永作博美さんのやつ(サイゴノヒトトキ)
いつからやって今こうなんだっけ?
羽ノ上五ノ井です。
「うわあああああ!」
前回、勇者さんが何の考えも展望もなく崖から飛び降りるという自殺行為を企てました。
エルフに追われていたとは言え、大量のエロフに追われていたとは言え、そんな痴漢と間違われて線路に走り出すみたいな、とんでもないことしたのです。これは家族会議ものです。
んで、その背中におぶさっていた私もそれに付き合わされました。その紐なしバンジーにです。一番の問題はこれです。勇者さんは大丈夫かもしれません。勇者だからね。だって勇者だから体も丈夫かもしれません。骨とかもアダマンタイトとかでできているのかもしれません。骨密度だってミニ四駆のタイヤの真ん中に穴の開いているシャフトくらい丈夫かもしれません。でも私は一般人なので、そういうことがあると大抵の場合死にます。パーン!ってなります。ゴリゴリパーン!です。それにGTOでだって、バンジーの時はナイロンの紐あったっつーの。だからこれはつまり私の中ではかなり立派な無理心中というやつでした。桐の化粧箱に入れて包装してのし付けてあじかなんかの干物を指した立派な無理心中でした。ジューシーリームーでした。
で、
「おぺぺえええ・・・」
結論から言いますけど、助かりました。なんか助かりました。まあ、飛び降りたので私は吐きましたけども。大きな木の根元に。
ただでも、とりあえず助かりました。
助かるということを第一に挙げるとしたら、その意味では助かりました。とても助かりました。無傷。五体満足。吐いたけど。吐いてすぐ口から内臓が出たのかと思いましたが、それもよく見たら昨日食べたアルゴスのワームでした。
「ふー、死んだと思われたかな・・・」
勇者さんは崖の上を見ながら平然としていました。今現在、私達は飛び降りて谷底にいます。
いやあ、しかしやばかった、死ぬと思った。
「すぬまづがいねぐすぬ!」
って私は叫んだもの。だって飛び降りた時、VRみたいだったもん。VRのすごいやつ。ものすごいやつ。
「大丈夫か?」
四つん這い・・・ヨツンヴァインになって吐いている私を尻目に、勇者さんは私のカバンを何の許可もなく勝手に漁って、川の水の残りが入ったペットボトルを取り出すと、それを飲み、更にその残りを私に差し出してきました。
「だ、大丈夫じゃねえよ!」
吐いちゃったじゃん私。吐瀉しちゃったじゃん。内臓とか舌かと思ったよ!これを吐いたんだよ私!そもそも吐瀉するとかあんまないよ。アニメとか映画とか小説とかであんまないよ!その描写!私の好きな『香港国際警察/NEW POLICE STORY』の最初でちょっとあったのを覚えているくらいだよ!あ、あと安田さんとかだよ!
「まあ、吐く程度だったら大丈夫だろ」
なんてこと言うの?何この勇者、信じられない。もしこれが原因で私が将来拒食症になったらどうしてくれる!
あ、ちなみに助かった理由なんですけど・・・、
「しっかし、よく助かったなあ」
おい!今私が助かった理由を述べてるだろ!
「・・・助かったね・・・マジでね・・・」
私は吐いちゃいましたけどね。安田さんみたいに吐いちゃいましたけどね。助かったという意味では助かりましたね。無事ではないかもしれませんけどもね。吐いちゃったからね。
んで、あらためて助かった理由なんですけど、
「んで、これからどうするんだ?帰るのか?エルフに会えたろ?」
こらあ!お前え!二度目え!
