弁当箱
三月半ば
小汚ない緑色の無機質の上で
君とこうして食事をするのも今日で最後になる
冷えきった銀色の手すり沿いに並べられた弁当箱が
どうも明日の今日を期待させてしまう
立入禁止のレッテルを
はがして仰いだこの景色と君のコントラストも
もしかしたら君さえも
今日でさらばなんだ
君と話したことなんか無いのに
いつも君はここにいて
いつも僕はここにいた
ここまでの三年間で君のいない日は無かった
そのせいか
君の満面の笑みが
冬の冷えきった空気をやけに優しくかき回すんだ
話したことも触れたことも無い
一定の距離感を保ちながら平行線を描いた毎日が
どうかこの日だけは明日にならないでほしいんだ
刻々と迫る予鈴なんか
消えてしまえばいいとさえ思った
風が吹いて君のスカートがチラリと青春の幕を開けてくれないかなんて
下らない妄想で日々を過ごしていた時期もあった
ふと声をかけてその日から話し相手になってくれないかと期待した日もあった
いっそのこと告白に発展しないかと願った日もあった
でも今にしてみればそんなことどうでもいいんだ
高嶺の花の最短距離で
雑草らしく無言で寄り添えた日々さえが
一番の幸せだったんだから
「ありがとう。」
ふと開いた口から間抜けな振動が空を舞った
「こちらこそ。」
そして君の振動に
重なって散った