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帰還

帰ってきちゃった。

 なんか帰還なんて書いたら、随分と重大なことをした、成し遂げた、みたいに聞こえますな。


 あ、羽ノ上五ノ井です。どうも。


 とりあえず、一回帰ってきました。


 え?どっから?


 異世界から。


 異世界に行ったら帰れないってよく聞きますけど、でも意外と帰れるって。ガッツとかで、あと根性とか。まあ、私は両方持ってないですけど。


 たださ、その際ちょっと問題が発生しました・・・。


 「おい、なんだ!ここはどこだ?」

 やべー、異世界からついてきちゃった。


 勇者さんが。


 「お前、なにしたんだ!これ、お前一体なんだよ!」

 やべーマジやべー。これあれじゃね?『未開惑星保護条約』に引っかかるんじゃね?逆輸入じゃね?逆輸入でしょこれ!海外の無修正のやつみたいな感じで。


 「あー、とりあえず・・・ちょっと静かにしててもらえますか?」

 まあ、私だったら聞かないけどね。


 「お前、魔術師か!?おい!やっぱり魔王の眷属だったのか!?」

 そりゃそうなるよなー。


 ただ、とりあえずうるさかったので、私はカバンからスタンガンを取り出すと、それを勇者の人に当てました。皮膚の部分に。


 「うががががが・・・」

 すると勇者の人は、うががが言って道端に倒れました。泡を吹いて気絶しました。勇者の人って、結構危ない戦いとか、属性攻撃とかもくらったりしてたでしょうから、スタンガンとかそんな程度のものが効くのか心配でしたが、でも効いたみたいでしたので良かったです。

 「良かった地面タイプとか岩タイプのポ●モンじゃなくて」

 んで、あとは周りに対しての配慮ですが、これは大丈夫です。血は血糊、勇者の人は撮影でこういう格好をしている。みたいな感じに伝えたら、まったく問題ありません。そもそも現代は大体これで何とかなります。


 それから私は車道に出て、タクシーを止めました。

 「ヘイ!タクシー!」

 タクシーなんて普段は乗りませんが、絶対に乗りませんが、今日は乗って大丈夫です。理由は後述で。



 「もう、重たい!」

 苦労して気絶した勇者をタクシーに押し込むと、運転手さんは、こちらを振り返り笑って、

 「大変だねえ」

 と言いました。

 「ええ。でもまあADなんで」

 私はそう答えました。平然とした感じでいうのが重要ですねやっぱり。


 「とりあえず、郵便局に行ってください」

 鍵です鍵。家の鍵。プロローグ参照。














 家です。まだその日の昼間です。

 「・・・というわけで、貴方は今異世界にきてますね」

 私の家。目の前に異世界の勇者さんがいます。で、とりあえず今彼は白湯飲んでいます。白湯飲みながら私の話を聞いています。何の飲むかわからなかったので白湯を出したんです。一番安牌だと思ったんで。私はコーヒー。泥水みたいなコーヒーを淹れて飲んでいます。美味しい。超美味しい。

 あと勇者さんの異世界に来て、うんたらかんたら、テレビ見て話しかけるとか、紙のお金よりも硬貨のほうが価値があるみたいな、ああいうのはもう終わりましたから。あれ面倒なんで。うん。あとなんか見てるこっちが恥ずかしくなるし。それにどう書いたって『テルマエ・ロマエ』の阿部寛さんの方が面白いし。


 で、

 「・・・」

 お風呂上がりの勇者さんは黙ったまま、とりあえず最後まで話を聞いてくれました。


 「・・・あの・・・?」

 しかし、私からの話が終わっても、勇者さんはダンマリのままでした。どうしたんだろうか?心配になりました。『この野郎!お前この野郎!!」とかってキレて襲われたりするんだろうか?いやらしいことをするんだろうか?エロ同人みたいに。やべえな。されたらやべえな。だって勇者といえば、それはもう筋骨隆々の存在でしょう?筋肉に脳みそがついているみたいな・・・でも、だったらまあ大丈夫だろうかな?現代に存在する勇者ってったらまあ大体色恋沙汰には無頓着な場合が多いし、ヒロインがアホみたいにアピールしても、普通な感じだし、奥手だし、童貞だし、八方美人だし、だからまあ、同人とかでヒロインNTRたりするんだけど・・・。


 「・・・とりあえず話はわかった」

 すごい溜めてから勇者さんは、頷いてそう言いました。


 「ぶぶっ!」

 私は口に含んでいたコーヒー噴きました。霧状に。


 「わ、わ、わかったんですか!?」

 驚きました。私だったら絶対にわからないけど?って思いました。何?理解力とか読解力が違うの?あ、ちなみにファンタジーの話って読むと読解力がつくらしいですよ。本当かどうかは知りませんけど。ただ私はファンタジー読まないから、読解力がないっていうのもまあ・・・うなずけるだろうか・・・?


