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Geboku

話がまったく進まない気がしています。今。ちょっともしかしたら、パニック障害出るかもしれない。

 一瞬、魔王の姿が脳裏をよぎった。








 アームスだ。



 異世界の森の中での巨大なワームとの戦いは、俺が奴の脳天に突き刺した包丁の一撃で終わった。



 「シャギャア!」

 一瞬の隙をついて突っ込んできたワームの頭部に飛び乗り、そこにゴノイから渡された包丁を柄まで刺すと、その瞬間、奴は大きく叫んで激しく暴れた。その滅茶苦茶な動きでワームの体から地面に跳ね飛ばされたが、しかし、その時には既に俺が勇者をやっていた頃によく経験していた確信めいた感覚が、自身の中にあった。


 奴から目を離さずに起き上がり一応追撃に備えたが、もうその必要がない事を悟った。

 「・・・ゼェヴョヴ・・・」

 ワームは苦しげに震えながら、最後に少し天を仰ぎ、

 「ザグゥ・・・」

 そのままその場所に倒れた。そして、もう動かなかった。かなりな巨体でありながら、大きな音や、地面が揺れるような振動を発したりせずに、静かに倒れた。静かにゆっくりと、まるで眠るかのように。

 「ふうー・・・」

 動かなくなったのを確認して近づくと、ワームはこちらを見た。その目に宿っていた光が徐々に消えていく所だった。最後は睨みつけると思っていたが、不思議とそんな事は無かった。奴は静かな目をしていた。そうしてゆっくりと目を閉じた。最前までの戦いなど嘘で、まるで無かったかのように。


 「お前も、勇敢だな」

 そう声をかけるのが正しいのか間違っているのか?それは分からない。それにまあ、普通に考えたら殺された相手に何を言われたって、そんなもの糞みたいなもんだろう。勝者のエゴ。上から目線。

 わかっている。

 それでも、俺は一応自分の想いを伝えた。当然、言葉は通じないだろうが、でも俺は伝えた。そう思ったからそう言った。


 既にワームは完全に目を閉じて、止まっていた。


 勇者だった頃には、そんな事をした覚えは無い。倒した相手に自分の想いを伝えるなんて、そんな事。大体ありえなかった。あの頃はまったく余裕が無かったし、とにかく魔王を何とかして倒さなくてはいけないと思っていた。周りを見る余裕が無かった。それに暇があれば、鍛錬に励んでいた。

 ソレが一番何も考えずに済んだから。

 黙っていたら襲ってくる恐ろしい量の恐怖を感じなくて済んだからだ。逃げたくて逃げたくて仕方なくなる感情は、鍛錬をしている間だけ消えてくれた。

 「・・・はあ・・・」

 このワームにしても、途中で逃げようと思えば逃げれたはずだ。

 それでも何故だか逃げずに最後まで戦った。

 だから俺は勇敢だと思う。



 死んだワームの顔は穏やかだった。

 少しの間、その顔を眺めた。

 苦しみぬいて死んだ奴が居た。最期に恨み言を述べて死んでいった奴が居た。断末魔の叫び声をあげながらのた打ち回って死んだ奴が居た。魔王への忠誠を誓って死んだ奴が居た。反対に自分がこうなったのは魔王のせいだと言って泣きながら死んだ奴も居た。

 それなのに、世界が違うとはいえ、そのワームの顔はとても穏やかだった。


 あの魔王はどういう顔で死んだのだろうか?


 ふと、そんな事が頭をよぎった。

 俺は見ていない。

 あの時俺は、恐怖と不安と疲労て死にそうだったから、見れていない。

 でも、ゴノイは見ていたかもしれない。

 あの時あの場所に居て、俺の顔に白い布見たいのをかけて、なんか怪しげな呪文を唱えていた。あの頭のおかしいゴノイだ。

 ちょっと、後で聞いてみようかな・・・。


 ワームの顔は穏やかだった。


 俺もこんな穏やかな顔で死ねたら。


 そう思った。


 それは当然叶わぬ願いなのかもしれないが、勇者として旅をして世界を救うために、数え切れないほどの敵を倒した俺が、そんな事を考えるのはまったく冗談じゃないだろうし、絶対に間違っているのかもしれないが、でも、それでも、俺はそう願った。


 俺も、こんな穏やかな顔で死にたい。






 で、だよ、


 そんな事を考えながら、振り返った俺の目の前に、

 「なんだこれ?」

 何かが飛んでいた。


 それは何かの機械だった。俺が今まで見たこともないようなマシーンだ。その何かの機械が空を飛んでいた。余りにも場違いなこの異世界のワームが出てくるような森の中で、それは一定の高さを保って飛んでいた。

