」
走るとすぐに息が苦しくなってしまう私は走ることはできないけど、出来るだけ急いで玄関を出た。
「おはよう志恩」
「おはよう」
こんな志恩を見るのも今日で最後だと思うと寂しいものがある。
「志恩卒業式で泣きそう」
「泣かないよー。華こそ泣くんじゃない?」
「私は泣かないよ」
なんかこれが最後だなんて気しないなー。明日も明後日も明々後日もまた志恩と学校に行って賢二と話して過ごすんじゃないかって思える。だけど今日で最後なんだ、今日で終わりなんだ。
横を向くといつの間にかかっこよくなった幼馴染がいた。この子はいつの間にこんなにかっこよくなったんだろう。中学で賢二と共に女の子のうけが意外と良かったのは知っているのだろうか。
「どうしたの華。体調悪いの?」
「ううん、なんでもない」
「終わったな」
「うん」
卒業式も滞りなく終わり私と志恩と賢二は校門のそばで集まって話していた。
「あ、あの!大山君!」
声をかけられた方を見るとそこには顔を真っ赤にした可愛らしい女の子がいた。
「えっと、俺?」
志恩が自分を指差すと女の子は首を縦に振った。
「行ってきな志恩」
「・・・僕らはここで待っててやるから」
私たちに促され志恩は女の子についていった。
「あのさ、賢二。志恩をお願いね」
賢二は私の顔をまじまじと見たあと緩やかに笑顔になった。目つきは悪い癖にこの笑顔は優しい。
「・・・どうした突然?」
「私じゃもう志恩を支えられないから、賢二が友達としてあの子を支えてあげて」
苦笑いをしながら賢二を見ると賢二は眉間に皺を寄せながらも無理矢理笑顔を作ろうとしていた。
「・・・何言ってんだよ。志恩は高校生になってもずっと華のところに行くよ!・・・自分が死ぬとでも「そうだよ」」
賢二の目が大きくなった。
「あのね賢二、私ね・・・・」
賢二が苦々しい顔をして私を抱きしめた。
「・・・なんで!なんでなんだよ!!」
あまり大きくないその声はかみしめているようだった。声は周りの声にかき消されていく。
「賢二、たぶんこれが私からの最後の我儘なんだ。志恩をお願い」
志恩を不幸にしないために。私から離れた賢二はまっすぐ私を見て潤む目で頷いてくれた。
「ありがとうね」
「じゃあねー賢二」
「またねー」
「・・・ああ」
賢二と別れ帰り道を歩く。
「なんか賢二元気なかったね」
「・・・そうだね、あのさ」
立ち止まった私に志恩は振り返る。
「どうしたの?」
口を開きたいのに声が出てこない。言わなきゃいけないのに。この言葉を言わなくては志恩を不幸にする。言え、言うんだ。
唇を噛み締め下を向いてしまった私の頭を暖かな手が撫でる。
「どうしたんだい?」
その声と暖かさに泣きそうになる。志恩との思い出が頭をよぎる。小さな頃は泣き虫だった志恩。私は志恩をひっぱってきた。だけどそれはもうできないから。
「志恩、もう私たち会うのやめよう。私のことは忘れて」
今私はどんな顔をしているんだろう。ちゃんと笑えているかな?
「え」
「じゃ、そゆことで」
固まってしまった志恩を置いて私は足を進めた。
「ちょ、ちょっと待って。僕何かした!?何かしたなら謝るか「高校生にもなったしいい機会だと思う」」
私の言葉に志恩は目を大きくした。私は口元に笑みを浮かべた。
「それに保育園のときから志恩の不運に巻き込まれるのいい加減疲れたし。もう志恩から離れようかと、ほらほら志恩はもう私いなくても大丈夫で!・・・しょ・・・」
志恩に抱きしめられた。志恩が震えているのがわかる。
「どうしたの?、僕らは幼馴染なんだから今華が嘘を言ってることぐらいわかるよ」
今度は私が驚く番だった。
「華がいなくて大丈夫なわけないだろ。僕は君のこ「志恩!!」」
それ以上は聞いちゃいけない気がした。体を無理矢理離し涙をこらえながら志恩を睨む。
「とにかく金輪際私の前に現れるな。志恩なんか大っ嫌い!」
志恩の目は潤んでいて今にも泣きそうで、それでも私は志恩に背を向け歩き出した。
少し歩いたところで涙が流れ始めた。
嫌だ。離れたくない。寂しい。悲しい。志恩。
「うわあぁん!」
声を出して泣きながら歩いた。志恩も泣いているのかと思うと涙は止まらなかった。拭っても拭っても涙溢れでる。ごめんね志恩。ごめんね志恩。
『あのね賢二、私ねこのままだとあと一年も生きられないんだって。だからさ私は志恩から離れるよ。そし志恩には私のこと忘れてもらいたいな。それで彼女とか作ってさ・・・それが私が志恩にできる最後のことだから』
志恩大好きだよ。大好きだからさよならだよ。