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「お邪魔しました~」
「じゃあね賢二」
「・・・また明日」
賢二の家での勉強会を週4で開催し始めて数ヶ月経った。まぁ私は参加できるときにしか参加してないから実質あんまり参加できてないけど。
「俺達同じ高校に入れるといいね」
「賢二もやる気出してきたし二人とも多分行けるでしょ」
マフラーを口元までもっていき手袋の中で手を握りしめる。寒いわ~。そんな私を見て志恩は私の手を握ってきた。
「どうしたの志恩?」
顔を覗き込むと志恩は笑顔になっていた。
「なんとなく手繋ぎたくなったからさ」
「そっか」
「「・・・・・」」
無言で歩く道は全然気まずく無くて逆に心地良かった。
「おっと!」
「大丈夫?」
私がこけかけると志恩は支えてくれた。
「ありがとう」
前まで志恩はすぐ泣いて、一人にしとくのが不安で不安で仕方なかったけれども今は違う。私の手を引いてくれるくらい強くなったんだなー。
「あのさ志恩、私入院することになった」
歩いていた足を止め笑顔を志恩に向けた。
「・・・・・・」
志恩は無言でこちらを見つめてくる。
「ちょっと長めに入院するらしいからもしかしたら高校入試行けないかも」
「・・・・・・」
「でもでも賢二と志恩が同じ高校行けるように精一杯協力するか!」
「・・・・・・・」
私の言葉を遮って伊作は私を抱きしめてきた。
「・・・・・・・」
私の頭に顔を押し付けてきつくきつく抱きしめてきた。
私の病気が見つかったのは小学三年生の時だった。
最初はただの風邪だと思っていたけれど違ったらしい。肺が段々と悪くなっていくらしくドナーが必要らしい。だけどドナーは中々見つからないらしい。らしいばっかりだがとにかくそういうことだ。
私は自分が病気になって始めてお母さんが泣いているのを見た。お母さんに『泣かないで』って言ったら抱きしめられた。そして私の病気のことを教えてもらった。このままだとあまり長く生きられないことも知った。
志恩が一人になっちゃう。自分の病気を理解した時それが1番に思ったことだった。志恩は泣き虫で、不運で、弱虫で、でも優しくて、あったかくて、大好きで、そんな志恩を一人にできない。私は志恩に病気のことを伝えるか迷った。
そんなある日だった、
『僕友達できたんだ!』
そう言って紹介されたのは賢二だった。
『・・・よろしく』
賢二は違うクラスだったけど休み時間に遊ぶうちにこの子なら志恩を強してくれると確信した。もし私がいなくなっても大丈夫。
『あのね!志恩・・・』
私の部屋で遊んでいた時に話した。この頃にはあまり泣かなくなっていた志恩は私の病気のことを話したら、少しの間無表情になってから次第に目に涙をため始めた。そしてボロボロ涙を流しながら私を抱きしめた。最初は小さな声で泣いていたのにどんどん大きな声になってわんわん泣いた。志恩の涙を拭いたかったけれど、もう拭っちゃいけない気がして空いた手で志恩の服を握りしめた。
『ごめんね・・・ごめんね・・・ごめんね志恩』
志恩はしばらく泣いていて、私はずっと謝り続けた。次第に志恩の泣き声は小さくなっていった。そして体を離し今度は伊作が謝り始めた。
『俺の不運のせいだ。ごめんね、ごめんね!』
『そんなわけない!!』
下を向いていた志恩の顔を両手で押さえ上げさせて怒鳴った。そんなことを言う志恩が悲しくて辛くて怒鳴った。
『志恩・・・志恩はたしかに不運だけど私の病気は志恩のせいじゃない。・・・ごめんね』
色んな感情が溢れ出してとにかく謝ることしかできなかった。そんな私を見た志恩は無理矢理涙を引っ込め私の手を握った。
『俺、俺ね!頑張るよ!!・・・だがらあ"や"ま"らないで』
途中からやっぱり涙がこらえ切れなかったようで志恩は鼻水を垂らし涙をボロボロ流して言った。私も涙がこらえ切れなくて泣いた。二人で涙が枯れちゃうんじゃないかってくらい泣いた。次の日賢二にも教えて賢二にも泣かれた。
「・・・・・うぅ、ひっぐ」
志恩が声を押し殺して泣いているのがわかった。
「ごめんね志恩・・・」
やっぱり私は謝ることしかできなかった。志恩は成長してるのに私は何も変わらないんだな。時間は進んじゃうんだね。
2日後私の入院生活が始まった。