 「やっと気がついたああ!勇者さーん!!」

 遠くの木の上の方からゴノイの叫ぶ声が聞こえた。





 「おーい終わったぞ!もう降りてきていいぞー!」

 一定の距離を保って飛んでいる機械にマークされたまま、木の上にいるゴノイに向かって叫ぶと、

 「ちょっと、勇者さんちょっと来て、来てください!」

 という声が上から降ってきた。

 「なんだー?」

 ワームと戦って疲れてるからもう木とか登りたくないんだけど。

 「とにかく一回!とにかく一回来て!」

 仕方ねえなあいつ。にしたって、なんだってんだよなあアイツは。俺はそう思いながら、木を登った。人が感傷的になっているって言うのにさあ・・・。




 ゴノイのいるところまで登ると、奴は近くの木の枝に例の豚の形の香炉を置いて、それで蚊取り線香を焚きながら、木の幹に寄りかかって何かをいじっていた。

 「何してんだ?ワーム倒したぞ?」

 「知ってます見てましたから。すごかったですねえ勇者さん。まるで『ワンダと巨像』みたいでしたねえ。あと、はいこれ、フェイスシート。顔拭いてください」

 「あ、ああ、どうも・・・」

 ワンダと巨像?何?何を言っているの、この人は?また、この人は?手渡されたシートで顔を拭きながら考える。


 あと、


 見てた?


 「どうやって見てた?」

 「ドローンで」

 ドローン?

 すると、さっきから俺の事をマークしていた得体の知れないマシーンが木の上まで飛んできて、それがそのままゴノイの手の上で止まった。

 「これがドローンです」

 ゴノイはそう言ってドヤ顔をした。

 「なにそれすげえ」

 ラジコン?ミニ四駆?キラーマシン?

 「で、コレとスマホを連動させてこうして映像を見ていました」

 ゴノイが携帯の画面を見せてくる。そこには俺の驚く顔が映っていた。すげえな。なんだ?魔法か?

 「これも現代社会だと飛ばしている奴は、首相官邸に飛ばしたりとか、お祭りで飛ばして落としたりとか、とにかく悪いことをすると思われるんで、飛ばせないんですよ」

 「へえ、大変だな」

 だからそれも異世界に持ってきたの?

 「アマゾンで買いました」

 ゴノイはそう言いながらソレを飛ばしたり着陸させたりを繰り返している。

 「アマゾンって・・・あの?」

 お前がしょっちゅうクロームで欲しそうに眺めているあれか?

 「ええ、勇者さんもアマゾンプライムで映画とか観ているでしょう?」

 「ああ、あれな!」

 合点がいった。俺あれで『2012』とか観た。

 「こういう事もあろうかと、持ってきたんですよ」

 「何処に持ってたんだ?」

 俺はゴノイのショルダーバックを見た。そんな入るのソレ?どうなってんの?それにワームに跳ね飛ばされた時とか壊れなかったの?

 「ちょっと、人のバックをまじまじと眺めないでください!エチケット違反ですよ!」

 「エチケット違反ってお前・・・」

 お前の家にあるハトよめのセリフじゃねえか。ハトよめのうさぎのセリフじゃねえか。ワニ子のセリフだろそれ?


 「ところで、勇者さん」

 そこでゴノイは、ふと思案顔になって目を伏せた。

 「あ?何よ?」

 なあ、その前にさ、降りない?いつまで木の上にいるつもり?

 「あのワーム最期に『シャア専用ザク』って言いましたよね?」

 「知らねえよ、馬鹿野郎」

 人が戦っている時に何考えてるんだこいつ。こいつマジで。落とそうかな。落としてやろうかな。

 「あと・・・」

 「とりあえず木から降りるぞ、お前あのワーム食うんだろ!」

 「らめえええ!引っ張らないでえええ!」

 「うるっせえな!早く降りるぞ!」

 「あ、ああ、あああ」

 「喘ぐな!喘ぎ声を出すな!」

  出すんじゃねえ。そんなものお前が出すんじゃねえ!

