裏切られた彼
ツイッターで募集した三題噺です
「涙、影、玉砕」
「俺と付き合ってください!」
夕日の照らされた放課後の教室で、二つの影が浮かんでいた。
その影の正体は、一人の男子生徒が意中の女の子に告白をしていたところだった。
彼はキチンとネットに書いてあった通りに、腰を90度に曲げて、その曲げた腰と同じ角度で手を彼女の前に差し出す。
あとはその手を握ってくれれば告白成功、なのだが……
「ごめんなさい」
そう告げられて彼女は去っていってしまった。
教室に腰を90度に曲げた男子生徒が一人。
彼はピクリとも動かずに、腰を曲げたまま目を見開いていた。
なぜ振られたのか。
なぜネットに書いてあった通りに実行したのに振られたのか。
グーグル先生は嘘つきだったのか。
安価がいけなかったのか。
いろいろなことが頭をよぎっていた。
そんな彼の元へ、さきとは違う女子生徒が一人近づいてきた。
「まぁ。気にすんなよ」
軽く声をかけたのだが、彼はぴくりと動いた程度で、体勢は変わらなかった。
彼女は小さくため息をつき、近くにあった椅子に座った。
「このご時勢、告白して玉砕なんて珍しいもんじゃないって。だから気にしない方がいいと思うよ」
「君にはわからないだろう」
「何が?」
「俺はこの一瞬でいろいろなものに裏切られた。ネットの掲示板の人たち。人生の道しるべとしていたグーグル先生。『これで恋愛成功率100% マル秘テクニック教えちゃうぞっ!』の特集。これから何を信じていけばいいんだ……」
そう言うと彼は直立姿勢へと戻り、真顔で涙を流した。
「振られたことに泣いてるの? それとも裏切られた方に泣いてるの?」
「どちらもだ。でも後者のほうがダメージは大きい」
なんだこいつ、と彼女は思いながらも、それとなく自分の想いを打ち明けてみた。
「そこで提案ってわけじゃないんだけどさ、そんなに辛いんなら、よかったらその、私と付き合ってみない?」
彼女が頬をポリポリとかきながら言うと、彼は涙をピタッと止めて彼女の方をクワッと見た。
「……それはどういうことだ」
「そのまんまの意味だけど……どう?」
頬を赤くして彼女が言うと、彼はスマートフォンを取り出して何やらブツブツと言った。
「これはなんだ。『告白したら友達から告白された事案が発生』? いや、『玉砕直後に告白されたんだが』? なんて書けばいいのか……」
「はいやめー」
「何をする!」
いきなりスマートフォンを取り上げられたことにマジギレをする彼。しかし彼女はそんなことはおかまいなしに、彼のスマートフォンの電源を切った。
「今さっき裏切られたものに助けを求めるの?」
「ぐぬぬ……」
「私はあなたの言葉が聞きたいの。どうする? 付き合う? やめとく?」
彼は顎をポリポリとかきながら小さく言った。
「付き合いたい、です。彼女、欲しいです」
「それでよろしい。じゃあ付き合おう。よろしくね」
「こちらこそよろしくお願いします」
自然に差し出された彼女の手を、彼はドギマギとした想いで握り返した。
おしまい
なんだこれ