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小学校の入学式早々志恩は不運だった。
「ぐっず、ひっぐ」
志恩ママに涙をふかれながら校門の前で泣く志恩ははたから見れば親と離れたくなくて泣いているように見えるだろう。だが私は分かっていた。絶対何か不運な目にあったんだ。
保育園では私が志恩の不運に巻き込まれることが多く志恩ママが私のお母さんに凄い頭下げてた。不運のせいでいつも一人でいた志恩を私はなんとなくほっとけなかった。ジャングルジムから落ちかけた志恩を掴んで一緒に落ちたり。
『志恩君!華ちゃん!』
何故か水が暴走した蛇口から水を浴びたり。
『志恩君!!華ちゃん!!』
先生がつまづいて麦茶を頭から被ったり。
『ごめんなさい志恩君!!!華ちゃん!!!』
先生は悪くないよ。志恩は不運だから仕方ないよ。不運が起こるたび謝り合戦が始まる伊作ママと先生も大変だと思った。
「志恩ー!何泣いてんの?」
「ぐっず、華。今日入学式なのに、そこでもらったぐっず、ごろんでぇ、お花潰してばらばらにしちゃったの。ひっぐ」
志恩の手にはピンと花のついた[にゅうがくおめでとう]と書かれたリボンがあった。しかし花は見事にぼろぼろになっている。ついでに言うと志恩も全体的にぼろぼろになっていた。うわぁー、志恩相変わらず不運。
ここで私のを渡してもよかったがそれでは志恩は泣き止まないだろう。最悪罪悪感を感じてもっと泣き出すかもしれない。
「じゃあこうしようよ」
志恩の手からリボンを受け取り、ぼろぼろになった花をはずして私の髪を2本に結んでいた髪飾りの1つをつける。そして自分のリボンからも花をとり同じように髪飾りをつける。
「志恩とお揃い!」
笑いながら志恩の胸元に付け直す。
「似合ってるー!だからもう泣かないで」
頭を撫でてやると涙が溢れていた志恩の目はふにゃーっと笑顔になった。
「ありがとう華」
「ごめんね華ちゃん」
申し訳なさそうな顔をする志恩ママに向けて首を横に振る。
「志恩と一緒にいると色んなことがあるけど、でもね!そんなことどうでもよくなるくらい楽しいんです。だから謝らないでください」
志恩は少しぽかーんとしたあと抱きついてきた。
「僕もね華と一緒にいるとすっごく楽しいよ!」
耳元で聞くには大きすぎる声に笑顔になるのは私の番だった。志恩のふわふわした黒色の髪の毛をわしゃわしゃと撫でる。
「華ー!志恩くーん!写真撮るわよー!」
お母さんの声のした方に顔を向けるとそこには桜の木下でカメラを持つお母さんがいた。
「行こ!」
「うん!」
志恩の手を引いて走っていく。
「はいチーズ」
パシャ
「ねぇうまく撮れたー?」
お母さんに近づきしゃがんでもらいカメラを除き混む。写真撮れたー!桜綺麗だなー!
「ん?志恩ー!毛虫ついてる!!」
桜の木下で微笑む志恩をよく見ると肩に毛虫が付いていた。
「え!うわ!」
「触っちゃダメ!てい!!」
毛虫は触ると痛い。何かの絵本で読んだ知識だった。毛虫を取ろうとする志恩に走って行きそのままの勢いで素手で毛虫を掴み投げた。そう、素手でだよ奥さん。
「華!だ、大丈夫!?」
この日私は入学早々保健室のお世話になりました。色んな意味で忘れられない入学式となった。