凡人は捻くれている
この国ではそんな未来有望な天才の為の学校が一校だけある。しかし、そこは半分が天才の為の学校であり、もう片方は普通の学校と言う不思議な学校である。しかも、天才が通う才能科と一般的な普通科では、授業は全く違うのに部活動だけは共にするのである。
天才が強制的にそこに入学にするにしても、平凡人からしたら何故そんなところ通うのだと言うだろう。ただでさえ、平凡人は比べられるのが嫌いだというのに。
だから俺だって決してそんな変な学校に通うつもりなんて無かった。
だが。
「お、鈴人おはよー」
「ん、おはよ」
何故か通ってしまっている。
理由はわかってる。原因は兄貴だ。
俺の兄貴は運動神経の才能の持ち主、つまり天才である。その為、この不思議な学校に通っているわけだが兄弟共に通うと安くなるとかなんとかで無理矢理親に入学させられたのである。
俺は才能が無い凡人だから兄貴と比べられるのが大っ嫌いだった。なのに、同じ高校なんて如何にも比べられるのが見え見えだというのに俺はこの高校に入学した。
「そんなに俺のことが好きか!」
嬉しそうに笑って言う兄貴には悪いが、そんな理由なわけあるかあほ。
俺はただ、兄貴が何かと無料であるのに対し俺ばかりが金を使っている気がして、少しでも家庭の負担を減らしたかっただけだ。とは言っても、兄貴のように入学金無料ってまではいかないが。
「あ、鈴人くん。おはよう」
「おはよ」
だが、なんやかんやいってこの学校もそこまで悪くない。
普通科だけ見れば、普通の学校であるのには代わりないし周りの生徒もいいやつばかりだ。
「そういえば鈴人くん。さっき先生が、黒川はそろそろ部活決めろって言ってたよー。決めてないの、鈴人くんだけだって」
自分の席に座れば、前の席の野嶋朱里が言う。
部活動、それはこの学校最大の欠点だと俺は思う。部活動だけは何故か天才と凡人共にし、しかも強制的に入らなければならないというこの学校の方針は未だに理解が出来ない。
「え、もうみんな決めたのか?」
「流石にね?もう五月間近だし。鈴人くんも適当でもいいから入っちゃいなよ。案外ここの学校、変な部活動もあって量が多いから先生も把握しきれなくて幽霊部員しててもバレないらしいよ?」
「なら、入らなくてもいいじゃねぇか。因みに野嶋は何部?」
俺の言葉によくぞ聞いてくれた、とでも言うように野嶋は体をこちらに向け、頬を緩ませ俺を見つめる。
「私はなんと、陸上部なのだ!」
何故そんなに自慢げで嬉しそうに言うのかはわからなかったが、コイツのこの選択肢は阿呆だと俺は思った。
「お前よく入る気になったな」
「先輩も言ってた。"凡人の癖に度胸はあるんだな"って」
そりゃそうだ。天才と凡人が同じ部活だなんて、そりゃ凡人に出番はないに等しいし、ただ比べられるのに使われるだけだ。恐らくこの高校三年間で試合やコンクールなんて出られるはずが無い。
それなのに競い合う競技である陸上部なんて、こいつは阿呆だ。入るならもっと…
「"入るならもっと才能と比べらないものに入れよ"とか思ってる?」
「っ…!」
「いいの、私はこれで。…私ね、超えたい人がいるの。その人、運動神経の才能でしかも開花したのは陸上だったから…多分アイツも陸上部に入ってると思うし、同じ部活なら勝負できるじゃん?」
嬉しそうに話す野嶋の瞳は輝いていた。希望と期待、強さがこもっていた。
でもこいつは知らない。俺らと才能を持つあいつらの差を。こいつは知らない。負けた時の、恐怖を。
凡人が天才に勝てるはずない。
「…超えられるわけ、ねぇじゃん」
俺は小さく呟いた。