ジャングル探訪
ジャングルといえば、ジャングルリベンジか、WILD RUSHですよね。ジャンゴー!
名前なんて、もう誰も覚えていないのかもしれないが、アームスだ。
「gyaaaaa!!」
木々の影から飛び出して来た48体目の虫の化物をぶっ倒したとき、俺はついに我慢できなくなってゴノイに振り返って聞いた。
「お前さっきからさ、俺が戦っている時、何してんの?」
それはどこまで続くかもわからない深い深い森の中、まあ言ってみりゃあジャングルの中だった。
「はい?」
で、このゴノイっていうなんかよくわからない奴が、ある日突然思いついたみたいに「エルフが見たい」とか言い出して一人で勝手に異世界に行こうとしたもんだから、俺も、まあ不精ながらこうして付いて来ている。俺にとって、今一番大事な畑をほったらかして、わざわざ付いて来ている。正直ゴノイの言っている、なんか知らねえけど、エルフが見たいとか、異世界に行きたいとか、なんとかってwikiに載りたいとか、そういうのは俺からしてみたら本当にどうでもいいし、それに俺はもう誰とも戦いたくとかもないし、こんな暇があるんだったら開墾とかしていたほうがいい。絶対にそっちのほうがいい。誰かと戦うよりは土と戦って野菜を育てたりする方が有意義だ。それにゴノイが会いたいって言っているエルフにだって会えるわけねえんだし、エルフなんかそう簡単にいねえし。単に広いジャングルを彷徨って終わりだろうと俺は思っている。
ただ、
でも、
まあ、
ゴノイっていうやつは頭がおかしいが、しかし、俺にとってみたらまあ、その、なんていうか・・・めんどくさいんだが、一応の恩がある。
一応な、一応。もちろん普段は絶対言わねえけどそんな事。腹立つから。それに本当に恩と言えるのかどうかも疑問だし。コイツはただ「殺せー!」って叫んだだけだし。
でも、まあ現状俺は、このゴノイの家に住ませてもらってもいる。
だからそいつが異世界に行くって言ったら、しかもエルフがいるかもしれないっていう異世界の森の中に入るって言うんだったら、まあ、俺としてはついて行くだろう?仕方なくてもついて行くだろう。
なのにだ、
「お前さ、人が戦っている時に何している?」
「踊っています」
「なに踊ってんの?」
「きゃりーぱみゅぱみゅさんの『CANDY CANDY』を踊っています」
「なんで?」
「なんで?」
「ああ?」
「なんでってなんすか?」
なんで踊ってんの?
こいつ、人が戦ってるのに、なんで踊ってんの?
「CANDY CANDYが好きだからに決まってるじゃん!」
コイツ何?なんなんだろう?
ここは異世界だ。
異世界から来た俺にとっても異世界で、しかもエルフがいるような異世界の森の中だ。そして現在エルフを探しに行くという、ゴノイについて俺は来ている。で、これは当然の話だが、エルフがいるような森の中なのだから、モンスターとか野獣とかがいる。
んで、
さっきから森を進む俺たちの前に、人間の子供くらいの大きさの虫のモンスターが出てきては、襲いかかって来ていた。
奴らは、
「gigigigigi・・・」
とか言って、
「syaaaaa!」
とか叫びながら襲いかかってくる。
で、
そんな状況下でもゴノイは、
「サモンナイトみたーい!」
とか、
「アティ先生ー!」
とか、意味のわからないことを叫んでいたり、その虫に携帯を向けてカシャカシャと写真をとったりしていた。あと、
「ベルさんの頭を撫でたい。無限に撫でたい。無限なでなでしたい」
やら、
「ベルが無理ならクーラちゃんの頭を撫でたい。無限に」
とか、
それくらいなんだよ。コイツ。本当にずっとこんな感じなんだよ。
他だって、
「娼館にいたエルフはどんなだったんですか?」
「佐々木希みたいだった?」
「それとも壇蜜?」
とか、
それ以外は、
「今日何食べたいですか?」
とかだよ。
本当に。マジで。
こいつ本当にそんなことしか言っていないんだ。ゴノイは。モンスターが出てきても戦う気配がない。全くない。俺に協力しようという気もないみたいだし、助けようとかも思っていないみたいだった。何なんだこいつ。何なんだこいつは!
