1-18 S岳掃討作戦-生還わずか-
「重爺ちゃん、ルーイン神父、お二人はアレを仕留められそうな一発を出せるでゴザルか!」
「ウリエル様の『惑星十字門』がまともに入ればいけるだろうが、まだオレにゃあ使えねえ! 他はちぃっとばかしキツイ!」
「ワシも無理じゃな! マサ坊、ワシらの中ではお主が一番可能性があるじゃろうて!」
「承知したでゴザル! あっちでもいよいよ雲行きが怪しくなってきたし……誰か知らないけれどずっと動きがなかったから放置してたけど、何やらヤバそうな奴がドンパチ始めたとなると、こっちもいよいよ決着を急ぐ必要があるでゴザルな。今こっちに飛び火してこられても困るし。さぁ後の問題は……」
山の斜面を高速で駆ける三つの人影。それを追う全長50m超の鬼神。更にそれに食い下がる30mもの巨大な蛇の尾を持つ大亀。
裂帛の気合と共に放たれた両面宿儺の多重剣戟に北条も全てを完全には避け切れず、剣の余波で見えない壁にぶち当たるような衝撃に幾度と無く襲われる。畳み掛けるように次々と襲われる衝撃に、北条も苦い顔で望まぬ後退を強いられる。鎧や闘気の上からでも殺しきれない威力のダメージは着実に北条の余力を削っていっていた。
北条の劣勢に、玄武が割り込んでくる。
超重量の巨体で真横からダンプカーよろしく突っ込んで来た。両面宿儺はそれを跳躍してかわすも、その着地先にはルーインの魔法による超重力のフィールドが待っていた。
全身に圧し掛かるGに両面宿儺の口からうめき声が漏れる。
着地の衝撃で山の一部が崩れ落ち、盛大な落石が発生する。
動きが固まった一瞬を狙い、玄武から二本の太い水流が放たれる。同時に高野もまた逆サイドから腰だめからの正拳突きを放ち、不可視の拳圧が両面宿儺の四本の足目掛けて大気を大きく穿つ。
両面宿儺の前後から襲い掛かるそれらの着弾までの時間はほんのわずかしかない。だがルーイン神父はすかさずそれに反応し、超重力のフィールドに入るその瞬間にフィールドを解く。
両面宿儺はまだ動けない。
一瞬の態勢の膠着。止まった的に水流と拳が突き刺さる。
二階建ての家屋をも呑みこむ不可視の拳圧は両面宿儺の足の一つを脚甲の上から強打し、しばしマヒさせる。
二本の水流は意志を持った蛇のように曲がりうねり、両面宿儺の剣を持つ一本の腕に当たり、それぞれ巨大な水球となる。水球は肩口に近い上腕部を包み込んでいた。
そして水球が激しく渦巻く。順回転と逆回転で。
それは腕を捻り切られるかのような超圧力を腕に働きかけた。
下手に水球に手を出す事は危険に思えた。
ならばと両面宿儺はすぐさま口を大きく開く。
「カッ!!」
一喝。口から発した振動だけで水球を力ずくで弾き飛ばした。力を失った水飛沫が雨と交わりながら辺りに飛び散る。
そんなやり取りの隙に、ようやく北条が両面宿儺と大きく距離を取れた。
「30秒でゴザル!」
力強く宣言する北条に、高野が頷く。
「ルーイン! あやつの足止めをするぞ! 全力を使い切って構わぬ、動きを止めぃ!」
「……ジジイが言うなら一度だけやってやらぁ! おぅ、チャンスやるからドジ踏むんじゃねえぞまん丸武者!」
「そして玄武殿! 願わくは協力して頂きたく!」
玄武が一度高野を見て、次に北条を見る。
北条は太刀を天に向けて大きく振りかぶっていた。
「さぁシオリちゃん、やろうか……」
上唇をなめる。
いっそ禍々しく恍惚とした表情を浮かべる北条とは裏腹に、その手の太刀からは清廉な気配が迸る。
続けて静かに目を閉じ、ピクリとも動かなくなる。太刀は天へ垂直に振り上げたままだ。
その無防備な姿に、しかし玄武は思わず息を止めた。
その姿に底知れぬ深く冷たい怖気を感じ取ったのだ。
