見てはいけないもの
黄昏時。
教室の窓からオレンジの光が差し込む。
光を浴びながら二つの人影が重なった。
片方の人影の胸の辺りから花が咲いている。
薄紫色したその花をもう1つの人影が摘み取った。
「ひっ」
小さな悲鳴がこの光景を見ていた少女から漏れだした。しかし、少女はこの異様な光景に悲鳴をあげたのではない。
少女は花を摘み取った人影の風貌に驚いたのだ。
長く腰まで伸びた黒い髪に頭に生えた角。血のように赤い瞳と長く伸びた黒い尖った爪。
その風貌はまさに鬼のようだった。
鬼は少女のいる方へと顔を向ける。
赤い瞳と目が合うと縛られたように体が萎縮して動かなくなっていた。
鬼は人影を机に寝かせ少女へと近づく。
手が伸ばされると少女は、反射的に目を瞑ってしまった。
暖かな温度が目の上へと伝わり、光が通らず真っ暗なのを感じると目隠しをされたのだと気づいた。
その時、
「……忘れろ。」
耳元で低い声が聞こえた。
目隠しが外され、ぼやける視界の中意識が遠のいていく。
「・・・め・・・な」
鬼が何か言っているのか口が動いているが上手く聞き取ることができない。鬼の腕が伸びてくるのを見ながら少女は、静かに目を閉じた。