理想の人生
おれは働くのが嫌いだ。
一生、食っちゃ寝、食っちゃ寝をしていたい。海のない県に生まれ育ったので窓から海の見える部屋で、テレビとネットに繋がったPCが欲しい。後、女優の山本美月似の女がいれば文句はない。
突然、サイレンの音が後でし「前の車、車を止めなさい」と声がした。サイド・ミラーを覘くと赤の回転灯を点けた車が見えた。
おれは車を止めた。おれは速度違反をしていなかったし、他に捕まるようなこともしていなかった。逃げる理由はなかった。精精、「ブレーキ・ランプが尽かない」程度だろう、と思った。
「頭山怛朗だな? 」私服の中年が言った。男の横には少し若い男が立っていた。
「はい」と、おれ。
「逮捕する」と、男は言った。男はそう言うとおれを車から引きずり降ろし、自分達が乗ってきた車の後部座席に押し込みそのまま車を発進させた。
「おれが何をした」と、おれは喚いた。
「五月蝿い! 」おれの横に座った中年男が言った。
車はますます、山奥に入っていった。すぐに県境だ。これより奥には警察署は勿論、駐在所もない。集落もない。それに、車が<5××>だったのを思いだした。<8××>でなかった! 警察の車じゃない!
「お前ら、偽警官だな!? 」と、おれは言った。
「余計なことを……」と、男が言った。同時に、おれは腹に強い衝撃を受け気を失った。
気がつくと、そこは見知らぬ部屋だった。窓から海が見えた。
丁度ドアが開き、足音が二つ近づいてきた。おれは慌てて目を閉じた。
「まだ、眠っているようだな」と、男の声がした。「しかし、本当にこの男でいいのか? 今までとは真逆の男じゃないか!? 」
「今までの男は私たちが勝手に連れてきた男です。でも、今回はお嬢様に色々とお聞きして連れて来た男です」別の男が言った。
「……。娘は怪物だ。それは私にも分かっている。でも、私にとっては可愛い一人娘で、かつ、会社経営の両腕でもある。今、娘なしで会社経営もままならない。私の地位も名誉も資産も惜しくない。娘の気に入った男を娘に与えてやりたい」
男達が出て行った。
“怪物”? 娘はどんな顔をし、どんな体型をしているのだろう?
……。おれは再び、眠りに落ちた。
「大丈夫? 」 女の声でおれは目が覚めた。
そこに、ほぼ、裸の女がいた。女優の山本美月似の女だった。当然、おれの下半身が反応した……。
おれは、今、食っちゃ寝、食っちゃ寝の生活を、毎日繰り返している。窓からは海が見える。大きなテレビとネットに繋がったPC(メールの発信が出来ない)があり、小型冷蔵庫の中には何時も飲み物があったが、部屋からは出られなかった。つまり、おれは何処の誰かも分からない人間に囚われているのだ。
おれがやること、仕事は女優の山本美月似の女とセックスすることだ。
始めは女とはセックスするだけだったが、近頃では話をするようになった。普通の“新婚さん”の会話もするようなり、夕食も一緒にする。その後は「お仕事」で、朝ご飯前にも「お仕事」だ。朝食の後、女は女の「お仕事」に出かける。
で、女の父親等の話や女との話で見当がついた。おれは女を満足させるための“道具”として拉致されてきた。おれの前にも三人のイケメンが拉致されてきたが女に気に入って貰えなくて女に殺され、この広い屋敷の敷地の何処かに埋められている。おれも女を満足させられなくなった、あるいは女に飽きられたらイケメン達の「お仲間入り」になる……。何時か、その時は必ず来る。ひょっとすると、それは明日かも知れない……。
父親が言っていた女が“怪物”という意味は、顔や体型が通常の“美的感覚”から大きく外れているという意味ではなく、こういうことだったのだ……。
まぁ、いい。おれは、今、窓から海の見える部屋に住み、食っちゃ寝、食っちゃ寝をし、女優・山本美月似の女とセックスし放題の生活をしている。
つまり、理想の人生を歩んでいるのだ。
多少のりすくは仕様がない。