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NHEX03 お家再興のため奮闘します  作者: mesotes
1章 賀茂家の栄華と没落、そしてS岳掃討作戦
1/21

1-1 陰陽師の子供






 平成の時代。20世紀も終わりに近づき、日進月歩の科学技術が世界に発展をもたらしている世界にて。

 悪魔や鬼、妖怪と呼ばれる異形の怪物らは姿を隠しながら山奥に、或いは摩天楼の都市の隙間に潜んでいた。

 妖怪といった存在はフィクションではなく、しかし一般人にはその存在が明かされる事はない。当然妖怪による民間人への被害もあり、それに対処するための部署も非公式ながらも設置されている。

 日本では防衛()及び警察庁がそれに当たる。そう、妖怪の存在は大企業の経営者や大規模ヤクザ・マフィア、国家権力の上層部などにとっては周知の事実として扱われている。

 そんな社会において特殊な超常の力、一般に魔法と呼ばれる力を以って妖怪に対抗するための存在、組織もまたあった。

 西洋ではローマ法王お抱えの退魔集団である祓魔師(エクソシスト)の集団『十字軍(クルセイド)』や神の僕として鍛えられたエリート『聖騎士団(ホーリーオーダー)』、フランスの『竜騎兵(ドラグーン)』、イギリスの『円卓の騎士(ナイツオブラウンド)』、ドイツの『紋章騎士(ルーンナイト)』、ギリシャの『無敵の盾(アイギス)』を始め、民間でもアメリカの軍需企業が誇る戦闘集団『白鷲(ホワイトイーグル)』や少々毛色が違うが『暗黒の箱庭(スターレス・ガーデン)』などがいる。

 逆にヤクザやマフィアのように、その力を暴力として使う犯罪組織も数あるがそこは今は割愛する。

 東洋では中国の方士や道士、風水士、仙人。日本では宮内庁が抱える日本最強の術者集団と謳われる『白菊』を始め、神道の一派である『八百万宮』、仏教の一派の『明光清宗』、武家による『一心士団』、忍の『素破集』など。

 そして、陰陽師の集団たる『陰陽寮』もまた怪異に対抗する組織の一つとしてその名を連ねていた。


 ☆☆☆★★★


 陽が沈み、空を覆う雲によって月明かりもない夜。

 静まりかえった山には虫と獣と鳥の声、そして川に流れる水の音しかなかった。

 そんな夜の山を一心不乱に駆け抜ける四足の獣の大きな影があった。

「ああ、畜生、面倒くせえのが来やがった……! またねぐらを変えねえといけねえのか!」

 喉が枯れたような不快で野太い声が吐き出された。

 大きな影は猩々(しょうじょう)だった。毛むくじゃらの狒々(ひひ)のような姿で、その体長は2mほど。その性はずる賢く、残忍。

 山に棲みつき、時折山に入り込んできた女を襲っていた妖怪だ。

 被害が確認されてからすぐに警視庁によって山は封鎖された。そしてその夜、警視庁からの応援要請により陰陽寮から人員が派遣されていた。

 陰陽寮は陰陽術と呼ばれる魔法を扱う陰陽師のみで構成された組織だ。正式な陰陽師の資格はここから発行され、管理される。

 一人前の陰陽師は式紙を操り、式神を打つ。

 式紙は人や動物などを模した紙に仮初の命を与え、本物のように化けさせて動かす術だ。

 式神は鬼や神を召喚し、使役する術。人間より上位の存在を呼び出して命令するため、こちらの方が難易度は高い。これができて始めて一人前の陰陽師というわけだ。

 扱われる式神は地獄の下級官吏の鬼が一般的で、より上級の術者となると霊格の高い狛犬や龍などを使役する。

 なお最も霊格が高いと言われている式神の代表のはかの伝説の大陰陽師、安倍晴明が使役したとされる騰蛇(とうだ)・朱雀・六合(りくごう)勾陳(こうちん)・青竜・貴人・天后(てんこう)大陰(だいおん)・玄武・大裳(たいじょう)・白虎・天空――即ち十二神将だ。

 他にも占いや祓いも行い、凶事を避ける術も扱う彼らは召喚術士であると同時に占星術士でもある。

 駆除対象とされた猩々は今まさに式神に追われている最中だった。

 この猩々、危険度としてはDランクに相当する。一つ下のEランクが虎や獅子といった猛獣に相当するのだが、このDランクはもはや一般人では抵抗すらできない凶悪な相手である事を示している。そしてこのランクからの事件は専門家(スペシャリスト)による対応が求められる事案となる。