「・・・ひどいエルフでしたね。矢とかすごい放ってきたね、信じられないくらい放ってきたね」
ほら、映画とかですごい銃弾の雨を避ける主人公っているじゃないですか。ああいうのって今まで私「そんなに避けれるかよ!」って思っていたんですけど、意外と避けれるんだな。まあ、避けたのはほぼほぼ勇者さんだけども。
「どうする?」
私の感想にも勇者さんは普通の感じでした。慣れているからなのか、何なのか、この温度差よ。
「・・・」
「それともあの塔が、気になるか?」
勇者さんはヨツンヴァインになって吐いたままの体勢になっている私を全く意に返さずにそのようなことを述べました。
「・・・気になるって言ったら勇者さんどうします?」
いやあ中に誰かいたんだよねえ。バイオのベロニカのノスフェラトゥみたいになんか。
私がヨツンヴァインのままちらりと横目で見ると、勇者さんは腕を組んであさっての方向を向いていました。そっちにあるのは岸壁です。谷底なのでそれくらいしかありません。それともそこに燕の巣でもはっついているのか?でも、それはほんの少しの時間でした。本当に少し。それから直ぐにこちらを見て、
「もしもだ、もしも俺がやめておけと止めても、行くって言うんだったら、武器がいる」
勇者さんは言いました。
「こんなちゃっちいのだけじゃなく」
手にはまだちゃんと包丁を握りしめていました。それでアルゴスのワームを倒したじゃん。ちゃっちいってよあんた。でも、
「・・・」
「なんだよ?」
「勇者さんもそういう回りくどいことを言うようになったんですね?」
だいぶ現代社会に毒されてきたんじゃないですか?大丈夫なの?
「なに、ここは俺にとっても異世界だ」
勇者さんはどや顔でそんなうすら寒いポエムみたいなことを言いました。
「へー」
俺にとっても異世界っすか。
「何だよ?今俺、いいこと言ったろ?」
うわー。でもまあ・・・確かにそうか。
「あ、でも、勇者さんはあれですか?ペルソナ3の主人公みたいに武器なんでも使える人?」
「何が?」
「だから弓矢とかも使えるんですか?」
「まあ・・・それなりには・・・」
「あ、そうなんだ。じゃあ、私やりたいことあるんですけど?」
世にも高名な諸葛孔明が弓を集めた逸話のやつ。あれ。あれやりたいんですけど。
「いいから、とりあえず立てよ」
「腰抜けてます」
だって私、今まで飛び降りたこととかないもんだから。何度もそういうことをしたいと思ったことはあったけど、でも実際なかったから。うん。しかし、あれだなあ。なんでもやっておくもんだなあ。私も旅猿のカンボジアのアイランドホッピングの回のやつみたいな事やっとかないといけないのかなあ・・・。
がさがさ
その時不意に、あの定番すぎる茂みをかき分ける何かの音がして『がさがさ』ってして、谷の向こうから
何かの人影が・・・、
あ、こういう場合、エルフ影っていうのが正しいのかな?人影じゃないよな、確かに!
いやでも、エルフ影?
ただとりあえず腰抜けてますけど私。イング系なんですけど。あと吐瀉したものをあまり人様に見られたくないんですけど・・・エルフ様に見られたくないんですけど。エルフ様っていうか。
それから一等重要な事、私、私達が飛び降りて助かった理由まだ言ってないんだけど・・・。
いや、今言っとかないとさ。ほらすぐに言っとかないとさ!後になればなるほど言い辛くなっていくものだからそういうものって。映画の犯人とか、トリックとか、異世界に行く方法とかだって、早めに言っとかないと、後になって言ってもしょぼいだけだからさ!がっかりされるだけだからさ!