言うなれば密閉された中の見えない容器の中でひたすら高まり続ける圧力。行き場のない何かの力が内で急激に膨れ上がっていく。臨界点など見えぬまま、どこまでも上昇し続ける。
それは人の姿をした戦鬼そのものだった。
そんな北条の姿を見た玄武もまた、鬼気迫る形相で北条へと突き進もうとしている両面宿儺の足止めへ向かった。
玄武は既に甲羅に大きな亀裂が入り、その頭と前脚に大きな傷を負い血を流している。
それでも傷ついた体をおして蛇の尾を鞭のように振り上げ、その腕に食らい付く。
後ろ足で強く山を蹴って飛びかかり、倒れこむようにぶつかり、体重をかけながら両面宿儺を押し倒す勢いで組み付く。
それを払いのけようとする両面宿儺だったが、それよりも先に玄武の蛇の尾が素早くその腕を這い上がり、巻き付き、強く締め上げた。その締め付けの強さに両面宿儺の腕の一本が動かなくなる。
30mの大亀と50m超の鬼神とがぶつかり合う。山が一際大きく揺れた。
それでも両面宿儺は三本の足で踏み止まり、玄武の巨体を受け止めきった。
力での押し合いが始まる。
拮抗したのはわずかな間だけ。すぐに両面宿儺が押し返し始めた。
更に蛇の尾をもう片方の腕の剣で切り離そうとする。不安定な体勢のため腕の力だけで振り下ろされた剣は、しかし高野の錫杖によって受け止められた。
「ぬ、ぅぅぅぅん!」
玄武の甲羅に勝手に降り立ち、老体に鞭打ち、歯を食いしばりながら力を振り絞る。両面宿儺の剣を受け止めた錫杖は薄く発光し、錫杖の先から光の膜がぼんやりと伸びている。長さは20m程度といったところか。緩く湾曲している。
それは光の大太刀とも呼べるものだった。
四天王・持国天の持つ刀が錫杖を媒介にして顕現していた。仏敵である悪鬼邪鬼を調伏する降魔の武器が。
「ヂリ!」
真言を唱えた高野の筋肉がはち切れんばかりに盛り上がる。持国天の聖なる力が高野を後押しする。
両面宿儺の剣が跳ね除けられた。
鬼神の顔に驚愕が浮かぶ。次いで憤怒の形相へと変わる。
今の一瞬の力を発揮するだけで大きく疲弊し、肩で息をする高野にすかさず三本目の腕が殴りかかってくる。それも光の大太刀で受けようとするが、既に弱っている力は鬼神の前に儚くも砕け散った。
そして迫る拳を前に、高野は意外な光景を見た。
「おぉ!?」
高野の前に現れる水壁。下から上へと凄まじい勢いの水流の壁は両面宿儺の拳を弾いた。
「玄武殿か、かたじけない」
未だに両面宿儺を抑え込もうとしている玄武からの返事はない。玄武もまた余裕がないのだ。
「主よ! あぁ主よ! 届け、オレの愛! ヒィャッハァー!」
天空のルーインの叫びと共に、天から巨大な岩石の杭がいくつも降ってくる。
貫いた相手を浄化し内から灼く力を持つ聖なる石杭は、だが両面宿儺の四本目の腕でまとめて薙ぎ払われた。その際に腕にわずかばかり痛手を負っただけだった。
また杭は玄武にも降り注いでいた。
「こりゃ、ルーイン!」
幸い玄武の頑強さに救われ、大事にはならなかったが。
「まだまだまだまだぁ!」
ルーインの無差別攻撃は続く。もはやテンション任せの大盤振る舞いだった。
だがそのおかげで両面宿儺の足は縫いとめられたかのように動く事はなかった。
その一方。
アズサは上空を旋回しながら戦場を俯瞰していた。
総一を庇いながら、襲い掛かって来る妖鳥も危なげ無く払い続けている。
今、眼下では北条が何かを仕掛けようとしており、それ以外が両面宿儺へ苛烈なまでの攻撃を加え続けていた。
そして総一の式神もまた徐々に数を減らしながらも、両面宿儺の下へ集おうとする鬼ら全てを押し止めていた。
「一体あの男、何をやろうっていうのよ」
