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第8話 師匠との再会 秘密の影

「ねぇー、ミレナお姉ちゃん続き読んでよー」

「え、ああ、ごめんね」

 子供たちに急かされて視線をコルヴァンの家から絵本に戻す。

 どうしても気になって仕方ない理由は――5分ほど前に彼の家に入っていった男のことだった。

 お祭りで無言で絵本を買っていった背の高いサングラスをかけた男。

「(もしかしてクレーム?……でもどうしてコルヴァンさんの家を知ってるんだろう)」

「ミレナお姉ちゃんってばー」

「ごめんごめん」

 気になりながらも今は子供たちに絵本を読んであげることに意識をシフトする。


 お昼が近くなりようやく子供たちが帰り、待ってましたと言わんばかりにコルヴァンの家をノック。

「どうした」と言う彼の後ろには長い銀髪の美しい顔立ちの男が立っていた。

「あの、さっき……お祭りで絵本を買っていったちょっと変わったお客さんが入って行くのを見かけて気になって……」

「ああ、それは私のことかな」と男は言いミレナに近寄ると長い銀髪が陽の光を受けて輝きどこか現実離れした雰囲気を漂わせた。

「え、と……」

「おっと、これでわかるかな?」と言い男は素早く髪をひとまとめにして帽子をかぶりサングラスをかけて見せた。

「あの時のお客さん!」

「ちょっと変わってる風に見えたかな?」とクスッと

笑う彼に、ミレナは慌てて頭を下げる。

「ご、ごめんなさい」

「いいよいいよ。 コルヴァン、この可愛らしいお嬢さんは?」

「彼女はミレナ。 毎朝パンを届けてもらってる」

「そうか、君が……うちの愛弟子がいつも世話になってるね。 私はアルディス。 この子の師匠だよ」とコルヴァンの頭にぽんと手を置いた。

「おいやめろよ」

「つい癖でね。 いつまで経っても子供扱いしたくなる」

「俺はもう子供じゃない」とムスッとする。

「はは、そういう顔がまだ子供なんだよ。 お祭りのとき、私の変装に気づかなかったね。 まだまだ修行が足りないな」

「くっ……」

 二人の自然なやり取りを前に、ミレナの心の不安はふっと解けていった。


 部屋に上がらせてもらい3人でお茶することに。

 談笑の中で驚くほど無邪気に笑うコルヴァンを目にするミレナ。

 ――彼にこんな素敵な師匠さんがいたなんて。

 コンコンと玄関のノック音がした。

 出向いたコルヴァンが町長を連れてくる。

「マルセル!」

「アルディス!」

 目をぱちくりさせるミレナとコルヴァンの前でアルディスと町長のマルセルが再会を喜び手を取り合う。

「知り合いだったのか?」とコルヴァン。

「そうだよ。 マルセルがこーんな小さかった頃に気まぐれでこの町を訪れたときに知り合ったんだ」

 再会の喜びに満ちた談笑が続く。


 ミレナと町長の帰り際。

「お嬢さん、楽しいひと時をありがとう」

「こちらこそ。 お話できて嬉しかったです」

「アルディス、こっちにはいつまでいるんだ?」

「んー、しばらくかな」とちらりとコルヴァンを見るアルディス。

「久しぶりの師匠と弟子の再会だ。 まだ話したいことは山ほどあるだろう」と町長。

「そうだねぇ……」とぽつりとつぶやくアルディスの青くて澄んだ瞳がどこか遠くを捉えてるように見えた。

 その眼差しはほんの一瞬光を帯びながらも鋭く冷たさを孕んでいる。

 ミレナは背筋に冷たい風が吹いたような感覚に襲われた。

 そんなミレナの視線に気づいたかのようにアルディスはふっと微笑み、指先を青白く光らせて輪を描いて花びらのように宙に舞わせた。

「わあ! 魔法!」ときらきら目を輝かせるミレナ。

「お嬢さん、この子を虜にしたというデニッシュ、明日楽しみにしているよ」

「えっ、あ、はい! 絶対美味しいの作りますね」


 明日は多めに作らなきゃ! と胸が高鳴り気合いが入りみんなに手を振り家に帰った。



◇アルディスside◇

 深夜。 コルヴァンもミレナも寝静まった頃を見計らって外に出るアルディス。

 月明かりに照らされながら林まで歩く。

「君、殺気がバレバレだよ」

「ちっ、やっぱり気づかれてたか」

 木の上から飛び降りて来た魔法使いは気怠げに、しかし瞳は鋭く異様な雰囲気を纏わせていた。

「まったく、昼間もひやひやしたよ」

「あんな遠く離れてても魔力を飛ばしてくるとはな。 さすが大魔法使い様は格が違うぜ」

「あの子にはもう関わるな」アルディスが低い声で言う。

「気に入らねぇんだよ。 罪を犯したのにあんたの温情で人間界で絵本作りで償う? 一生牢獄生活だろ」

「罪ってねぇ……君が嵌めたんだろ。 君だって師匠に裏で手回ししてもらって牢獄行きを免れたのに。 普通ならこんなところまで来ないで一生師匠に尽くすのが筋なんだけどねぇ」

「うるせーうるせー!」

 魔法使いは林の奥へ消えて行った。


「ずいぶん優しい顔をするようになったあの子が見つけた居場所を奪われるわけにはいかないんだよ」

 アルディスは静かに月を仰ぎ目を細め、遠い昔を懐かしむように笑った。

 それでも声に滲む静かな決意は揺るぎない。

「今度こそ奪わせはしない。 あの子が見つけた居場所も笑顔も」

 夜風が銀の髪を揺らす。

 その横顔はどこまでも穏やかで底の知れない強さを秘めながらも不思議な安心感を纏っていた。

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