(7)
「………」
SPSSのセットを師隈に任せ、自室で寝ることにした迦具土だったのだが…。
(……なんで?え?何してんだこいつら)
マンションの一室の様な部屋に入り、バスルームとキッチンを過ぎる。
生活空間となっている部屋の中央には、ガラステーブル、その手前にソファ、右奥にベッド(簡素な部屋に不釣り合いな、最高級セミダブル)、対照の位置にテレビ。
そんな飾り気の無い部屋、正確には迦具土の超お気に入りのベッドに、居るはずのない人間が居た。
(鍵してたよな?…管理人だからマスターキーくらい持ってんだろうけど)
そこに居たのは、先ほど管理人室に入って行ったはずの、亜麻色ポニーテール、上下緑ジャージ、爆乳の常盤寮管理人の楠木と、桜色の髪、真紅の瞳、純白ワンピースの幼女、マリアだった。
「……なんでやねん」
はぁ…。と、肩を落とす迦具土。
部屋には既に絶妙な温度で冷房が入っており、入るなり倒れこもうとしていたベッドでは、既に楠木とマリアが安らかな寝息を立てていた。
楠木がマリアに腕枕をする形で寝ており、マリアは楠木に抱きついていて、胸に顔を埋めていた。
……胸がすっごい形になっている。
(すっげぇな。叩きつけられたスライムみてぇ。てか、あの子苦しくねぇのか?完全に顔埋まってんだけど)
口に出したら鉄拳が飛んでくるであろう程失礼な事を考えながら、一目散にベッドに転がり込むのは諦め、キッチンへ向かう。
冷蔵庫を開けて1.5ℓペットの麦茶を取り出す。
迦具土は、お茶は絶対に麦茶派である。
(……腹減ったな…)
今開けたばかりの1.5ℓの麦茶を一息に飲み干してしまい、そこで、今日は何も口にしていない事を思い出す。
色々とありまくった一日だが、時刻はまだ16時を少し過ぎた所である。
(…何かあったか?______oh)
再び冷蔵庫を開ける。普段ストックしているジュース以外は何も無かったので閉じ、下の段、野菜室を開ける。
____大量のこんにゃくがビニール袋に入ったまま、強引にねじ込まれていた。
(ローカロリー日本代表!!)
バタン!、と、足で乱暴に閉める。
今こんにゃくを見ると、ストレスで発狂しそうな心境な迦具土であった。
(こんにゃく入れに来たのか?だとして、何で俺のベッドに寝るなんてオチになる?)
まあいい、と、ため息をつきながら部屋に入り、ソファに座る。
そしてまた異変に気づく。
(……チョコが……)
ソファの正面、シンプルかつスタイリッシュで、そこそこお気に入りのガラステーブルの上には、大人も子供も大好き・超長年愛され続けて来た『チ○ルチョコ』が大量に入った大きめの黒い箱がある。
しかし、その箱の周りには、チョコの包み紙が大量に散らばっている。マリアか楠木、もしくは両者が食べ散らかした物と判断した。
(マジかよ……コレ…)
恐る恐る箱を開けると、大量に入っていたはずのいちご○ルクやきなこ○ちなどは消え失せており…。
(お前コレ……ビターと…あまりのまずさに1週間で販売中止になった、伝説の『抹茶マヨネーズ in トロピカルチョコ』しかねぇじゃねえかぁぁ!!……一個減っとるし……珍しいからとっといたのに……)
落胆しつつも、特に好きでもないビターを手に取り、包み紙を開ける。
別に食べる必要は無いように思えるが、今は空腹を満たすというより、エネルギーの補給が目的と言える。
才覚者は能力を使う際、体内のエネルギー、糖や脂肪といった物を大量に消費する。
さらに言えば、才覚者の能力の源である『才覚波』を生産するのは、脳に多大な負荷を掛ける。その負荷から脳を守るためにも、体内の糖などを使わなければならない。
さらにこれらは、消費カロリーに置き換えられ、才覚者は能力を使えば使う程、カロリーを摂取する必要がある。言うまでもなく、体がもたなくなるからだ。
そして、今日の迦具土の消費エネルギーは、カロリーに換算すると、およそ2800kcal。個人差はあるが、代謝のいい成人男性の一日の自然消費カロリー、もしくは、フルマラソンを休みなく走りきった程の消費カロリーに相当する。
食事も無しにこれだけのエネルギーを消費すれば、エネルギー不足はもちろん、栄養飢餓状態に陥っても不思議はない。
現に迦具土は今、頭を動かすのもしんどい程の虚脱感を覚えているが、特に苦を感じさせないのは、経験上の慣れと言った所か。
そこで、糖や脂肪をバランスよく含み、吸収が早く、少量で高カロリーを摂取出来るチョコレートが重宝するのだ。
いちご○ルクやきなこ○ちなどが好きなのは、普通のチョコを食べるのに飽きて、せっかく色んな味があるんだから…と、チャレンジして見事にハマったものである。乙女チックと言われれば言葉も出ない。
「_____ん…」
(ん?)