北条からのプレッシャーが静かに高まりつづけ、それは既にアズサをして近寄り難いほど恐ろしいものになっている。
そんな彼がこれから繰り出すものとなると。
「まず間違いなく、世界でも指折りの技……」
ごくりと唾を飲む。
世界有数の脅威である2A級。それに向けて放つとなれば生半可な技では通用しない。少なくとも世界に名だたる四十三技、その上位技クラスが出てくるのは間違いない。
一体どんな技が出てくるのか……
その時だった。
突然脳天から雷のように貫く悪寒に、アズサが弾かれたように後ろへと振り向く。
その視界に映るのは雨と広がる山地、麓の村の風景。
だがアズサが凝視しているのは更にその先。雨と黒雲に遮られて見えないその奥。
「なに……? なんなの……何が、起きてるの」
何か、恐ろしい争いが起きている。
そう半人半竜としての人間離れした感覚が鋭敏に感じ取った。
今まで気付かなかったのがおかしいくらいに、その悪寒は鮮烈かつ強烈だった。
目の前の両面宿儺に勝るとも劣らない怪物があの黒雲の奥にいる、と。そう叫ぶかのように脅威を訴えていた。
次の瞬間。
何かが閃いた。
その閃きは黒雲を切り裂き、一直線に超スピードで飛んでくる。
それは『線』だった。
固まって動けないアズサはそれをただ見送る事しかできなかった。
その『線』の進路上にあるのは組み合う玄武と両面宿儺。
そして――いとも容易く玄武と両面宿儺を貫いた。
「むぅ……!?」
「うそっ!?」
「なんだぁ!?」
『線』は玄武の蛇の尾を断ち切り、両面宿儺の右半身にある二本の腕をまとめて斬り飛ばした。
「ガァッ!? ガアアアアアアアア!!」
宙を舞う鬼神の腕。城を砕き、雲を割り、破壊の嵐を生み出す剛腕が地に落ちて行く。
驚愕と困惑がない交ぜになった絶叫が両面宿儺の二つの面から響き渡った。
動揺を露にしながらも、同じく謎の飛刃により力が緩んだ玄武を押し返して両面宿儺は後退し、距離を取った。
「グゥゥ……」
切り落とされた腕の付け根を押さえ、両面宿儺が呻く。指の間からは黒い体液が滝のように溢れ出ていた。
思わぬ事態に戦場の動きが一時止まる。
だがその停滞はすぐに破られた。
「…………もういいでゴザル」
北条が、動いた。
愛刀を天へと振りかざしたまま、閉じていた目をゆっくりと開いた。
その目は透き通った泉の如く。或いは虚無の如し。
物の怪か神にでも憑かれたのか、この世を映していないかのようなその茫洋とした瞳。
その奥底は見えず、ただ暗い穴がぽっかりと空いている。
北条は目を閉じている間、闇の中にいた。
何もない世界でただ一つの事だけを考え、没頭し、じきにそれ以外の事は闇の中に放り捨てた。
残ったのは一つの望み。渇望。欲求。衝動。
「斬りたい」
ただそれだけ。
一つだけ残った感触は己が白き太刀のみ。
その刃の美しさよ。
モノを斬るためだけに生まれ、数々の名工らによって研がれ、追求し、研鑽を続けられてきた太刀。
振りかぶり、落とす。それだけでどんな強固な物も、どんなに恐ろしい強者も、小気味のよい手応えと共に真っ二つに割れて崩れ落ちる。
物を、肉を、形あるものを斬る。
その瞬間のなんとも言い難き心地よさよ。
だから北条は腕を磨く。
斬るために。
あれを斬りたい。これは斬れるだろうか。斬るためにはどうすればいいのだろうか。斬った時にどんな思いがするのだろうか。斬ればどんな中身が出てくるのだろうか。どんな声を上げるのだろうか。
自分が斬れないモノとはどんなモノだろうか。自分はどこまで斬り続けられるのだろうか。
ああ、斬るのは楽しい。
切り裂くのはワクワクする。
真っ二つにすると心が晴れやかになる。
もっと。もっと。もっと。もっともっともっと斬りたい。色んなものを斬りたい。
