まず補足から
この話のサブタイトルは好きです。酷くて。
羽ノ上五ノ井です。どうも。
で、最初にこんな事を書いている場合じゃないんですけど、まず前回の話のいいわk・・・補足です。
歯医者行きましたからね。
延べ棒の換金して、新宿御苑行って、それから歯医者行きましたから。
はい。
ご理解いただけましたら、以下に連載五回目の話をば。
ある朝、
「ちょっと畑行ってくる」
なんか声が聞こえたので、目を覚ますとそこには勇者さんが立っていました。
「・・・ああい?」
「畑にいってくるから」
勇者さんはそう言うと、寝ている私に向かってちょっちょっと手を振りました。それはなんか、私の目がちゃんと見えているのか?の検査みたいな感じでした。映画とかでよくあるやつ。ペンライトとか指とかを目の前で振る感じ、あれ。
「あい・・・」
「お前はまだ寝ていろ」
じゃあなんで起こしたんだ!って一瞬思いましたけど、でもまあ・・・優しさですかしらね?そういう種類の。
「ふぁい・・・いって・・・らっさい・・・」
私は最後にかろうじてそれだけを述べて、またすぐに意識を失いました。
それからまたしばらくして、
「・・・あ」
目を覚ましました。
「あふぁふぁあああ」
今度こそ、しっかりと目を覚ましました。
窓からは陽光が差し込んできており、その日は天気がいいようでした。っていうか、カーテンが開いてレースのカーテンだけになっていました。一人で暮らしていた頃はカーテンを開けるっていう習慣が無い私でしたので、朝起きてカーテンが開いてて、光が差し込んできているっていうのは、おそらく実家ぶりのことでした。
「・・・いいいい」
一伸びしてから台所に向かい、水道水をコップ二杯分飲んで、うがいをして、顔を洗い、歯磨きをして、寝巻きを着替え、携帯でツイッターをチェックして、そんで財布と家の鍵を持って、私は勇者さんの元に向かいました。
勇者さんがこちらの世界に来てから、二ヶ月が経過していました。
勇者さんはどのような決断なのか、どのような感情なのか、私には全然わかりませんでしたが、とりあえずこの世界に残るとおっしゃいました。私がいくら「帰ってください」と言っても帰りませんでした。だから私は、なにこいつ!DQNかよ!って思いました。
「当面の生活費はあるだろう?」
とか言って、頑なに帰りませんでした。
「まあ、お金はありますけど・・・」
不労所得がありますけども。だから当分の生活はまあ、困らないけども・・・でもそうはいっても、使ってたらいずれ無くなるし・・・、
「それに俺も何かしたほうがいいならするぞ」
勇者さんは居間に胡坐をかいて腕を組んで、そんな事を言いました。だから私は驚いてしまい『バッ!』と勇者さんの顔を見てしまいました。その際、首がポキポキッって鳴りました。メロディを奏でました。
「な、なんだ?」
勇者さんもそんな私の顔を見て、驚いたような顔をしていました。
「え?」
本当に?
するの?
勇者が?
出来るの?
勇者って下々の人間の営みに適合できるの?
「・・・勇者としての過去がちらつかないっすか?」
一度でも高みに登った事のある人ってそういうのあるでしょう?で、そのうち『俺はこんなことをする人間じゃない』とか『これは本当の自分じゃない』とかって言い出して、過去の栄光にすがりついて、その過去を肴にしてお酒飲んで、更にダメになって、そんで最終的には薬とかに手を出したりするんじゃないの?
「ち、ちらつかない・・・多分」
多分って・・・。
「・・・多分って言葉、好きですよ私」
私も普段、多分って乱用するからね。
というような、まあクソみてえな経緯で、勇者さんは現代社会に残ってしまいました。そして現在もなお、私の家にいついています。私の城。世界で一番私が安心できる、世界で一番私が好きな、大好きな、この場所に。なんか知らないけど、他人が、しかもそいつは、勇者なんですってよ。
見ず知らずの勇者が!
私の家に!
居る!
「・・・」
なんだこれは?
それにこれは・・・同棲ですよね、いってみりゃあ。
「・・・」
一体どういう事なんだろうか?
しかし、いくら考えても私には分かりませんでした。ちょっと異世界に行って、小説家になろうwikiに名前載りたかっただけなのに、どうしておしっこがまっ黄色の勇者さんと同棲することになるの?
