最終決戦
連載って言っておいてプロローグだけじゃ、さすがにあんまりだったので、早めに書きました。
「あううう」
どうも 羽ノ上五ノ井です。
ごめんなさい。
ちょっと今、ニコニコ対応する余裕がありません。
とりあえず異世界に来てるみたいなんですけど、でもなんか・・・、
「なにいいー!」
暗い。
狭い。
動けない。
あと、なんか外から音がする。
今、そんな状態なんです。
「何これー!」
どうやら 何かに入っているみたいなんです私。
狭いところに入っています。
そこでしゃがんで膝を抱えているような状態なんです。
「出たいー!」
これはあれでしょうか?SAWの新作か何かでしょうか?あるいはソリッドシュチュエーションホラー系のなんかですかね?
「・・・え・・・」
それ・・・笑えないじゃん・・・。
だってSAWだったら頭バーンってなったり、全身の骨がバキバキってなったり、ノコギリでギュイーンってなったりするってことでしょ・・・。
笑えないなあそれ!
全然笑えないじゃん!
っていうことはさ、
「・・・ここから、この狭い場所から出たら、なんかタイマーかなんかの装置が作動して、あと一分でダイになるって事じゃん・・・」
異世界来て一分で死ぬ・・・。
のは斬新は、斬新だろうか?とりあえず惨死ではあるだろうけど(韻)。
あ、でも、短編でありそうだな。そういうの。
アンチ異世界の人が、まあ例えば私なんかが書きそう・・・。
書いたっけ?
いや、あ、書いたかも。
200文字お話のどっかで書いたかも・・・。
ああ、でも、ちょっと、ああ、ちょっと待って、無理、もう無理。
出たい。ここから出たい。暗くて何も見えない。狭くて身動きも取れない。出たい。出たい。暑い。暑い。いや、いやいやちょっと待って、タイム、待って、駄目、駄目だって駄目、騒ぐとパニックになるから。パニックになったらもう何も考えられなくなって、また騒いじゃうから。ぎゃーぎゃー騒いじゃってもうどうにもならなくなるから、駄目、駄目、落ち着いて。落ち着くんだ。落ち着くクール。クール!
素数を数えるんだ。
素数を・・・、
素数知らないっ!
ああああ暗い狭い怖い出たい出たい出たい出たい・・・。
もういい、もういい。頭バーンってなってもいい。全身の骨がバキバキってなって圧死してもいい。のこぎりでチュイーンってなってもいい、なってもいい。もうとにかく出たい。ここから出たい。出る。それに考えてみたら異世界に来て、そうやって死ねるんだったらそれはそれでいいじゃん異世界っぽいじゃん。むしろ異世界に来ておいてそういう体験の一つもしないんだったら、もうそれは単なるチートじゃん。死んだっていい。死んだっていいからとにかく出たい。出る。出ます。出せ。だから出せ!とにかく出せここから出せ。いつもここから出せ!
