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第9話 眠れぬ夜に寄り添って 約束の明日へ

「ほう〜、これがコルヴァンが惚れたデニッシュ」

 朝、ミレナが届けたデニッシュを見て興味津々に覗き込むアルディス。 その瞳の奥には静かに何かを見守るような光が宿っていた。

 他にも新作のイチヂクのパンともう一つの新作。

 これはコルヴァンに一番に食べてもらった一口サイズのシナモンロール。 アイシングがかけてある。

「ほ、惚れてはいない。 ただ毎日食べたいと思っただけだ」

 コルヴァンの照れた言葉にミレナは思わず頬を赤らめる。

「これがきっかけでお嬢さんのために家まで建てたんだろ? これはもう恋ご――」

 茶化すように言いかけたアルディスを慌てて制し、「ほら、配達があるだろ!」とコルヴァンが声を上げる。 そのやり取りにミレナは苦笑した。

 この微笑ましい光景をもっと見ていたいと思ったがパン屋に向かうことにした。

「お嬢さん、私もついていっていいかな?」

 アルディスの言葉に驚きと少しの嬉しさが混ざった表情を見せる。 コルヴァンも軽く苦笑した。


「コルヴァン、さっきも話した通り私が結界を張っておくから外に出てはいけないよ」

 低く落ち着いた声が確かな力を帯びつつもどこか柔らかい。

 その響きはミレナの耳にも届き胸に余韻を残した。


 道すがら、ミレナは迷った末に尋ねる。

「あの、結界ってなんですか?」

「聞こえてしまったか。 だが心配はいらないよ……ただ、今夜は少し騒がしくなるかもしれない。 だから絶対に外に出ないこと。 いいね?」

 アルディスの瞳は深く澄み、すべてを見通すようで、それでいて優しさに満ちていた。

「……はい」

 気づけば自然と頷いていた。彼の存在が、不思議と心を落ち着かせるのを感じる。 その瞳は、まるですべてを見通しているかのように深く澄み、同時にミレナを守ろうとする優しさで満ちていた。

「……はい」

 ミレナは自然と小さく頷く。 アルディスの存在が、知らず知らず心を落ち着かせてくれるのを感じた。


 パン屋に着くと焼き立ての香りがふわっと漂ってくる。

 子供たちが駆け寄ってくる。

「ミレナお姉ちゃんおはよう! お母さんにおつかい頼まれたんだ」

「一人でえらいね」と笑顔で褒めると子供はえへへと照れくさそうに笑った。

 その様子を穏やかに見守るアルディス。

「おはようミレナ。 おや? そちらのイケメンさんはどちら様だい?」とおばさんが首を傾げる。

「この人はコルヴァンさんの師匠のアルディスさんだよ」

「へぇ、コルヴァンさんの。 これはこれはどうも」とそばにいたおじさん。

「どうも。 それにしてもいい香りですね。 さっきお嬢さんにパンをいただいたのにまた欲しくなったな」

 冗談めかしたアルディスの言葉におじさんは嬉しそうに焼き立てのクルミパンを差し出す。

「いいんですか?」

 どうぞどうぞサービスだよと気前よくくれるおじさんの好意に「ありがとう」とアルディスは柔らかく微笑む。

 そばで見ていたミレナの胸がじんわり温かくなった。


 ――ただそばにいるだけで、世界のどこかに確かな守りがあるような、そんな安心感。

 ほのぼのとした朝のひと時の中で、ミレナは少しずつアルディスを「頼れる父親のような存在」だと意識し始めていた。


 店を出るとアルディスがふとつぶやく。

「温かいねぇ」

「クルミパンですか? 焼き立ては温かくて美味しいですよ」

 その言葉にアルディスは小さく笑った。

 その笑みはどこまでも柔らかかった。



◇コルヴァンside◇

 深夜。 窓の外を見るコルヴァン。

  森の奥で夜空を裂くように稲妻が走り、地響きがかすかに伝わってくる。

 見ながらアルディスの言っていたことを思い出す。


「あのお嬢さんになら話しても大丈夫しゃないか?」


 ふとミレナが今どうしてるか気になった。

 遠くとはいえもしかしてこの閃光で不安で眠れずにいたら……。

 思い切ってミレナの家のドアをノックする。

 すると不安そうな顔をしたミレナが立っていた。


 やっぱり……と思い「上がっていいか?」と聞くとミレナはこくりと頷いた。


 リビングのソファに座り「コルヴァンさん、あの光は一体……」とミレナが聞いてくる。

「あれはアルディスが戦っている」

「戦いって……」さらに不安な顔をするミレナ。

「大丈夫だ。 アルディスは強い」

「もしかして、コルヴァンさんの過去と関係が?」

 ミレナの鋭い指摘に思わず目を見開くコルヴァン。

「ああ、ここに来る前にちょっとな」

 コルヴァンもミレナもしばし黙る。


「ミレナ、明日必ず話す。 だから今夜は寝るんだ。 俺がずっとそばにいるから」

 その言葉に安心したのか、ミレナは胸の奥を締めつけていた不安が、コルヴァンの言葉に溶けていくのを感じながら(まぶた)が自然と重くなっていった。

 安心した寝顔で寝息を立てるミレナの横で、決意を固めた顔をするコルヴァン。

 もう迷いはなかった。

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