それはこの上ない快楽。喜び。幸福。
だから北条は。
「――斬る」
その場で太刀を振り下ろす。
間合い無視の斬撃が世界を切り裂く。
一閃。
咄嗟に盾代わりに構えた両面宿儺の剣が地面に叩きつけられた。
一閃。
真一文字に鎧ごと胸に深い斬撃が彫りこまれる。
一閃。
胴体が上下真っ二つに分かたれる。
一閃。
首が落ちる。
一閃
胴体が縦に裂けた。
納刀まで五閃。
そこが北条の限界だった。
「…………不動六手……!」
アズサの声が震えていた。
四十三技が上位技の一つ。
その技、距離と空間を殺し、世界を越える。
一度振るえばその刃は空間を渡り、必中する。
一閃積み重なるごとに世界の傷口が広がり、振るう刃が軽く、強くなる。
史上最大六閃まで記録されている連撃技。
武人にとって、途方も無い頂に位置する技だった。
それをアズサは18年を生きてきて初めてこの目で見届けた。
その感動は戦慄と興奮とで彩られ、しばし何も言葉にできなかった程だった。
「ふぅ。終わりでゴザル。痛つつ……むふふ、シオリちゃんのキルマークがまた一つ増えたでゴザルなっ!」
明るい弾んだその声とは裏腹に、北条は大の字になって力なく寝転がっていた。
ここに決着は着いた。
無残な屍を晒した両面宿儺の巨体はバラバラになって大地へと沈んだ。
同時にS岳の異変の『核』が力を失った事によって、各地で暴れていた黒い鬼らも動きが鈍くなり、総一の式神によって次々と狩られていった。
不可解な『線』が飛んで来た方角も今は落ち着いているようだ。
雨足が次第に弱くなる。黒雲が薄くなり、やがて散り散りになって消えて行く。雨も上がった。
雲間から久しぶりの陽が差し、山を照らす。
一先ずの大きな危機は去ったのだ。
だが。
「………………終わった、の?」
アズサの胸元から今にも消えそうなか細い声がした。
抱きかかえられている総一だ。
「ええ。あなたもよく頑張ったわね」
いつも素っ気無いすまし顔のアズサでさえ思わず微笑みかけるほど、今の彼女は高揚していた。
「そう…………じゃあ、下ろして……」
「え? あ、ええそうね」
特に何の感慨もない様子の総一にアズサはわずかに面食らうも、すぐに頷いた。
もう空を飛び続ける理由もない。最大の脅威は去り、地上にはこの場に残っている者達なら楽に対処できる妖怪程度しかいない。
まだ戦場である事に変わりはないとはいえ、一段落ついた今ならさほど警戒せずとも良い。下ろしても問題ないだろう。
アズサが風の推進力を弱め、竜翼の向きをコントロールして総一の体に負担をかけないようゆっくりと降下していく。
耳元で風を切る音を聞きながら、アズサは次の総一の言葉で自分の耳を疑った。
「浄化……しなくちゃ」
息も絶え絶えに、総一はそう言ったのだ。
まだ終わっていないと。
アズサが表情を硬くし、口元を強く引き結ぶ。
異常だった。
まだ幼い男の子が、どうしてこんな半死半生のようになってなお、作戦を続けようとするのか。
アズサがふと思い返してみると、その異常さの兆候はあった。
まだ北条ら三人と出会う前も、頑なに総一は山頂へ向かう事を譲らなかった。
その目はずっと山頂だけを向いていた。
総一はただ自分が請け負った仕事を完全に果たそうと、前に進み続けていたのだ。
その原動力が一体どこからきているのか、アズサには分からない。
こんな子供が何故、と。
何らかの事情があるのは薄々察する事ができる。この業界、総一のような子はそう珍しい事でもないのだ。
だが。それでも。
既に部隊が壊滅していてもなお、黒い雨の中を山頂まで登ってきた。
山中には妖怪や悪霊が蔓延り、それらを潜りぬけた先には2A級の鬼神が待っていた。
本来なら県域一帯の壊滅を覚悟して事に当たらねばならぬ大物だ。