「出せー!おらー!!出せー!!!」
私はバンバンとあたりをやたらめったら叩きながら叫んだ。喚いた。暴れた。
ちなみに現実社会の私はこんな乱暴な事はしない。怖いし、後ですごい自己嫌悪が襲ってくるから。それに乱暴な言葉も一人カラオケに行ったときしか使わなかった。死ねとか殺すとかそういうの。でも現在、ここは異世界だから、というその事実(まだ確証は取れてない)が、私にある種の大胆さと冒険力を与えていた。
「変態がー、こんなところに閉じ込めやがってー、ド変態がー!ド畜生がー!!」
あと暴言力も与えていた(韻)。
まあ、そんなのなんかね、高校デビューみたいで引くけども・・・。異世界デビューみたいな感じがしてとても引くけども。顔が赤くなっちゃうけどね。
でも、とにかく私はその場所から、その狭くて暗くて身動きできない場所から出たかった。すぐに出たかった。
それというのも、子供の頃からお布団の足の部分が密閉しているのが嫌な子供だったからだ。家ではもちろんのこと、ホテルとかに泊まるときも必ずお布団の足元のベットに巻き込んでいる部分を開放してから寝る子供だった私。足元にも風通しを求めていた私。暑くなったら足を出して涼しくなるようにしていた私。
あと更に申し上げますけど、私はうんこ座りが出来ない。足首が異様に固くて出来ない。
だから雨が降った次の日のグラウンドでの授業とかでしゃがんで待つとき、本当に苦痛だった。信じられないほど苦痛だった。運動会とかでもしゃがんで待つときとか本当に苦痛だった。だってうんこ座りが出来ないから。足首がガンダムかって言うくらい固いから。カッチカチだから。カッチカチやぞ!っていうくらいカッチカチだから。エヴァみたいに固いから。アイアンマンみたいに固いから。私の足首は。
だから、
それが、
そんな私が、
「狭いー暑いー怖いー死ぬー出せー!出して殺せー!!せめて出して殺せー!!!」
そんなところに放り込まれたら、それはこうなる。
真っ暗な狭い箱みたいなところの中に、膝抱えてしゃがんだ状態で閉じ込められたら、
それはこうなるって!
異世界じゃなくても 現実社会でもこうなるって。
「出してー!閉所恐怖症になりたくないからー!出してー!」
閉所恐怖症じゃなくてもこんな目にあったら閉所恐怖症になっちゃうと思う。
いや、なる。
絶対になる。
私は閉所恐怖症になりたくなかった。
それまでの人生で押入れとかに入るのが大好きだった私。クローゼットにも入りたがった私。かくれんぼが好きな私。大人になった今でもかくれんぼしたい私。狭い所に入るのが苦ではない私。狭いところに入ったとしてもしゃがんだ状態じゃなかったらいいのだ。幾らでも入っていられる。狭いところが好きだ。『おしいれのぼうけん』とか最高だった。あと例えばピクシブのいやらしい絵とかに、狭いところでいやらしい事をしている絵とかがある。大好物です。だからそれ関係によく付随されるタグ、見せない構図とか、隠姦とかも、大好物だ!
大好物です!
でも、しゃがんだ状態で、←コレが重要ね。
しゃがんだ状態で、閉じ込められたら、もう駄目だ。
駄目だもう!
発狂する。
「うわあああん!ぎゃあああん!!ぎゃおおおおん!!!」
これで発狂しない奴はドMだ。マゾヒズムだ。
あるいは既に狂っていると思う。
あと、ちなみに暗いところは別に平気です。だって私の心のほうが暗いし。
魔王は文字通り、魔王の間にいた。
そして魔王の間には勇者である自分しか入ることが出来なかった。
「やっとここまで来た。あとはお前を倒して終わりだ」
本当はすでに体力も気力も限界だったが、それでも部屋の前で待ってくれている仲間達や、今まで死んでいった人々の顔を思い浮かべたら、そんな弱音は吐けなかった。例え口が裂けても。
「クックックッ・・・無理をするな勇者を名乗る者よ。お前一人で何ができる?」
魔王は玉座に偉そうに座り、あごの辺りを手でさすりながら、ニヤニヤと笑っていた。奴は俺のこの疲労困憊の状態をしっかりと把握していて、その上で余裕をこいているような不遜な感じだった。
「そもそも私は、勇者などというもの、未だに信じていないからな」
「今、お前がこういう状況に追い込まれていてもか?」
俺は剣を構え、その剣先を魔王に向けて言った。