 「わかった。お前みたいな風を装って言えば、俺はそういうファンタジー世界の人間だ。だからまあ、わからないことは無い、そういう魔法もあるだろうか?みたいな感じかな・・・」

 勇者さんはそう言うとコップの白湯を全部飲みきり、ふう、とため息をつきました。


 「はあ・・・なるほど・・・」

 ルーラってこと?


 「おかわり、もらえるだろうか?」

 勇者さんはそう言うと、空になったコップの底を見せてきたので、私は薬缶からお湯を注いで差し上げました。


 「・・・」

 「・・・」


 で、その後なんか知らないけど、私達はお互いに沈黙してしまいました。


 あー気まずい。私がそんなことを考えながら、勇者さんに金満とか出した方がいいんだろうか?秋田銘菓の金満を?とか、昼間のうちに洗濯とかしたいなあ、とかって考えていると、


 勇者さんが、

 「こうして落ち着くまで、色々と混乱していて、その・・・忘れていたんだが、ありがとう」

 と言ってきました。


 なので、今度はだばあってしました。口からコーヒーだばあって。ぺヤングじゃなくて、コーヒーが。


 「何?なんで!?」

 怖っ!


 いや、怖いでしょう?普通怖いじゃないですか?見ず知らずの人にいきなり感謝されたら怖いじゃないですか?その後、命を奪うつもりなんじゃないのか?って思いません?思いますよね?そういうのあるじゃないですか!?感謝してから、殺す系のやつ。なので私はとりあえず、勇者さんから体を引きました。だっていきなり感謝されたんですよ?感謝。食事をする前だって感謝するでしょ?自分の栄養の為に死んでくれてありがとう。調理されてくれてありがとう。みたいなの。感謝ってそういうことでしょ?


 「あんたがあのタイミングで来なかったら、俺はずっと動けなかったからな」

 勇者さんは、白湯を飲みながら窓の外を見ていました。じじいみたいな感じで。あるいはババアみたいな感じで。しかし安心はできません。そうやって油断させてからの一撃、首切るみたいな、そういうこともよくあるからね。ホラー映画とかでよくあるから。最後実は終わっていないっていう感じでよくあるから。で、首切れたら人は死にますからね。ええ。死んだら終わりです。どんだけ想いがあろうとも、どんだけ情熱があろうとも、熱意があろうとも、死んだら終わりですから。例え国に彼女を残して戦争に行って「帰ったら結婚するんだ」って言ってても、死んだら終わりです。そして死亡フラグとかって言われて処理されるのがオチ。劇中の一つの目玉みたいにされるのがオチ。お涙頂戴の部品に組み込まれて見た人のストレス解消になるだけだぜ。


 そら、勘弁ですよ。


 「あ、ああ、そうですか・・・」

 私の首はカチカチ、もうすごいカチカチ。首どころか体全部がすごいカチカチ。鉄で出来ている。アダマンタイトで出来ている。オリハルコンで出来ている。私はその時、とにかくそう自分に自己暗示をかけていました。ラルフみたいに強い。私はラルフみたいに強い。それどころか怒りチームくらい強い。私。私は。あ、ところで最終決戦の時、私がどっかーんって言って閉じ込められた所から出たのは、ラルフさんのギャラクティカファ・・・、


 「・・・ただ・・・」

 勇者さんは、また下を向いて黙りこくりました。

 「・・・」

 だもんで私は私でいよいよ殺されるのかと思って、ドキドキしていました。それどころか、彼を家に上げた事も後悔していました。なんで上げっちゃったんだろう?って思っていました。凶行に及ばれたらどうするんだ?いや、普通及ぶ。凶行に及ぶ。絶対に及ぶ。だって勇者はそれまでずっと凶行に及んで旅をしてきていた輩だし、それが仕事だったし。中には人間の敵もいただろうし、盗賊とか。いたし、エンディングの中に盗賊いたし。だから今更私如き、殺すのはなんともないだろうなあ。殺してバラバラにしたって別に眉一つ動かさないんだろうなあ。ああ、詰んだ。詰んだ人生。私詰んだ。あのまま道にほっぽっといたらよかった!あばばばばば・・・。