だから、助かった理由なんですけど、
「立て!隠れるぞ!」
勇者さんは、そういって私の腕をつかんで乱暴に立ち上がらせました。時世が時世なら、それだけでセクハラとか痴漢と騒がれるはずの行為です。
っていうか、畜生、またしても邪魔が。大体、勇者が邪魔してくるな。やっぱり勇者だからってでかい顔してるんじゃねえかな。
私の名前は、オーアーシー。
この世界に生きるもの。
勇者と名乗るものと、その奴隷というものがこの世界に来た。それは私が生まれて初めてのことであった。理由はこの世界はずっと閉じた空間の中にあったからだ。長がまだ若いころ、同じような事があったという話を聞いたことがある。しかしそれだって本当かどうかはわからない。
しかし勇者と奴隷は、どこからか不意に現れたように感じる。その際、奴隷のほうが、何かを叫んだ。
「エルフダ」
「エルフイッパイインジャン」
そう言った。意味はわからない。奴隷は自らを奴隷言いつつも、もしかしたらあの時、何かの呪文を唱えたのかもしれない。その後すぐに勇者に折檻されていたので、呪文を唱える途中だったのか、あるいは唱え終わったのか。
「お前があれを産んだ時から、私達のこの世界はおかしくなったのだ!」
ちなみに、折檻ということであれば、今の私も受けている。私はそういって長に頬を張られた。
「全く、ろくなことがない!あの者どもは、牢にあれがいることを知っていたぞ!」
「申し訳ございません」
私は出来る限りの思いを込めて、そう述べた。私のせいではなくても、そう言わないといけない。私があれを産んだ時から、そう決まった事。
「やはりあの時、殺しておかなくては、お前ごと、殺しておかなくてはいけなかったのだ」
長は頭を抱えていた。
「しかし、あの子がいるからこそ、今日まで私達は平和に暮らしてこれた・・・」
言い終わるのを待たず、私はまた頬を張られた。思いっきり振りかぶった長の手が見えた。
「偉そうなことを言うな!我が一族の恥さらしが!」
恥さらし、確かにそう。そうなるだろう。
「お前を生かしていたのも、お前が懇願してきたからだ、情けなく、私の足に縋り付いて」
全くその通り。その通りだ。
「あれが、私達に平和をもたらしてきた、確かに、確かにそうだ。今までは、いいかよく聞け、今までは、だ!今日、こうして愚か者どもが、ここに、私達のこの平和な世界に現れた!どうしてくれる!お前のせいだろう!お前たちのせいだろおおがああ!」
そうしてまた一発。二発。それだけでは飽き足らず地面に押し倒されて、蹴られ続けた。私は体を丸くしてそれに耐えるしかなかった。奥歯を食いしばって必死に耐える。それでも肺のあたりを蹴られたら口から息が漏れた。それを見ていた他の奴らにも、助けてくれる者はいない。哀れな目をしてみているだけ。中には薄く笑っている者もいた。それでも私は終わるまでただ体を丸めて耐えるしかなかった。
そうして私はいつものように、あの子のことを思った。口を聞いたこともないあの子のこと。それだけを一心に思い続けた。
「ここを見張れ、あの勇者とか名乗るものが来ても絶対に通すな」
長が来ると、そう言った。
「わかっていますとも」
僕がここに立っているのはそういう理由です。そう言いたかったが、今の長は明らかに機嫌が悪く、そのような軽口を叩ける雰囲気ではなかった。
僕が、その石牢の番をするようになってから、ずいぶん経つ。
「ただもし現れても殺すな。殺さずに私が来るまで捉えておけ。ここに現れた方法と、その意味を知りたい」
長は手に持っていた、丈夫で切れない植物の蔦の束を寄越しながら言った。
「しかし、もしもということもあります」
「もしもの時は、殺して構わない、ここの、この世界の方が維持が優先だ」
長ともなると、色々なことを考えなくてはいけない。今の長を見ていると本当にそう思う。
「かしこまりました」
正直なところ、僕はもしも奴らがここに現れたらすぐに殺してしまうつもりだった。生かしておけば必ず危険にさらされる。悠長なことなど言っていられない。この世界の維持が優先、長のその言葉を確認をしたかっただけだ。だから背中を押された気持ちだった。侵入経路うんぬんかんぬんなど、もしも次があったらその時に確認すればいい。今回はまず、この初めての事態を解決することだけを考えるべきだ。それに奴らが死んだ後でも、それは確認できるかもしれないのだから。
「世界の維持が優先だ。この平和な世界の維持が」
手に持った蔦の束を引っ張ったり伸ばしたりして、それが本当に切れないかどうか確かめる。
「大丈夫」
大丈夫だ、蔦は切れない。
実を言うと今日まで誰か、つまり我々の一族ではないものが、ここに、この場所に来ること等なかった。こんなことは初めてのことであった。少なくとも、僕が覚えている限りでは無い。長の若いころ、そんなことがあったみたいな話は聞いたことはあったかもしれないが、覚えていない。
それだから正直に言う。
僕は怖かった。
五ノ井です。今回も時間がありません。
で、崖から落ちて助かった理由です。
まあ、その理由は大体タイトルに書いてますけど『世にも奇妙な物語』のやつです。
最後、落ちたバスがすごい助かり方をするんです。
見ていない方は、一度見てみてください。
私達もあんな感じで助かりました。
終わり。
あれはびっくりした。まさかバスがあんな風になるとは思わなかった。