それにさ、
「・・・同棲なんてしたら・・・」
子供できるんじゃねえの?
子供・・・、
赤子が、
「童が出来る・・・」
赤子が出来たらどうするんだ?
「・・・」
どうするんだ!
「なんだその顔?」
「はい?」
「なんか、とてつもなく不審な顔しているぞ」
そらするよ。不審な顔するよ。不審しかないよ。だって子供できたらどうすんすか?病院に行って、相手は勇者ですって言わないといけないでしょう?それにあんた国籍もねえっしょ?届出とかどうするんだよ?もろもろの書類とかどうするんだよ。届出出せば、補助もらえるかもしれないけど、でも・・・あんた、異世界から、なんか知らないけど、私について来て、帰れって言ってるのに帰んねえし・・・ああー!
「ああー!」
その辺で、思考容量がオーバーしました。だから私は頭を抱えて叫びました。近所迷惑も気にしないで大声で叫んでしまいました。
「どうした!お腹が痛いのか!」
勇者さんは心配そうに、言いました。
お前の頭はお腹なのか!
私はそう思いました。
で、例えば、例えばさ、そうなった場合、だからつまり・・・御子様が出来た場合。それって勇者の子供じゃん。で、勇者の子供ってまた勇者みたいな事をするでしょ?したがるでしょ?
ドラクエ5とかテイルズオブディスティニ-2とかさ・・・それにちょっと違うかもしれないけど、ドラゴンボールだってそうだし、最近だとナルトもそうじゃん。
そしたらどうなるの私?
あ、
あと、小説家になろうって、連載の途中で一話だけ、ノクターンとかムーンライトとかミッドナイトとかに行けたり出来るの?いやあーでも、出来ないんじゃねー?それにそもそも、子供が出来る過程はノクターンか、ムーンライトか、ミッドナイトか、どれになるんだべが?
ちょっと、なろうのマニュアル見てみよ。
「・・・」
あー、いやらしげに書くんだったらノクターンかー、昼ドラみたいに書くんだったらムーンライトかな・・・あと、すげーいやらしく書いて、ミッドナイトって言い切るのもいいかも・・・。でも、まあ無理かな。私いやらしい話書けないし・・・。
「何みてる」
「ぼああ!な、な、何も見て無いし!」
一人で暮らしていた頃は、パソコンで何みてたって別に気にする必要なかった。
でも、
同棲ってこういう事かー。
同棲ってこういう事だよ。
なるほどなー。
で、それから一ヶ月、私達は遊んで暮らしました。私が持っていたsuicaとpasmoに新宿までの一か月分の定期を入れて、月曜日以外毎日新宿御苑に行きました。私は勿論、新宿御苑の年間パスポートで入園し、勇者さんは毎回二百円払って入りました。そしてエコハウスレストランゆりのきに行ってピクルスを食べ、擬木橋を眺めました。
後は、勇者さんの服をしまむらに買いに行ったり、勇者さんに眼鏡を買ってあげたり、勇者さんの髪の毛を切って、セットしてあげたりしました。
「あらーいいわあー」
「なんだこれ」
「『エド・ウッド』のジョニー・デップさんみたいじゃなーい」
「ソレはなんだ?」
「で、この眼鏡かけて」
「・・・」
「ほらー、眼鏡かけたらもうナインスゲートみたいじゃーん!」
「・・・」
「髭はやしたりしない?」
その後、一ヶ月経っても、まったく何もしないニートの勇者さんに、
「とりあえず、畑とかやってくださいよ」
とお伝えしたところ、
「いいよ」
つって、勇者さんが二つ返事で引き受けたので、私は市役所支所に「県営畑っつーものを貸してくださいいい!」と言いに行きました。ついでにマイナンバーのカードについても聞いてきました。その結果、荒川の土手の所にある県営畑を貸してもらうことに成功したのです。ええ。ちなみに畑の広さはどうでしょう農園三つ分くらいの感じでした。月二千円。高いんだか安いんだかわからん。
鍬とか道具を一式揃えるため、ホームセンターに行って勇者さんに野良着を試着させた際、
「とりあえず、元はとってくださいね」
野良着が気に入ったのか、試着室の鏡に自分の野良着姿を写している勇者さんに私は懇願しました。
「何が食べたい?」
