変異
爆発音と共に散ったと思われていた鎌は竜人の手にしっかりと握られていて、その形状を留めている。竜人は爆発の勢いで十数メートルぐらいぶっ飛んで、粗大ゴミの溜まっている一角に倒れている。
「うっ、痛っ」
立ち上がろうとする竜人は足から痛みを感じ立ち上がるのを中断した。飛ばされた時変に地面へ着地してしまい右足を軽く痛めてしまっていた。
敵は仕留められていないことに舌打ちをし、とどめをさしにに向かってくる。竜人は壊れていない鎌を不思議に思う余裕すらない状態で鎌を杖の代わりに立ち上がる。
どう攻撃するかよりどう避けるか考えるのが精一杯。せめて逃げる為の時間稼ぎを...よし、やってみよう。数秒で作った作戦を実行に移す覚悟を決めた。そして、竜人は力が尽きたかのように粗大ゴミの上に倒れた。
「こいつはこれで仕留められるな」と敵は思っただろう。敵は竜人めがけて拳を振り下ろすが、竜人は前もって地面に突き刺しておいた鎌を上手く使って避け、流れるような動きで鎌を引き抜き、敵の背中辺りを思い切り突いた。体中が痛み力があまり入れれず殻を貫通させることはできなかったが、敵の体勢を崩し、そのまま倒れ込ませた。
よし、作戦通り。
敵の拳が粗大ゴミに当たったその瞬間に粗大ゴミが爆発し、電子レンジやアナログテレビ、他の製品の破片が宙を舞った。作戦にはなかった出来事に硬直してしまう。
粗大ゴミの中にあった電子レンジが飛んでいく方向には男性が歩いている。もちろん気づくことはなく頭に当たった。はずだったのにその男性は平然と歩いていく。その代わりに敵が頭を押さえた。
「痛い!」
まるでさっきの電子レンジは敵に当たったかのように。すかさず味方の人が叫ぶ。
「今だ!とどめをさせ!」
そして、頭を押さえのたうち回っている敵を見る。
ここで、ここでこいつを殺さないと...決心しただろ?まさかこのまま見過ごさないよな?せっかくできた目標をこんなに速く断念するのか?
自分でも分かっているがそう簡単に動いてくれない。全ての感情を頭の中から抹消し、鎌を両手で強く握る。手が震え、瞳が揺れ、何度も地面を踏み直す。後ろから怪我をして動きがぎこちなくなった足音が近づいてくる。極度のプレッシャーを殺す。竜人は目を閉じ、鎌を振り上げ何度目かの決心をする。
もう、あの日のことを忘れ、あんなことを無かったことにする。それは、自分の過去の約半分を無かったかことにするということになる。兄の存在が消えた日。ぼろぼろになって体の至るところに銃で撃たれたかのような穴が開いて大量の血が流れている。その映像がどれ程無残だったか...
「もう忘れたよ!」
そう言って鎌を力強く振り下ろした。それと同時に太陽は西の彼方に沈み切った。