「邪魔だ!」

 吠えた猩々が自慢の剛腕を振るう。

 木々の間から颯爽と飛び出してきた醜悪な顔の小鬼がその爪に切り裂かれ、絶叫と血を撒き散らす。それは彼をずっと追いたて続けている式神の一体だった。

「ちっ。これで6体。こりゃ五人くらいは陰陽師の連中が追って来てるな」

 一人前の陰陽師が打つ式神は一人一体。それが一般的だ。

 より玄人の陰陽師となると一人で数体、エリートともなると十数体もの式神を召喚するが、今彼に襲い掛かってきている小鬼の動きはどこか拙く、甘い。式神の支配が不十分に見える。玄人とは思えなかった。

 だから猩々は一人前になってそう経験を積んでいない陰陽師がチームを組んで自分に当たってきたのだろうと推測していた。

 自分の格付けくらいは分かっている。そんなに上等の力を誇るわけでもなし、いくらなんでも討伐に有名どころが出張ってくるには不釣合いだとも思っていた。

 故に、彼は自分の推測が妥当なところだと結論付けながら山の中を必死で逃走していた。

「式神も一体ずつしか来ねえし、横の連携がまったく取れてねえな。こりゃ逃げきれそうだ。けけけっ」

 しわくちゃの顔を醜く歪め、嗤う。

 ちょうどその時だった。彼が人間の臭いを嗅ぎ取ったのは。

「ん……近いな。二人か?」

 おそらく式神を打ってきていた陰陽師だろう、そう考えて猩々は逃走ルートを変えようとした。

 手早く山の地理を頭に思い描き、迂回ルートを決める。

 余計な争いは避けるに限る。自分はまだまだ女を襲い、食い足りないのだから。

 そう次の獲物を狩る瞬間を想像し、悦に浸った時、乾いた音が山の静寂を連続で貫いた。

「ギャッ!?」

 山の暗闇に小さな火花が数輪咲く。同時に猩々の片足と片腕に強い衝撃。そして灼熱感に襲われる。

 走っているところに不意打ちで受けた衝撃に猩々は体勢を崩して転げるように木に頭からぶつかった。

「この臭い……火薬、銃か!! ちくしょう!」

 頭を振りながら急いで立ち上がる。このまま補足されるのはマズイとすぐさま駆け出そうとして、彼の目は歩み寄ってくる二つの人影を認めた。

「ググ……こんなところで……」

 歯軋りしながら力の入らない片足をひきずり、頭上の木々へと飛びあがろうとしたところで彼は気付いた。

「な……いつの、間に」

 息を潜めながら猩々を見つめる数多の目があった。頭上、左右、前方。彼は既に式神によって半包囲されていた。その数、実に二十体を超える。

 全ての小鬼の式神が45口径のアメリカ製自動拳銃と50口径重機関銃、挙句にはロケットランチャーで武装していた。ただの猩々討伐としては明らかに過剰な兵数と火力武装だった。

 (※ここは日本です)

 頭には揃いの赤い帽子(レッドキャップ)を被り、迷彩服を着た姿はまるで軍隊にも見える。

 その数はもとより、ただの式神ではありえないその武装に猩々は異質さと恐怖を覚えた。

「な、なんなんだてめえら!」

 猩々の声は震え、うろたえ、引きつっていた。半ば恐慌状態だ。

「なーに、ただの実地訓練さ。うちの可愛い可愛い大事な自慢の息子の、な。さ、やれ総一。逃がすなよ」

「うん」

 大人の人影が弾む楽しそうな声で、小柄な幼子の人影が大人く素直な声でそう言った。

 猩々の目が夜闇に浮かび上がる二つの人影を捕らえる。

 一人は壮年の男。全身を白いコートで覆い、編み上げ靴を履き、黒の短髪を後ろに撫で付けた渋めの男性。

 彼は虫ケラを見下ろすようなひどく酷薄な笑みを浮かべながら一歩下がってこの状況を傍観していた。

 そして総一と呼ばれた小柄な幼子が暗闇の中で転ばないようにおっかなびっくり前に出る。その5歳の男の子はゆったりとした白い装束を着ていた。和服の、それも神主のような装束は正式には直衣(のうし)指貫(さしぬき)と呼ばれる平安時代の貴族が身に付けていた上着とズボンだ。なお直衣の下には更に三枚の服を着ている。

