1.廃墟にて
今日で何回ため息をついたのであろうか…。「ため息を一日でついたギネス記録」があれば間違いなく記録に乗るのは私であろうというほど数えきれない内の一つをまたぽつっと漏らした。
森の中にある捨てられた廃墟、そこを改造して私たちは住んでいる。
そう、夫と暮らしているのだ。
なぜここでまたため息をついていたのかというと…
唐突に彼が口を開いた。
「ため息をつくと幸せが逃げる…いや、雪、君に関してはつきすぎて僕の幸せも逃げていくようだ…なぜ君はあえて自分に試練を与えるかのごとくあえて幸せを寄せ付けない行動をしているのだい? いや、行為か。」
私の身の回りのことを簡潔にまとめると、今目の前で高級ソファーに優雅に座りながら山積みにされた本の中の一つであろう物を読みながらダラダラしている(皆からすればだらだらとしているようには見えないかもしれないけど仕事をしている彼に比べたら私はダラダラしていると思う。)夫は回りくどい言い方で質問をしてきた。
最近では私のこの奇談にも影響してきており正直なんでこの人が今となっては私の旦那何だろうってつくづくまたため息をついた。
「ふむ…なんで私の結婚相手…永遠に愛を誓う相手になったかは自分で分かるんじゃないのかい?」
皮肉めいた口調…でも目は本のページから離さない。
横顔を見ると少しチェシャ猫のように笑っている。
ほら まただ。
彼には私のすべてがお見通しだ。私の心の中が透明のガラスなのだろうかと疑ってしまうくらい見透かされる。 嘘も すべて。
「ねえ…たまには構ってよ」私の口から自然とそういう言葉が漏れる
彼は読んでいる本を閉じるとソファーの近くにあった小さなテーブルの上に置かれているコーヒーカップに手を伸ばし一口すすったとこう言った
「わかったよ…そう言うと思ったから今日は特別に雪が子供だと想定して雪との出会いを改めて振り返ってみようか。 話をしよう…」
懐かしい雰囲気だ…
「ストーリーテラー」としての彼を見るのはいつぶりだろうか。
最近では作家活動でいそしんでいるためなかなかそういう機会がないと嘆いていたけれど。
「久しぶりのストーリーテラーのお話の第1話は君のために取っておいたんだ」
と私にもコーヒーを渡した。
いつもの味
そっか、こういうことの積み重ねから好きになったのか
「ねえ、今日は私の視点からまずは語ってみてもいい?」また自然と言葉が出てきていた。
「なるほど…これは面白い…僕の話を君の視点で見るのは僕もお願いしたいことだったが、まさかそれがかなうとはやはり運命というものは面白い! コーヒーを飲みながらぜひ聞きたいものだ」
彼の話に対する意欲はとても大きい。
今、私のことを見ている目は語り手のプロとしてはなく純粋に話を聞きに来た子供の様な感じだった。
「わかったわ。では私とあなたの出会いを話そうか…」
第2話に続く