帰りの夕暮れで
恋愛一歩手前?(笑)
田舎の進学校なので、私の帰る時刻は大体夕暮れ、あるいは夜始めだった。
その日も放課後課外が終わると、既に日が暮れかかっていた。
絵の具では決して現せそうにない、そんな夕色。
紫から赤へと続くグラデーションは、この世ににつかわないほど綺麗で、特に太陽とその周りの色は優しい色合いが綺麗だった。
写真におさめたいな
無意識にそう思ったが、不意に先日友人との会話が思い出された。
『どんなに綺麗な写真でも、結局は実際の一部しか現せてないんだよね。カメラマンは確かにすごいよ?感動する写真が撮れるから。でも素人が撮ったってたかが知れてるよね』
その時は随分辛口なことを言うんだなぁ…ぐらいで終わったが、新ためて考えてしまうと、なんだか落ち込んでしまう。
写真を撮りたい、そう思った私自身も否定されたような気がしたからだ。
人のエゴ、自己満足だとわかってはいる。しかし衝動的に思ってしまうのだ。
写真におさめたい、と。
どの小説だったろうか。
《夕日の色は優しい色》と著したのは。
当時の私は、この表現に頭を傾げたものだ。
「相沢さん!」
名前を呼ばれたので、振り返ると、クラスメートの男子がこちらに駆け寄ってきた。
「どうしたの?」
あまり話したことのない相手に、少しばかり緊張しながら訪ねた。
「ぇっ!?いや…あのね…」
しどろもどろになった相手は、私よりも緊張しているのだと態度で教えてくれた。
おかげで、何と無く肩に乗っかかっていた緊張が解れた気がした。
「…ねぇ、夕焼けが綺麗だね」
「ぇ???…あぁ。姉貴がさ、夕焼け色は優しい色だ!なんて言ってたんだよね」
照れ臭そうに笑った相手に、私は笑い返した。
「なぁ、相沢さんは写真撮るの好きなの?」
「え?なんで?」
「あ!いや…前にさ、空見上げてシャッター切ってる相沢さんみつけたから。好きなのかなぁって」
見られてた。
なんだか恥ずかしくなった私は、俯きながら、
「…すこし」
と答えた。
すると相手は嬉しそうに
「俺も好きなんだよね、写真撮るの」
と言った。
「周りには金の無駄とか言われるけど、それでも無意識に撮りたくなるんだよね」
あっ、一緒だ…
夕日が段々と沈んでいき、優しい色が次第に色濃くなり、そして消えていこうとしている。
小説で、この時を暗く表現するものがある。
けれど私には、相変わらず優しい色に想えた。
「あのさ、」
「ん?」
「今度さ、」
「うん」
「一緒に写真撮りにいかない?」
End