世界の悪はもう魔王しか残っていなかった。
俺や俺の仲間たちは、時間をかけて苦労して世界中を旅し、魔界の眷属やら四天王やら他の幹部なんかも全て倒し終えていた。無論雑魚敵に分類されるものはまだ各地にいる。しかしそれにしたって魔王を倒すことができれば、奴の洗脳から解き放たれて、少なくとも現在のような害はなくなる。
つまり、もう本当に魔王しかいないのだ。
もはや世界にとっても俺にとっても、魔王は悪の親玉、恐怖の存在というものではなく、単なる平和への最後の障害でしかなかった。
それなのにその魔王は、こうして俺と、勇者としてここまでなんとか死なずに生きてきた俺と、魔王からしてみれば、もはやこちらこそが恐怖の存在だろう、その大元凶であるはずの俺と、この俺と対面しているにも関わらず、未だその玉座から立ち上がることもせず、余裕綽々な態度でいた。
それは、
魔王を倒すと決め、決死の覚悟でこの場所に乗り込んで、ここでもまた多くの敵を殺してきた俺、俺に、
俺にしてみたらそれは、
無謀にも見えたし、あと、
「・・・」
不気味にも映った。
俺だったらどうだろうか?果たして悠々と座っていられるだろうか?もはや自分しか居ないと分かってもなお。
そして玉座に座って、ただニヤニヤしているだけの魔王の存在は、絶対に殺すと息巻いていた俺の事を、勇者としての役目を果たすと決めていた俺の事を、思いのほか、
冷静にさせていた。
別に油断しているわけでもない。慢心しているわけでもない。でも冷静になった分、頭が働くようになって、俺は今、ある想像をしている。
例えば、例えばだ。
俺が今これから、魔王と戦い、そしてそれに負けた場合のことだ。
仮にも勇者である俺が負けたら?
どうなるだろう?という事だ。
死んで終わりならいい。
がんばりましたけど、勝てませんでした。
死ぬほど努力しましたけど、負けてしまいました。
それはそれでかまわない。
そんな事は良くあるだろうし、どうせ死んだら終わりなんだから。
でも、
もしも、
俺の死によって、
もしもだ。
もしも魔王の幹部たちが皆復活して、この世界が本当に最悪だったあの頃に戻るとしたら?
どうする?
俺がしたのはそんな想像だった。
その想像は戦う前にするものでは無いし、とても嫌なものだったが、それでも現実味があるように感じた。
勇者である俺が負ければ、この魔王にはもはや脅威となるようなモノは存在しない。
例え、どのような大国の軍隊が攻め込もうとも、どのような強力な兵器を使おうとも、この魔王には傷ひとつ付けられない。
勇者であるものしか、倒すことが出来ない。
それは奴が魔王だからだ。
魔王だから勇者しか倒せない。
魔王だから。
だからここで俺が負けたら、魔王にはもう恐れるものがなくなる。
それは俺が勇者だからだ。
勇者だから。
つまり現実問題として、俺がここで魔王に負けたら、そうなるんだ。
世界はまたあの頃に戻る。
俺の住む村が攻撃されて、その際、俺を助けるために両親が死んだ。好きだった幼馴染もその時死んだ。
あの頃に。
「・・・」
最悪だったあの頃に。
戻る。
死んだら終わりだ。もう自分には関係ない。そう思うことが出来たらどれほど楽だろう?
俺だって最初はそうだった。
しかし一応の勇者としてここまで旅をしてきて、仲間と出会い、敵を倒していって、各地を最悪の事態から救っていく度、そうは思えなくなった。
ここまでどれほど苦労した?何度死ぬかも知れないと思った?何人の人間が死ぬところを見た?どれほどの人間にそれぞれの営みがあるのを知った?
「・・・」
それを考えると、負けるわけにはいかなかった。
しかし・・・、
今、
・・・、
体全体に鳥肌が立った。
心の中に嫌なイメージがどんどんと沸いてきて、俺はその場で、剣を構えたまま動けなくなっていた。
「どうした勇者を名乗る者よ?かかってこないのか?」
魔王は玉座に座ったまま、右手の人差し指を小さく光らせた。攻撃かと思って身構えたが、違う。奴の座っている玉座の周りに紫色の炎が点っていった。
「最後の戦いだ。私とお前だけ、邪魔者は何も存在しない」
「うるさい、お前を殺したらまず何を食べるか考えているんだ」
足が、
震えているかもしれない。
ここまで来たら、もう負ける事は出来ない。
ここまで来たら、もう負ける事は出来ない?