鼻血が出るんじゃないかと心配される位のビターチョコを食べ、特に何を思う訳でもなくベランダ越しの外の景色を眺めていると、なんとも悩ましい声が聞こえた。
「__あっ……ん…」
「______!!!」
迦具土は思わず目を見開いた。
男にとって『夢』とも言える光景だったからだ。
迦具土のお気に入りのベッドで勝手に寝ているマリアと楠木。楠木に抱きつき、その豊満すぎる胸に顔を埋めていたマリアが、感触が気に入ったのか、ぐにぐにと楠木の爆ぬーを揉みしだいている。
揉まれる度に吐息混じりの艶かしい声が発せられ、身をよじる楠木。みるみる顔が紅潮していく。
「ん…はぁ……ぁん」
(何だ⁉ 何だこのミラクル⁉ 寝てんの⁉ 二人とも寝てんの⁉ _____おっしゃ、もっとやれ!)
願ってもない状況に、男としての本能が剥き出される迦具土。
そんな迦具土の思いが届いたのか…。
「_____ゃん!」
(ッ!!!!)
ズボッ!と、マリアがジャージの下から勢いよく手を突っ込み、直接母性の象徴に触れる。
その瞬間、今まで聞いたことのない声を上げる楠木。
しかし、流石に直接触れられれば目が覚めるようで…。
「こ、こら!!マリア!!」
「みゅっ⁉」
状況を察し、勢いよく起き上がる楠木。顔が茹でダコのように真っ赤っ赤。
急に動かれて驚くマリア。どうやらマリアは、驚くと独特な声が出るようだ。
「何思いっきり揉んでんだい!びっくりするじゃないか!____!ホックが…」
もぞもぞ、とジャージの下から手をいれて、マリアが思いっきり手を突っ込んだ際に外れたであろう、フロントタイプのホックをつけなおす。
胸と違い無駄な肉のついていない、綺麗なラインのくびれ、及び下乳があらわになってしまっているが、迦具土が部屋に居る事に気づいていないのだろうか。
「ふぇぇ…」
「え?え?何で?何泣いてんだい?」
「…おねーちゃん怒った~」
「え?あ、あぁ…ビックリさせたね。ゴメンよ、あたしがビックリしただけだから、怒っちゃいないからさ」
今にも泣き出しそうな顔になるマリア。それを見て慌ててあやす楠木。未だに迦具土と目が合わない。
「……えへへ~」
楠木に頭を撫でられ、ふにゃ…と、心地よさそうな笑顔をこぼす。
「~~~~~ッ!なんて可愛いんだろーねぇこの子はぁぁ!」
すりすりすりすりすり……。と、マリアを抱き寄せ、頬をすりつける。当のマリアは嫌がる様子はなく、嬉しそうにキャッキャとはしゃいでいる。
(何であんなに懐いてんだ?それにあの子、あんなキャラじゃねぇだろ)
「____ん?」
「あ……」
「………」
「………」
待ちに待った(?)ご対面。
夕飯のメニューくらい考えられそうな沈黙の後…。
「なんでここに居るんだい!」
「___俺の部屋!!」
「ぐぅ………見たのかい?」
「……何をですか?胸を揉みしだかれてる所ですか?ホックつけ直してる所ですか?その子に「おねーちゃん」などと呼ばせてる事ですか?」
「キャーーーー!!!!」
「ぶっ⁉」
ボスッ!と、枕を投げつけられる。
あまりの速度に、とてつもなく柔らかい枕だが、ちょっと痛かった。
顔面に枕を置いたまま、ソファに倒れ込んでいたら、「バカーー!!」と言う声と、部屋から走り去って行く音が聞こえる。
(…他人の部屋のベッドで勝手に寝てるからでしょーが。……言い過ぎたか?)