勇者さんは肩に手ぬぐいをかけながら、こっちの話を聞いているんだか聞いてねえんだか知らねえけど、でも、とりあえず開墾とか畑仕事にやる気はあるようでした。
「スイカ!」
私はスイカが大好きです。メロンよりもスイカです。でもメロンソーダも大好きです。
「あと、茄子!」
実家の母の作った、茄子の揚げ浸しは最高なのです。
「ん、なんだ来たのか?」
その時、勇者さんは開墾が済んで、種やら苗やらを植えた一区画にじょうろで水を撒いていました。
「あらまあー、もうすっかり出来ていらっしゃる」
すでに畑は三つとも開墾が済んでおり、なんか土も均されて綺麗になっていました。
「まあ、一人でも毎日やればできるな」
さすが勇者さん。剣を鍬に持ち替えても、やれるもんですな。ゴイスーですね。
「スイカは?スイカはどこですか?」
ただ、とにかくスイカです。
「スイカはここだ」
勇者さんはスイカの場所を指差し、なんだか、ちょっと誇らしげな顔をしていました。
「茄子は?」
「茄子はこれだ」
スイカと茄子以外にもじゃがいもやらにんじんやらきゅうりやらトマトやらとうがらしやらも植える予定です。
「夏楽しみ!」
本当に楽しみ。
「そうだろうそうだろう」
勇者さんは、偉そうに腕を組んでうんうんと頷いていました。
その後、勇者さんの野良仕事が終わってから(私はもちろん何もしませんでした)、勇者さんと土手に上がり荒川を眺めながら、勇者さんのこしらえたおにぎりを食べつつ(一個奪い取った)、私はある事を勇者さんに伝えました。
「あ、あの、勇者さん・・・」
「ん?」
季節は春先、もうすぐ梅雨だけど、その日はとても過ごしやすい日で、風も気持ちよく、天気も快晴、気温もそんなに高くない、湿気も無い。いい時間でした。まあ、告白には少し天気が良すぎるかもしれませんけど・・・、
「わ、私・・・」
もう何これ、ドキドキする・・・。
「・・・」
勇者さんも何かを感じたのか、黙って私の事を待ってくれていました。
「私、あの・・・その・・・」
「・・・」
「す・・・」
「・・・」
「また異世界に行こうと思います」
「あ?」
「異世界に行く目的が出来たんです。だから異世界に行きます」
「ちょっと待て」
「はい?なんすか?」
「お前、さっきの『す・・・』ってなんだよ」
「ああ、あれは、ミスリードです。推理小説とかにあるやつ」
好きっていうとでも思ったのか?馬鹿いうな。ここで好きとかって告白するんだったら、もっとこの話の前半にそういうイチャラブみたいなエピソードを入れるだろうが!片方がお風呂に入ってるのに、ドア開けちゃって「きゃー!」みたいなの書くだろうが!新宿御苑で二人用のベンチに座ってどぎまぎしたりするエピソード入れるだろうが!その帰りにバルト9に行って二人で映画観たとか、そういう話書くだろ。ホテルに行った話とかも書くだろうが!ゴムの日にこの話をアップするだろうが!
「なんだミスリードって」
勇者さんは混乱しているみたいでした。
「物語ではこういうシュチュエーション、こういうタイミングで、好きとかって言うんですよ」
「そういう事じゃなく」
「そして物語では『す・・・』っていうのでまず一回引っ張っておかないと告白してはいけないんですよ」
「・・・」
女子は、何のためらいもなく好きですっていってもなんか尻軽い感じするからね。まあ男の人はそれでもいいかもしれないけどさ。オラオラ系に見えるかもしれないけど。
「私、また異世界に行きます」
「何で?」
「エルフ」
「エルフ?」
「エルフ」
「エルフがどうした?」
「エルフの耳」
「エルフの耳?」
「・・・」
私、エルフの耳をね・・・、
あのエルフの尖った耳をね・・・。
おっと、もうすぐ文字数上限じゃないか!
という事で、理由は次回にします。
ただ、このままじゃあまりにもなんで、異世界に行くサブ理由だけ、お伝えしておきますね。
このままじゃ、なろうwikiに載らないでしょう?
だから再度、異世界に行くんです。
よし!
じゃあ、景気よく!
異世界へアタック!!
あ、
あと、子供は出来ていません。
さ、じゃあ、次回からまた異世界に行ってみたいと思います。
5,000文字