何故?
相手が魔王だからだ。
最後だからだ。
だからもう負ける事はできない。
「・・・」
背中に嫌な汗が伝う。
それは・・・、
恐ろしい事だった。
魔王は勇者など信じていないと言った。
俺は、
俺自身も本当は、
そう思っていた。
俺が今まで勇者として生きてきたのは、何とかかんとか負けずに勝ち続けてきたからだ。そもそも世界の中に魔王が生まれれば、勇者を名乗るものは腐るほど出てくるだろう。その中で俺は仲間にも恵まれたし、運もよかった。死ぬかもしれないと何度も思ったが、とにかく負けなかった。そうしているうちに他の勇者を名乗るものが脱落していっただけだ。俺自身、いくら勇者だといわれても自信は無かったし、実感も無かった。ただ、負けないように鍛錬を怠らなかった。不意打ち等にもうまく対応できるように努力をした。負けないように努力した。強くならないといけない。そう思っていた。
勇者だからだ。
でも、本当は、心の底では、自分が勇者だなんて思っていなかった。
勇者って言うのはもっと崇高な存在だと思っていた。
自分はそうではない。
いつも死ぬかもしれないと思っていた。
怖かった。
ずっと。
敵を倒すのだって嫌だった。
返り血を浴びるのも恐ろしかった。
自分がそうなっていたかもしれないと考えると夜も眠れなかった。
それでも、
勇者だと自分に言い聞かせて、世界が平和になるんだと、世界を平和にするんだと言い聞かせて、
俺は今までやってきた。
必死で。
ただ必死で。
でも、ここに来て、
この魔王の間に入って、
俺は、
勇者じゃなければ入れない、この魔王の間に入って、
俺自身、
本当に、
勇者なんだと、分かってしまった。
俺は本当に勇者だったのだ。
それから恐怖が、冷静になったとたん、その恐怖が体の中に溢れた。
勇者なら、魔王に負ける事はできない。
勇者じゃなければ、魔王じゃなくとも、敵に負けても構わない。
負けました。すいません。本当の勇者を探してください。死にます。
そう言える。
しかし、本当に勇者であるなら、それは許されない。
だって、
だって勇者なのだから。
勇者である以上、負けたとしても仕方が無い。勇者じゃないんだから。
それは通用しない。
俺は勇者なんだ。
魔王を倒せる唯一の存在。
勇者なんだ。
負ける事は許されない。
「・・・うぐっ・・・」
恐怖で吐きそうになる。立っている事が出来ない。足が震える。駄目だ。やめろ。止まれ。剣先が、魔王に向けた剣先が震える。やめろ、魔王に気づかれる。
やめろ。止まれ。止まれよ・・・。
「勇者を名乗る者よ、どうしたというのだ?」
尊大な声。魔王の声だ。世界を征服しようとした、悪の声。奴によってたくさんの人間が死んだ。殺された。だから俺は、勇者として奴と戦い、そして勝たなくてはいけない。
勝たなくてはいけない。
「・・・ちょっと・・・待ってくれ・・・」
辛うじて剣を構えたまま、今にも座り込みそうになるのを堪え、吐き気を催すほどの恐怖に耐える。
「まさか、貴様は・・・」
魔王はそんな俺を見たまま玉座から立ち上がると、一歩一歩とこちらに近づいてきた。危ない!攻撃が来る。俺は咄嗟に思った。しかし、その目は・・・魔王のその目は・・・、
おい、その目はもしかして・・・、
「ドッカーン!!」
突然の怒号。
魔王の玉座の下から何かが飛び出した。
「おらあああー殺せー!」
誰だ?
しかしその怒号によって俺は弾かれる様に、魔王に向かって走っていた。
魔王の注意もその誰かに向いている。
でも奴は、すぐに気がついて俺を振り返った。
俺はそんな魔王の首筋に剣を突き刺した。
参考文献:即興小説トレーニング、和委志千雅『カフンショウ』http://sokkyo-shosetsu.com/novel.php?id=365283
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