それを相手に玄武を使役し、大勢の鬼を召喚し、最後まで死力を尽くして戦いきった。
それは異常だ。
そして今、全力を使い切ったのだろう、もはや指先一つ動かすのも億劫な様子だった。
山に降り立ったアズサと総一。総一は彼女の腕の中から離れようとしているようだが、もう赤ん坊ほどの力もなかった。ただ小さくもがくように動いている。
「浄化まで……やらなきゃ」
うわ言の様に呟く。
もう意識はほとんどない。
その目は虚ろで焦点は合っていない。
それでもなお総一はまだ意識を手放す事なく、幽鬼のような顔で己のやるべき事に向けて一心不乱に体を動かそうとしていた。
怪物。
そんな言葉がアズサの脳裏をよぎる。
「ダメよ。確かにまだ小さな淀みは残っているけれど、浄化は後続の人達に任せなさい。もう私たちは十分やったわ。それよりあなたはすぐ下山して安静にすべきだわ。いいわね」
やや硬い声でそう説くも、総一は聞く耳をもたない。
「十分……? まだ……まだだよ……ぼくは……賀茂家の、宗主なんだ……だから、やらなくちゃ……ぜったい……に」
アズサには分からない。
熱に浮かされたように小さく呟き続ける男の子を前に、続けるべき言葉が思い浮かばない。
そんな総一の小さな体に大きな影が差した。
玄武だった。彼は穏やかな瞳で主たる総一を静かに見下ろしている。
それだけではない。総一とアズサは戻って来た鬼ら200体弱に囲まれていた。静かに直立するその姿は王を守る兵そのものだった。
このままだといつ意識を失ってもおかしくはない。式神が狂う事になる前に玄武や鬼らを送還する事にした。
「……あ……がとぅ」
玄武はあちこち傷を負った姿のまま一度重々しく頭を垂れた後、黒い水の塊となって形を失い、消えた。鬼らもまた同様に消える。
そして五人が残る。
「……浄化を…………」
繰り返す。
もうほとんど力の入っていないアズサの腕すら振りほどけないほど弱っているのに。
ただその使命感だけが意識を繋ぎ止めていた。
そんな総一の側に、元のしぼんだ老体に戻った上半身裸の老破戒僧高野が近づいてくる。頭から血を流し、その足取りはふらついており少々頼りない。
近づいた高野は顔を上げることもできない総一の額に優しく手を当て、穏やかに語りかける。
「もういいんじゃ」
優しく宥めるその声にも、総一は耳を貸さない。
それでも高野は雨でぐちゃぐちゃの地面に片膝を突き、総一と目線を合わせて言う。
「お主はちゃんとやり遂げた。もうお主がここでやるべきことは何もない」
「……ほん……と?」
「うむ」
総一の額に当てた手からうっすらと光が溢れ、それと同時に総一の瞼が重くなる。
「もう……いいの……?」
「安心せい。ちゃあんとここにいる皆が見ておった。お主がこの山を守ってすごく頑張っていたのをの。目標じゃった特大の淀みもこうして片付いた。お主のおかげじゃ。じゃからの……ゆっくりと眠っとれ」
「………………そ……か……よか……たぁ」
それはアズサが初めて聞いた、幼い年相応のあどけない声だった。
そして、総一はようやく意識を手放した。
幼い宗主の初めての戦いが終わったのだ。
☆☆☆☆☆☆
S岳掃討作戦。
投入された人員はおおよそ300名ほど。
当初B級規模と見積もられていたが、鬼神・両面宿儺の顕現により2A級へと跳ね上がる。
S岳は一時鬼系魔界が現出し、鬼が跋扈し極めて劣悪な環境となった。
選りすぐられた作戦参加者は魔界化中にそのほとんどが撤退すらできずに死亡。損耗率は約98%。
生還はわずか5名だった。
あまりにも冗長になりすぎたので、やむなく主人公の1シーンカットして早めに終わらせました。
後3話で1章終わりです。