 その小さな紅葉のような手には最新技術で作られた極小の式盤が埋め込まれていた。

 式盤とは中央に北斗七星を置き、八卦と文字で囲んだ一種の魔法陣を描いた正方形の板だ。陰陽師の魔法道具(マジックアイテム)で、数々の魔法を使うときの触媒でもある。

 それをキーワード一つで自由自在に肉の中から出し入れができた。

 総一の手が水平に持ち上がる。その手にはいつの間にか20口径のドイツ製拳銃が握られていた。

 更にそれに連動するように猩々を囲む全式神の手が一斉に動き、火器の発射準備が整えられる。

 その光景に猩々は絶句した。

「そんな……まさか……この式神、全部、お前一人が……? 今までの、式神もまさか……バカなバカなバカなバカな――バカな!! なんでお前みたいなガキが、こんな!」

 おぞましい怪物を見るような目で猩々は目を剥く。

 その視線の先にいる男の子はその猩々の声と目の意味がよく分かっていないのか、まったく頓着した様子もなく父親の言う事にただ従っていた。

「やって」

 幼い指揮官の手がダブルアクションの重いトリガーを精一杯の力を込めて引く。限定空間内で爆発が起こり、暴れる鉄の筒の奥から銃弾が音速で飛び出されていく。

 それを合図に式神らも動き、無人の山に鉛弾が大量に吐き散らかされた。

 動けない猩々は蜂の巣のようになり、最後は二発のランチャーでバラバラに吹き飛んだ。

 ここに幾人もの女性を無残に食い殺してきた猩々は退治された。


 轟音の余韻が消え、元の静けさを取り戻した頃に壮年の男性が未だ焦げた臭いと土煙が舞い落ちる中、軽い足取りで爆発の中心地点へやって来る。彼こそが安倍家、土御門家、蘆屋家と並ぶ日本の四大陰陽師家の一角である賀茂家一族を束ねる現宗主、賀茂神一だ。

「おーおー。派手だなぁ。たまにはこういうオーバーキルもいいねぇ。弾薬代でちょいと怒られるけど」

 ぽっかりと空いた爆発跡を前にイタズラ好きな少年のように笑う。

「あと狙いはまだやっぱり甘いか。外れが多いな。もうちょいムラっ気がなくなれば式神も完全にコントロールして精度が上がりそうかね」

 そして無線機を取り出して今回の案件の責任者へと連絡を取り、無事討伐が完了した事を伝える。山の封鎖もじきに解かれるだろう。

 そして神一の隣に雛のようにやってきた幼い男の子は賀茂総一。彼の三男でありながら、次期賀茂家宗主である。その才能は幼いながらも凄まじく、神童と呼ばれていた。

 歴代の賀茂家宗主を紐解いても総一のように強い資質を持って生まれた子は稀だ。

 わずか五歳ながらも既に打てる式神の総数は500を超える。

 玩具で遊ぶように召喚した式神と屋敷の庭で戯れるその姿は、宗家分家の者らに次代の更なる一族の繁栄を予感させた。かの伝説の安倍晴明の再来かと諸手を挙げて喝采を浴びた総一はといえば、幼児らしい癇癪を起こすこともなく大人しく無邪気に泥と水で式神と一緒に遊んでいた。

 現在、その式神の群れはといえば銃弾の回収という名の証拠隠滅に奔走していた。

「よーしよし、こんな出来た息子が生まれるたぁ、俺もなかなかツイてるぜ。せいぜい上手く扱わねーとなぁ」

 神一のその目は愛する息子に向けるものでは決してなく、非情なものだった。

 自らの権勢を築くための有用な駒。それが多大な割合を占めていた。

 とはいえ、神一は自分自身もまた賀茂家の駒として扱っているのだが。自分を含め、息子を、妻を、周りにいる一族全ての人員を冷徹に駒として捉え、賀茂家のためとあらば如何様にも使い潰す事も辞さない。

 それが賀茂家当代宗主という男だった。

 そんな男は今は将来性の高い息子にいたく満足していた。

「さあ、帰るぞ総一。明日も勉強と鍛錬だ。お前は賀茂家の全てを背負って立つんだからな」

「はい、父様」


 後の『鬼才』にして『一式千軍(ワンマン・バタリオン)』との異名を轟かせた陰陽師、賀茂総一。

 その始まりだった。







バタリオンは大隊という意味。

1個大隊が約500~600から編成されるとの事なので、総一は同時に最大二個大隊を運用する事が可能です。

けど通常運用としては最大800までしか使役する事はありません。

予備兵力って大事ですよね。


あと現代火力とファンタジーの融合って素敵です。


なお、本作は以下の作品の雰囲気を出せればなぁと思ってます。

・スプリガン

・ARMS

・EME

・HappyDays(八岐大蛇さんの二次創作 劉偉狼大好き!)


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