落ちない線香花火
文才なくても小説を書くスレで、お題を貰って書きました。 お題:線香花火
「それ、最後は落ちるタイプ?」
僕がそう聞くと、彼女は「うん」と答えた。
「ノスタルジックなタイプが好きなんだね」
そういう場合はそう言いうのが決まり文句みたいなもんだ。
だってほら、その証拠に「線香花火ってそういうものでしょ」とか言いながら浴衣姿の彼女はクスリと笑うんだから。
だからそういうことを言ったんだ。
実際、郷愁をそれに覚えているのだろうかという疑問はあるものの、これが夏の定番だということには異論はなくて、だからこうして恋人二人っきりの場所でもムード作りに使われる。
それが途方もなく寂しくて、口を開くこともできずにいると、結局はノスタルジーに浸っているようなしんみりとした風情の中にいる。
「落とさないように頑張りたいね」
かつてがそうであったと聞いて、それを知りたいと僕は思う。
「頑張ったら落ちないようなのは、もうないわよ」
けれど彼女はロマンを演出しつつもどこか現実的で、ムードを守りながらも、常識的な答えを出す。
挑戦を楽しみに線香花火というコンテンツを選ぶ者なんてもういない。
そう言われているようで悲しかった。
「残念だよ」
そう僕が言うと、彼女はごく自然に「そう?」と疑問気な声を返してから、少し考えてまた別のニュアンスでまた「そう」と言った。
「そうね。決まってしまうのも空しいものね」と言いながらも、彼女は笑顔で、その空しさすらも楽しんでいるように見えた。
「風も、もともと吹かないしね」
夕凪は夏の季語だったという。けれどそれも言葉だけが残る。
いや、まだ夕刻に陸風と海風が釣り合って風が凪いでいる浜辺があるのかもしれないけど、僕らはそれを実感するには遠すぎる場所にいて、こうしてその語感からの風情を真似事で演じるばかりだ。
「じゃあ、風を吹かしてみる?」
その声と共に彼女姿を映したアバターはパタパタとうちわを仰ぐ。
うちわの面積的にありえない風が、室内の空調装置から送られてくる。
僕が投影しているヴィジョンにも風の影響は出るけれど、落ちないタイプのコンテンツを選んだ僕の線香花火は、風に揺られる姿を映しつつも落ちる気配を見せない。
ただ髪の毛が目に入ったので、僕は風に手をかざしつつ言った。
「やめろよ」
彼女はそれを聞くとクスクスと笑い、「ごめんごめん」と言いつつ3Dヴィジョンの外に手を伸ばして、こちらへの送風指示をストップさせた。
そうとは分かっていても、それはとても自然な動きで、かつての恋人たちもこういう風にじゃれたのかなと思えた。
もう、その頃を覚えている人もいない。
それでも、文献と物品とサンプルデータばかりのかつての習俗に、勝手に故郷を思い浮かべつつ、僕らはこうしてまた次の世代へと恋と文化を継いで行くのだろう。
変にひねらずに、素直に書けたかなと思ってます。
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390 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/08/18(日) 07:23:42.92 ID:2+dlzNWy0
もう少し、いくつかお題下さい
392 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/08/18(日) 08:44:00.03 ID:Q25xs2RAO
>>390
線香花火
399 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/08/19(月) 00:55:01.78 ID:Oit7IsLn0
>>391-392
把握しました