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不運は半分こ  作者: セロリとドレッシング
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 私には同い年の凄く可愛い従兄弟がいる。具体的にいうと可愛すぎて女の私の存在感が薄くなるくらいだ。長いまつ毛に真っ黒で少し癖のある短い髪。この短い髪を長くしたらどう見ても女の子に見えるだろう。これで男だなんて神様はなんて理不尽なんだろう。

 そんな従兄弟と初めて会ったのは保育園児のときだった。お母さんに紹介されて二人で遊んできなさいと庭に出されたけれど、従兄弟は体育座りをし顔を膝にうずめて、こっちを見ようともしなかった。

 小さかった私は最初従兄弟のことを気にせず一人で遊んでいたが、何となく隣に座ってみた。そして空を見上げたらすっごく綺麗で眩しかった。

「・・・なんでとなりに、すわるの?」

 私が隣に座ってから少しして従兄弟が口を開いた。その声はなんだか今にも泣いてしまいそうな声で、泣かないでほしかった私は膝の上にある従兄弟の手に手を乗せて握った。

「そらがあおいから」

 答えになってなんかいないことは分かっていた。だけどなんとなく口から出た言葉だった。

「・・・」

 隣で従兄弟も顔をあげ青空を見上げた。するとボロボロ泣き始めた。

「あのね、ヒックぼくとね、いっしょにいるどねヒック、けがじたりするの、ヒックヒック、だからね、ぼく、ずっと、ひとりぼっちでね」

 小さな私には意味は分からなかっただけどこの子の心がいっぱいいっぱいで張り裂けそうなのは分かった。だから立ち上がらせて抱きしめた。力一杯抱きしめて離れられないようにした。

「だいじょーぶ!!わたしはひとりぼっちになんかしないから!!」

そう言うとダラーンとしていた腕が私の背中に回されて従兄弟は激しく泣いた。私の洋服の肩はぐちゃぐちゃになり、お母さん達が庭から出てきた泣き続けた。

 

 従兄弟改め大島志恩は不思議な子だった。志恩の周りではなんらかの不運が良く起こる。志恩も不運だが周りも不運になっていく。例えば、志恩が小石に躓けば、飛んで行った小石がカラスに当たり何故か近くにいた私がカラスに攻撃された。またあるときはジュースをこぼして全部私にかかるという不運が続く。

 志恩は不運が原因で前の幼稚園で虐められていたらしく、従姉妹である私と仲良くさせるためわざわざ引っ越してきたらしい。

 志恩はまるで不運の神に愛いされたような子だったが私は志恩を放っておくことができなかった。だって志恩はとても優しいから。泣き虫だけど、それでも私にとっては大切な従兄弟だった。

「ひっく、えっく!」

「どこか、ちでたの?」

 目の前で豪快に転び手に持っていたジョウロの水をぶちまけたうえ、花をつぶしてしまった志恩は泣いていた。そのぶちまけた水の殆どは私にかかったが今は放っておこう。水浸しの私が頭を撫でても、膝についた土を払っても志恩は泣き止まなくてどうしようかと思っていたらある歌を思い出した。毎朝保育園に行く前に見ていた子供向け番組で流れていた歌だ。

「しおんの“ふうん”はんぶんちょうだい」

「え?」

 志恩の涙は止まった。

「あのね、たのしいことはふたりぶんあるの。かなしいことははんぶんこするの。だから“ふうん”もはんぶんこしようよ。そうすればきっと、しあわせもふたりぶんになるよ」

 我ながら名案だと思った。ニコニコと志恩の手を握ると志恩も次第に笑顔になっていた。

「華ちゃんありがとー!」

 このあと今度は二人でジョウロを運ぼうとして二回ほど全身から水を浴びる羽目になったのはいい思い出だ。ちなみに志恩が潰してしまった花は次の日には元気になっていた。



「ってこともあったよね~」

「覚えてるよ。そんなこともあったねー」

 あいもかわらず不運街道まっしぐらの志恩と私は中学生になっていた。夜空を見上げながら昔のことを笑いあう。

 この星空の下では小さな悩みなんて飛んで行ってしまう。そう!夜コンビニに行こうとしたら工事中で穴が」開いていた道路に2人そろって落ちて上がれないなんて大したことじゃないんだ!

「あははははは」

「あはははは・・・賢二呼ぼう」

 賢二とは小学生の頃に出会った。基本的に冷めていているように見えるが実際は結構ノリがいい。まあ仲の良い奴以外には凄い素っ気ないけど。不運な目に合う志恩をサポートしてくれる良い友人だ。そして何故か賢二には志恩の不運が効かない。志恩がどんなに水をぶちまけても賢二だけは無事だ。もちろん私にとっても良い友人であることに変わりないが、なんというか志恩の保護者になっていただいてる感が半端ない。賢二マジで良い奴だよ。

 志恩がポッケトから買ってすぐに画面を割ったスマホを取り出そうとして動きが止まった。もう続きは分かってる、さぁ来いよ不運!!

「スマホ家に忘れた」

 がくりと肩を落とす志恩の頭をポンポンと叩く。

「大丈夫だよ。なんか予想ついてたから」

「それはそれで複雑だよ」

 私もポケットを漁ってみる。お、あった!画面が割れないように厳重に手帳型のスマホケースに入れられたスマホが私のポケットに入っていた。

「賢二にメッセージ送るねー」

【志恩と一緒に穴に落ちた。救助求む!!】

 下に地図を貼って再びポケットにスマホをしまう。

「華―!ごめんまた俺の不運に巻き込んだ!!」

 私より大きくなった背を屈めて抱きつきながら謝る志恩の背中を撫でた。

「気にしないでよ。私たち幼馴染じゃん。志恩の不運には慣れたよ」

 30分後メッセージを見た賢二が自転車にまたがり救出に来てくれました。賢二かっこいーー!賢二にはアイスと飲み物を奢りました。


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