顔の上に乗っかったままの枕を持ち直し、頭の下にやり、そのままソファで寝てしまおうとする。
「………何?」
目の前に、さっきまで楠木とイチャついていたマリアが居た。正確にはマリアの顔があった。
ソファの背面側から、迦具土の顔を覗き込んでいる。
「_____大丈夫?____おにいちゃん♡」
「………………」
迦具土はポケットから携帯を取り出し、ウィキ○ディアのアプリを起動する。
『兄____本人から見て傍系2親等の年長の男性、通常は同じ父母から生まれた年長の男性をいう。また自分の姉と結婚した男性、すなわち姉婿や配偶者の兄も本人から見たら兄になる。その場合、義兄と書いて「あに」と呼ぶ場合が多く、対象者より年上であるとは限らない。また、親の養子や親の再婚相手の連れ子が年上だった場合も義兄にあたる。』
「____よし」
携帯を閉じ、枕を整え、目を閉じる。
「「よし」って何が?ねぇ何が?ねぇねぇおにいちゃん。ねぇってばおにいちゃん。お~に~い~ちゃ~ん~」
聖母ならぬ幼女マリアは、迦具土の肩を揺さぶったり、頭をぺちぺちと叩く。
「お・に・い・ちゃ・ん!。おに~い~ちゃ~~ん~。おに___」
「やッッかましゃぁぁぁぁい!!!」
「みゅっ!!」
耐えかねた迦具土が激昂する。
マリアは裏返ったような独特な声で驚き、ソファの後ろでうずくまってしまう。
「疲れてんだよ!静かに寝させてくれ!」
「………」
「____ったく」
ぼすっ。と、再びソファに倒れ込む。
またしても言い過ぎたかとも思ったが、正直、疲れたのでどうでもよかった。
「___ふぇぇ…」
「ッ!」
「…ふ…えぇ……ぅえ…」
(あ~めんどくせぇ~。この幼女めんどくせぇ~)
楠木に怒られた時同様、泣き出してしまうマリア。
迦具土にとってはめんどくささMAXだが、自分が泣かせてしまった事は事実なので、とりあえずは泣き止ませたい。
ソファから立ち上がり、マリアの前へ行き、屈んで目線を合わせる。
泣いてる子供など相手にすることが無いので、正直どうしたらいいのかわからない。
とりあえず、先ほど楠木がやっていた様にするべきかと結論をまとめる。
「あぅ」
幼い嗚咽を漏らしていたマリアの頭に手を置く。
よくわからない程小さな声がしたが、聞こえなかった事にした。
「………」
「あ~…悪かった。言い過ぎたよ。ゴメンな」
「………」
(____だめか…?)
「………えへへ~」
「___ッ」
潤んだ瞳で、くちゃっとなった顔から、ぱぁっ、と晴れやかな笑顔になる。
迦具土は『ロリコン』と呼ばれる類の人間ではないが、不覚にも顔が熱くなる思いをした。
「……とりあえず『おにいちゃん』だけはやめてくれないか?」
「なんで?」
「いや…、俺は『そういう』人間じゃないからさ……嫌ではないけど、あんまりいい思いじゃない」
「『そういう』? じゃあなんて呼べばいいの?」
「………迦具土でも凍也でもツッチーでも、『おにいちゃん』以外なら何でもいい」
「ん。わかったよ、トーヤ♡」
「………ハートもいらん」
「む~。注文が多いよ、トーヤ」
「へいへい」
むくれっ面のマリアの頭を、くしゃくしゃ、と若干雑に撫で、立ち上がる。
再びソファに倒れ込もうかと思ったが、せっかく立ち上がったので、枕を掴みベッドに向かう。
「というかマリア、会った時とキャラ違うんだけど?」
「ふぇ?」
会った時の様に『きみ』と呼ぶか、柴崎や鴻薙の様に『お前』と呼ぶか迷ってしまい、名前で呼ぶ。
だが、マリアは特に気にする様子もなく、迦具土の質問に答える。
「キャラ?」
「性格っつうか…態度っつうか……そーゆーヤツだよ」
「あ~。それはね~、『れいら』っていうおねーちゃんと、咲子おねーちゃんがね、『気を遣わなくていい』って言ってくれたんだよ」
「……なるほど。確かにまぁ、そぉなんだが」
気を遣うか遣わないかで、キャラの使い分けが出来るのか、迦具土には疑問だったが、特に掘り下げようとは思わなかった。
(確か『姫』とか呼ばれてたな…。それが本当だとするなら、『王族の立ち振る舞い』的な事で、対人マナーが身についてんのか? だとしたらこの幼女、俺より『大人』なのか?)