 「もしかしたら・・・あの時・・・魔王は・・・」

 勇者さんは、その時、下を向いて手を組んだり、両手を組んだり離したり、落ち着きなくそんなことをしていました。

 それを見て私は、子供の頃、学校の授業中、そういう手遊びをしていると、先生から『親のおっぱいをいじっているのか?』って言って注意されたことがあったのを思い出しましました。いじってねえし!って思いましたが、でも学校のクラスっていうのはそういう、ある種の不名誉な辱めに対して沸く所があるので、それで『クスクス・・・』っていう笑いが起こって、ああ私恥ずかしかったなあ・・・ああ、ダメダメ、学生時代のことを思い出すと本当にダメ。自殺したくなるから。


 「・・・」

 私はそんな勇者さんを見て、一つ、思いついたことを何も考えもせずに彼に対して言ってしまっていました。


 「もしかして・・・魔王を倒した事に罪悪感があるんじゃないですか?」


 「・・・」

 すると勇者さんは手遊びをやめて、顔を上げ私をじっと見ました。勇者とは思えない暗い目をして。


 「おしっこ真っ黄色?」






 同日、夜。

 「・・・」

 洗濯も終わらせて、私はパソコンに向かっていました。ドコモのサイトに行って、自分の今月のご利用通信データ量を見たり、あとはアマゾンに行ってほしい物リストを増やしたり、ヤフーニュースを眺めたりようつべ観たりと、まあそういう事です。いつもの事です。

で、とりあえず今、勇者さんは寝ていました。玄関からすぐの所の名ばかりの廊下で寝てもらっています。


 なんかアルコールを飲ませたら、すぐに寝てしまいました。


 まあ、疲れていたんでしょうね。


 本音を言えば帰ってもらいたかったんですけど、でもまあ、仕方がありません。



 昼間、勇者さんは言いました。

 「あの時、魔王は、もしかして、もう戦う気などなくて、俺に殺されるのを待っていたんではないか?」

と。


 「ああ、倒して欲しい系の?よくいますよ?」

 魔王と戦う時っていうのは大体、面白さも興奮もピークも過ぎて、もう事後作業みたいなもんですからね。


 そしてそれは同時に、勇者の終わりだとも。


 それはどうだろう?その後幸せな人生を送りました。って言っても、全部が全部幸せであるわけはないでしょう。生きてる限り色々あります。それに有名で人気があればあるほど、その人のスキャンダルを人間って求めます。だから不倫がバレたり、不正がバレたり、麻薬がバレたり、そういうことがある。子供だって誘拐されるかもしれない。あと、こっちの世界だったらまあ、政治の世界に誘われたりするかな・・・そんで資金の使い込みを責められたり、問題発言を責められたりする。


 何かを成し遂げた人間にとって、それほどつまらなくて辛いこともない。


 だから自殺する人もいる。


 残された時間が辛すぎるから。


 「でも、大丈夫」

 私のその言葉に勇者さんは、澱んだ目を向けました。


 「大丈夫ですよ。大体そういうもんです。人生ってつまらない時間の方が多いんだから」






 明くる朝、私が目を覚ますと、すぐ横に勇者さんが座っていました。うわあ!犯されるのか!私はそう思って身構えましたが、違いました。


 「お願いだ。俺をしばらくここにおいて欲しい」

 そう言って勇者さんに頭を下げられました。


 「はい?」

 寝ぼけてるのか?いや、私が寝ぼけているのか?


 「頼む」


 「・・・えー・・・」





 その後、とりあえず朝飯を食べてから、魔王の玉座の下、私が閉じ込められていた所に入っていた金塊の数々を換金するために、私達はイオンに行って怪しく見えない程度のスーツを買い、それから都内の金買取ショップに向かいました。タクシーじゃなく電車で。


 それで当面の家賃とか、ドコモの携帯料金とかはもう心配しなくても大丈夫そうでした。


 いやー、こういう生活憧れだったわー。


 それから勇者さんに、私の本名を教えました。

あの時、心の中のラルフを出して、ギャラクティカファントムを放ったのです。


5,000文字

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