そして今は俺が戦っている間、なんかずっと踊っている。
俺はまあ悔しいかな、過去が過去なだけに、特に大した準備、装備がなくても別に大丈夫だ。その辺に落ちている木の棒でも十分に戦うことができる。薄情だと思われるかもしれないが、俺にとってその過去というのはもう忘れたい記憶になりつつある。が、その過去のおかげでこうして無事なわけだ。過去っていうのはまあ、侮れないもんなんだな。おそらくどんな過去でもそうなんだろう。俺はそう思う。それにその過去のおかげで、今でも戦う時は、慢心もしないし楽観もしないのだから、こうして考えてみると、その忘れたい過去ってやつには感謝しなくてはいけないんだろう。まったく面白く無い話だが。
でだ、
俺はいいんだよ。俺の事は別に。何が出てきたって構わない。その過去みたいに今は、気負いもないし、責任もない。だから気は楽だ。何が出てきても大丈夫、まあ絶対に大丈夫とは思わないが、でもとにかくやれることはやる。敵を倒すというのは不快なものだが、しかし生かしておいて後から襲われてもつまらないだろう?だからこっちに向かってきて、最後まで逃げる事もなく、俺が倒したものには皆、止めまで刺している。それは勇者だった頃の名残。体が覚えている。
「で、お前はさ?エルフがいるかもしれない森に入るって言ってんのに、戦う準備とか何もしてないのか?」
こいつが本当にわからない。
「はい、戦う準備とか、何もしてないです」
ゴノイ。羽ノ上五ノ井。コイツ、こいつがもう分からん。言ってみりゃ元凶だよな。俺がこうしてさ、まあ相手が向かってくるとは言え、モンスターを殺しているのはこいつが異世界に行くとか言ったからだ。それなのに、コイツ自身は戦う準備もしていないし、それを特に恥じたりもしていないし、その上なんかしらねえけど踊ったりしてるんだよな。
「お前何しに来てんだよ?」
「エルフに会いに来ているんですよお」
なんでお前が怒った顔になるんだよ?お前が?なんにもしねえお前がさ?
「じゃあ、なんで踊ってんだよ?」
人が戦っている間に。
「だって、ほら勇者さん、考えてもみてくださいよ?」
「何がだよ?何を考えればいいんだよ?」
ゴノイはやれやれ、しかたねえなコイツは、という感じでため息をついてから話し始めた。
「現実世界だと、踊る所とか無いんですよ。ほら勇者さんも二ヶ月も住んでいるからわかるとは思いますけど、人様の目がどこにでもあるでしょう?」
「そうだな」
何の話?ここに来て何の話?異世界の森の中、何の話をしているんだ?
「公園とかで踊ったりしたら、見られるでしょう?そんな所で踊りの練習も恥ずかしいでしょう?」
「分かんねえけど」
全然分かんねえよ。俺。二ヶ月経ってもお前のことが分かんねえよ。一つも分かんねえよ。
「恥ずかしんですよ。音楽だってあんまり大きな音で聴いたりしたら、隣近所から苦情が来るかも知れないし、ピアノの音がうるさくて包丁で刺す事件だってあるんですから。それに他人に自分が何を聴いているかを知られて、分析とかされたら嫌じゃないですか?」
「じゃあ聴くなよ!」
そんなもんが気になるくらいだったら聴くんじゃねえよ。
「聴くよ。音楽大好き。大好きだもん。音楽が無かったら死んでたかもしれないし、伊坂幸太郎さんの死神の人くらい音楽好きなんだもん」
それは知らねえよ。その死神の人とかの話は知らねえよ。
「だったら、恥ずかしがんなよ」
「恥ずかしいものは恥ずかしい。私はそういう風な生き物だから」
「人が戦っている時に踊るのは?」
「え?だって私、戦闘中暇だし・・・異世界で人の目も気にする必要ないし、それは踊りの練習するじゃないですか?」
「するか?」
「それに旅の恥はかき捨てって言うし」
「お前は戦わないわけ?」
その選択肢は無いの?端から無いのか?
「えー!私子供の頃、空手とか柔道とか何も習ったことないです。柔術とか・・・合気道とかも・・・何もしてないんで」
「・・・」
「だから戦うとか無理。絶対無理。リームー」
それでよくお前、異世界とか行くって言ったな。何なんだろうコイツ。ほんとに。一体どういう生物なんだろう?