しばらくマリアの顔を凝視し、ないない、と頭を横に振る。
当然、マリアにはその意味はわからず、『?』と首を傾げている。
「あ、あと、会長…れいらって人には何て言われたんだ?」
「……んとねぇ…」
「?」
「あのね。れいらっておねーちゃんがね、『そこにいる、冴えない顔した童貞野郎が、私が何を言ったかって訊いてきたら、金○ま踏み潰すって言っておいてね♡』って言ってた」
「………」
「ねぇねぇ、『どーてー』って何?『金た○』って何?」
「……いずれ分かる」
「?」
どこに居ても自分の心を的確にへし折ってくる新城に、半ば感心しつつもうなだれる。
立ち直りが早いというか、あまり気に留めなくなったのは、もはや『慣れ』でしかない。
(……おかしい)
ふと思う。
蓮神会の仕事を通し、新城に接する事の多い迦具土だが、思い返せば、今日の新城はおかしな点がいくつかあった。
(あの超絶残念系暴君撫子が、いくらかわいいもの(美少女ならなおさら)が好きって言っても、今日会ったばかりの女の子に、『億』なんて金使えんのか?。そもそも、なぜ俺に『保護』させる?。対象者を付け狙うのが才覚者なら、『AAA』に預ける手もあるはず。今までだってそうだったじゃねぇか)
『AAA』とは、『Anti Ability Agent』の略称で、才覚者専門の警察組織である。
これまで、蓮神会の仕事で保護、若しくは拘束した人物が、『才覚者、若しくは才覚者と深い関わりがある者』だった場合、このAAAに身柄を引き渡し、その後の処遇を任せていた。
(何か隠してやがるな…。俺に隠す様な事があるのか?この子について何を知っている?)
迦具土は普段から新城にこき使われる。
雑用から重要度の高い仕事まで様々だ。
これは、新城が迦具土の人格や実力を信用しての事(少々やり過ぎではある)なのは違いなく、迦具土も自慢ではないが、隠し事をされる様な仲ではないと思っている。
(まぁ…あの人の考えてる事がわかんねぇのはいつもの事だし、問いただすなんて出来る訳もねぇしな)
「トーヤ~」
1人黙り込んで考えてる迦具土に、痺れを切らした幼女マリアが、子どもらしさ全開の甘え声で顔を覗き込む。
「ん?」
「さっきから何考えてるの?」
「……何でもねぇよ」
「むぅ…」
「あ~、わかったわかった。でも俺もう疲れちまったからさ、ちょっと寝てぇんだ。咲子ねーちゃんに遊んでもらいな」
適当にはぐらかされて、むくれっ面になっているマリアの頭を撫でてなだめる。
はぁい。と返事をし、マリアは部屋を出て行く。
素直な子じゃないか。と少し感心した。
今の楠木が、幼女と戯れられる様な精神状態かは、誰も知る由も無い。
「………めんどくせぇなぁ、これから」
ぼすっ。と、高級ベッドに倒れこみ、迦具土は瞳を閉じた。
どぉもどぉも(。゜ω゜)ノ
久々の登場、羽崎でっす(^з^)♡
気持ち悪いって?
知ってる(・∀・)
さて、『神理郷〜God Pia~』の第一章はこれにて完結です(・∀・)
いかがでしょう?
イカが弟子ょう?
以下蛾でしょう?
弟子のイカは蛾以下でしょう?
イカに謝れこのイカぐさ坊主が(`・Д・)
ごめんなさいm(__)m
やらなイカ(`・ω・)キリッ
ゲソーーーー(/∀\*)
____という事でございまして(・∀・)
全国のイカに謝罪文を送りつけた後に本題へ←
一話が長ぇですよね( -ω-)
それは重々承知なんですがね(ノ_<。)
キリのいいとこまで
と思うと、どーしても長くなる(・ω・`)
読者さんから読む意欲を削いでしまうよね( -ω-)
『ねぇし』?
あらそう、かわいいのね♡
(`・Д・)っ)・3・)イヤン
あと、貴重な意見にもありましたが、主人公の印象が薄い。
これは大問題です( -ω-)
わかってて対処出来なかった自分が悔しい!……とは思わない<(・∀・)>
まぁ、書いてく内になんとかさせましょう<(・∀・)>
自己満で書いてるのでね、ユルい部分は目を瞑って頂けると幸いに存じます( -ω-)
次からは第二章です。
どんな話にしようか迷ってる僕がいる←ぇ
こんなですが、生温かく身守って頂けるとありがたいです。
でわ(。゜ω゜)ノ