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「人は何故学ばなくてはいけないのだろうか?」
学ラン姿で私の家に宿題を届けに来た志恩と一緒に宿題をしながら、ふとした疑問を投げかける。いや、別に宿題の読書感想文をやりたくないとかじゃないんだよ。断じて違うから。
「華は本当に読書感想文苦手よね」
「違うんだ。読書感想文だけではない、作文関係全てが嫌いなんだ」
ちくしょー。ていうか宿題に作文出すなよ。作文の宿題出して良いのは夏休みだけなんだよー。
「本読むのは好きなんだから頑張れよ」
「志恩は何の本で書くのー?」
完璧にやる気を失っている私はベッドに横になった。志恩が苦笑いでこちらを見てくる。
「[植物図鑑]だよ」
「ちょっと待って、一体その本からどんな感想文が生み出されるの?」
志恩は当たり前の顔をしているが絶対におかしいだろ。何なの?案外図鑑とかの方が上手く読書感想文かけんの?いや志恩が特殊なだけだ。というかその本小学生の頃の志恩の愛読書じゃねーか。
「ほら華頑張って、ってうわぁー!!」
志恩の悲痛な声に起き上がると麦茶の入ったコップが倒され志恩の原稿用紙はみるみる水浸しになっていく。私はとりあえず枕元にあったタオルで机を拭いていく。ゲームとか乗せてなくて良かったー。教科書がぐちゃぐちゃなのは気にしないでおこう。
「華ごめん。華の作文と歴史の教科書が麦茶まみれになっちゃった」
「大丈夫だよ。題名しか書けてなかったし、その教科書この間の墨汁噴射事件で既にボロボロだったから」
それよりも志恩の方が被害は重大だろう志恩の感想文もうすぐ終わりそうだったのに。
「ついてないなぁ」
半泣きで床に手をつく伊作に近づき頭を撫でる。志恩の不運は慌てれば慌てるほど不運のドツボにハマっていく。だからまずは落ち着こう。とりあえず志恩のペンケースが麦茶に浸っているけど気にしない方向でいこう。あれ匂い残るんだよねー。
「作文はまた書けば良いんだよ」
柔らかな髪の触り心地は抜群だ。
「長期戦に備えてお母さんに志恩の分の夕飯も頼んでくる!」
部屋を出て階段を降りお母さんがいるキッチンへ向かう。
「お母さーん!志恩夕飯食べて食って」
「たぶん食べてくと思って準備してあるわよ。あと20分ぐらいで出来るからー」
「はーい」
階段を駆け上がり志恩のまっている部屋に入ろうとしたドアの前で咳がでた。
「ごっほ、ごほごほ、げっほ」
手で押さえながら中にいる志恩に聞こえないようになるべく音を殺して咳をした。息苦しさにその場にしゃがみ込む。
「はぁ、はぁ、はぁ、・・・・・」
立ち上がり、咳で涙目になった目を擦ったあと部屋に入った。
「お待たせー。志恩長期戦の準備ができたよ!志恩は自分のが終わっても私が終わるまで待機ね」
「それじゃいつまでたっても俺帰れないじゃないか」
「今の言葉ぐさってきたよ」
苦笑いを浮かべる志恩の向かい側に座り再びペンを動かす。笑い合いながら宿題ができるって幸せだわ。