俺は思った。本当に心からそう思った。心の底から。
俺さ、過去に頑張って戦ってさ、一応、まあ最後お前の助力?あったけどさ。それでも俺一応、あの世界救ったんだぜ?戦うの怖いなーってずっと思ったり、自分は勇者じゃないって思いながらもさ、周りに支えられたり、助けられたりしてさ、もちろん色々と犠牲もあったし、みんながみんなニコニコって訳でもないかもしれないけどさ、でも、俺、一応あの世界で危機救ってさ、俺頑張ったんだよな。もちろん残された仲間たちには不義理なことをしたかもしれないけどさ。でもまあ、あの世界では自分の役目っつーもんは果たしたからさ。だからさほど未練もないし、なあ、俺結構頑張ったんだぜ。
でも、
「あ、これ、このPVの踊りですよ。これ、4番の子とかいるでしょう?これいいんですよ。私も顔に数字とか書いてみたいんですよねえ。8番とかさ、勇者さんはこれですね。この影武者の人の踊りを覚えてください」
今、これ、こうして、この得体の知れないやつと、得体の知れない異世界に来て、得体の知れない敵と戦って、得体の知れないエルフに会いにいくっていうこれ、
特にその中でも、『ハノウエゴノイ』っていうこれ。
「ここカ●ゴンとか居ねえのかな?好きなんだよなー私、カビ●ン。やっつけるとあくびをして山に帰っていくんですよ。グリーンね。だからどっかこの辺にいねえのかなー」
こいつを見ていると、なんだろう?俺あんなに頑張らなくても良かったのかなって思えてくる。俺じゃなくても大丈夫だったような気がしてくる。あの時は俺しかいない、と皆が俺に向かって言っていた。俺自身も自分を勇者だとは思っていなかったが、でも、もしかしたらほんの少しくらいはそう思っていたかもしれない。なのに、今こいつを見ていると、もしかしたら別に俺じゃなくても他にもいたかもしれないと思えるんだ。不思議だ。それでいて腹が立つわけでもない。ただただ、不思議だ。これが俺にとって、いい兆候なのか?それとも悪い兆候なのか?それはまだ分からないが。
俺がそんなことを思っていると、突然ゴノイの奴がピタリと動きを止めて、あたりをキョロキョロと見回し始めた。
「どうした?また敵か?」
俺も木の棒を構えて、あたりを伺った。
「違います。多分蚊です」
「は?」
蚊?あの蚊?
「いやいや、蚊だと思って安心したらダメですよ勇者さん。異世界の蚊ですからね。血を吸われたら敗血症とかになるかもしれないでしょう?」
ゴノイはそう言うと携帯を俺に押し付けて、自分のカバンをゴソゴソし始めた。
「なんだ?何するんだ?」
そのうち何かを取り出した。それは緑色の渦巻きになっている物体だった。
「なんだそれ?」
「蚊取り線香ですよ。まあ去年の残りですけどね。西友で買ったアース渦巻香です。カモミールの香りのやつ」
ゴノイはそう言いながらそれにチャッカマンで火をつけた。少しすると渦巻きの先端に火がついて煙が出始めた。そしたらまた突然、ゴノイが、
「カモミール!」
と、大きな声で叫んだ。考えたとか思いついたとかそういうのではなく、脊髄反射のように叫んだ。
マジでこいつなんなんだろう?
それからゴノイは豚の形の陶器を出して、その中に火のついたその渦巻きを入れた。そして、
「これで蚊は大丈夫。多分。異世界だからわからないけど」
そう言いながら真面目そうな顔を俺に見せてきた。
こいつが真面目そうな顔してもまったく真実味がない。俺はそう思った。
「戦うための道具とかは持ってないのに、そういうのは持ってんの?」
「あと、花火とか持ってますよ?」
「花火?」
「はい、トンボ花火とか、ロケット花火とか煙玉とか」
「なんで?」
「去年、知り合いの結婚式の二次会のビンゴで当たったんですけど、もう最近あっちの世界では花火をする場所も無いんですよ。だから異世界に来たら花火できるなーって思って」
そうしてまた俺達はエルフを探して歩き出した。
不思議とそれから虫のモンスターはピタリと出なくなった。
おそらく、あの渦巻きの煙のおかげだろう。
それは今、ゴノイが嬉しそうに持って歩いている。
俺はそれを見て、
何度目だろうか?
こいつ何なんだ?
って思うんだ。
ところで、ジャンルの再編とかってしたほうがいいんですかね?まあ、コレだけはしたけど。
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