表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

海月話

作者: あきふみ

インスタントの薄いコーヒーを舐めながら、レースのカーテンがゆらゆら揺れるのを眺めていた。

今日は午後から雨らしく、洗濯物を適当に取り込むのが僕に与えられた使命だった。

温かいだけのコーヒーに救われている。

僕が学校に行かなくなってどれくらい経つだろう。家族の誰もが必要事項しか僕に告げなくなってどれくらい経つだろう。

僕におはようと言ってくれるのは、教員用に学校から当てがわれたメールアドレスで毎日いじらしくメールを作る担任くらいだ。


___

おはよう(^-^)

まだ学校には来れないかな?

みんなが**くんのことを待っているよ。

来週には、体育祭があります。

今は、皆で大縄飛びの練習をしていて、昨日のお昼休みには120回を超えました!

……えとせとらえとせとら

そこそこ詳細に書かれた学校生活はあんまり魅力的じゃなかった。

人に笑われたり馬鹿にされたりするのは死ぬほどつらいのに、なんで縄跳びのために学校に行く気になるだろう。

それに縄跳びって苦手だ。運動全般特に苦手ということはないのだけれど、縄跳びはダメだ。逆上がりは出来るけれど、二重跳びは出来ない。

楽しいことなんか、何もないでしょ。

ぼんやりと死んでるみたいに景色を眺めてた。もう攻撃されないだけでよかった。

リビングのゴミ箱には兄の買った服のタグが捨てられている。

あたらしいもの。

洗剤の甘い匂い、新品の服の匂い。

僕は全部憎しみを持って迎えて、呪いをかける。

だからうちの中、こんなに暗くなっちゃったんだ。

先生だって、本当に僕を待っているわけじゃない。学校には僕への皆の憎しみが、家の中には僕の世界への憎しみがあって、どこにいても息苦しい。それなら物理的な痛みのない家を選んだ。それだけ。

頭が悪いわけじゃない。でも皆と同じように、優しい嘘が吐けない。

「あいつってばかだよなあ、この間……気持ち悪いだろ、だってさ、授業中に……」

そうだねと笑えない。気持ち悪いね、俺も見たよしかもさ、と続けられない。

形式的なマナーみたいな嘘が吐けなくて、僕は学校社会のカーストから脱落した。

でもそれは僕が優しいからじゃなくて、徹底的な無関心だった。

仕方のないことなのかもしれない。

僕は頭がおかしくなったとしても、多分虎にはなれない。

くらげになるんだ。

限りなく水に近くて、透明で針を持ったいきもの。

近づかないで、刺してしまう。

できれば誰にも傷ついてほしくない、その傷は僕のつけたものでありませんように。

雨が降ってきた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