 「ちょっと、ちょっと勇者さん!」

 「なんだよ」

 木の上心地いいから住みたいとか言うのか?ゴノイだし言いそうだ。だってゴノイだし。そう思って振り返ると、

 「・・・」

 ゴノイは俺のことを見て、なんかもじもじとしていた。その顔は俺が初めて見る顔だった。




 で、ここでちょっと一旦タイムな。これからそんなゴノイに対してある例えが出てくる。んで、その例えは俺が言ったんじゃない。そのコメントはアームスが思ったことじゃない。とりあえず、それだけわかってほしい。俺はそんな事思わなかったし、むしろゴノイのそんな顔は、俺からしたら若干気持ち悪かったくらいのもんだった。だから、勘違いしないで欲しい。頼む。それだけ、それだけはわかってほしい。絶対にわかってほしい。その例えは頭のおかしいゴノイが差し込んだもんだ。




 奴は俺の袖を掴んで、若干涙目になって、なんかまるで、新妻のようにもじもじとしていた。





 それからゴノイは、意を決したような顔になり、

 「私、木登りとかできないんですけど・・・」

 と、言った。

 「ん?」

 思考が止まる。

 「私、子供の頃から木登りとかうんていとか登り棒とか、まったく全然出来ませんでした。出来る奴は頭おかしいって思っていました。んで、木登りが出来ないんだからそりゃ当たり前ですけど木降り・・・下木・・・Geboku!も出来ませんよね」


 「は?」

 俺の持っていた感傷的な感情がその時、全部飛んだ。どっか行った。





 「だから私、降りられませんでよ」

 ゴノイはそれを告白した事で気が楽になったのか、さっきまでのもじもじとか、涙目とか、緊張とか、焦りとか、喘ぎ声とかは、無くなり、もう一気に無くなり、そしてふてぶてしくなった。結婚して十年目経過したみたいになった。

 「お、降りられないの・・・?」

 エルフがいるかもしれない異世界の森の中に来ておいて、木登りとかそういう事が出来ないの?

 「はい」

 なんで来た?何でそれでエルフに会いに行くって言ったのお前?

 「・・・」

 え?どうするんだこれ?どうすればいいの?どうしたらいいんだ?俺は木の上でゴノイを前にしてまったく分からなくなってしまった。まったく何も全然分からなくなった。

 「大丈夫?おっぱい揉む?」

 「んあ?」

 「よっしゃ!これ、前から言いたかったんですよ。最近PIXIVで流行っているんですよ、元はTwitterとかかも知れないんですけど、でもとにかく言いたかったー!言ったあ!」

 ゴノイはそう言って笑顔でガッツポーズをした。異世界に来て、でかいワームを倒した俺でもしなかったガッツポーズを、吹っ飛ばされて、木から降りれずに、俺が戦っている間も蚊取り線香を焚いて、ドローンとかいう空飛ぶマシーンを飛ばしていただけのゴノイが、すごい嬉しそうにガッツポーズをした。

 「パイオツミーモーする?」

 そして再びドヤ顔。

 「・・・」

 もう、揉むかな・・・。

 俺は思った。






 羽ノ上五ノ井です。どうも。

 まだ木の上です。

 「と、とりあえず、おんぶしてやるから降りるぞ」

 勇者さんは私の事を背負って、そんで結構な高さのこの木から降りる様子です。すげーな、やべーなお前、イケメンだな。でも、

 「大丈夫なんですか?」

 そんなことして。ララ・クロフトとかアンチャーテッドの人とかだったら出来るかもしれないけど、勇者さんって、そういう人なの?

 「分からないけど・・・」

 「分からないんだ・・・」

 不安です。かなり不安です。

 ただでも、それ以外に手段が無いので仕方ありません。で、とりあえず私の木登りが出来ないという致命的な欠陥は、もう棚上げしております。ええ。だってそんなもの今ここで、どうだこうだ言っても仕方ないでしょう?ねえ?出来ないものは出来ない。だからソレはもういいんだ!言った所で解決する訳じゃないんだからいいんだ!私は木登りが出来ない、でも、いいんだ!それでいいんだ。木登りが一生出来なくてもいいんだ!

 うん。それに一応反省はしている。ある程度。

 「お邪魔しまーす」

 私はショルダーバックを肩にかけて、手には陶器の豚、そしてドローンのリモコンを持ち、勇者さんの背中におぶさりました。荷物のような気持でおぶさりました。すると勇者さんはおもむろに、

 「お前さ、何キロあるの?」

 出た!その質問出た!あまりにデリカシズムの無いその質問出た!お前さっきのイケメン取り消しな。

 「6万トンから10万トンです」

 「ああ!?」

 ちなみにコレはビオランテの第一形態の体重なんですよ。

 「嘘です。20万トンです」

 そしてコレが、ビオランテ第二形態の体重です。



 まあ、そんなことがあった後、なんやかんやで私を背負ったまま勇者さんは、慎重に木を降り始めたのでした。



ちなみに木を降りるのってなんて言うんですか?木降とかって言葉ないんですか?下木も意味違うし、だからGebokuにしたんですけど。山登りも下山って言葉があるじゃないですか?木登りのそういうのもなんか、ないんですか!


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