第7話 ほのかな魔法が光る時間
パン屋にデニッシュを配達しに行ったついでに食材の買い物をしていこうと町を歩く。
町のみんなが慌ただしく何かを準備してる様子を見て「(もうそんな時期か)」ともうすぐお祭りがあることを思い出した。
家に着きドアを開けようとしたら、コルヴァンの家のドアが開いて中から町長が出てきた。
「町長ー!」と手を振り駆け寄るミレナ。
「おおミレナ、相変わらず元気そうでなにより」
「どうしたんですか?」
「もうすぐお祭りがあるだろ。 コルヴァンにお祭り限定の絵本を販売してみないかと提案したんだか」と横目でちらっとコルヴァンを見る町長。
「それすっごくいいと思う!」
「だとよ」と、町長はにっとしてコルヴァンを見る。
「限定の絵本を作るのはいいが俺に売れると思うか?」
「じゃあ私手伝います!」
うんうんとにっこりする町長は、あとは二人で話し合うようにと帰っていった。
お祭り当日。 いつもより賑わう町にわくわくする。
今年はコルヴァンがいて、彼を手伝えることに嬉しさがこみあげる。
おじさんおばさんには「今年はコルヴァンさんを手伝いたい」と言うと「精一杯手伝っておやり」と温かく後押ししてくれた。
テーブルを出して絵本を並べようとしたとき、小雨がパラパラと降ってきた。
「わっ、雨! どうしよう」
「落ち着け。 このカバーをかけるんだ」
コルヴァンの落ち着いた行動を頼もしく思えたミレナ。
雨粒が光を反射して、絵本の表紙がふわりと輝いた。
雨が止み、町の人たちが興味津々に集まる。
「今日だけの限定の絵本なんですよ」と笑顔で絵本を紹介。
「実はうちの孫が欲しがっててね」とおじいさん。
「いくつだ?」
「え?」
ぶっきらぼうな問に少々びっくりするおじいさんだがミレナが横から明るい声で話す。
「お孫さんはおいくつですか?」
「7つだが」
「ではこれなんかはどうだろう」と絵本をめくって見せるコルヴァン。
「ほう〜」と感嘆して見惚れるおじいさんにミレナは「お孫さん、きっと喜びますよ」と言うとおじいさんは嬉しそうに買っていった。
「やりましたね!」とミレナは小さくガッツポーズ。
「ああ」とコルヴァンはほのかに笑顔を浮かべた。
これをきっかけにぞくぞくと人が寄ってきて、慣れない接客に戸惑うコルヴァンをミレナが優しくフォローして絵本はどんどん売れていった。
子供たちは目を輝かせ、大人たちも自然と手が伸びる。
町の人たちに徐々に馴染んでいくコルヴァンをそばで見ていたミレナは胸がじんわり温かくなる。
「(みんなに認めてもらえると嬉しいな)」
温かくなっていくのはコルヴァンも同じだった。
残り3冊になった頃、帽子を被りサングラスをした背の高い一人の男が買いに来た。
この辺では見ない人だなと思いつつも「ごめんなさい、もうあまり種類がなくて」とミレナが言うと男は一言も話さず、大丈夫と言わんばかりに片手で制して絵本に指を向けた。
ミレナは察して男が指した絵本を袋に入れて渡すと去っていった。
ミレナとコルヴァンは顔を見合わせて、変わった人だったねと首を傾げた。
夜になり自分たちの仕事が終わったミレナとコルヴァンはお祭りを見てまわることに。
そろそろ終わりに差し掛かろうとした頃「ちょっとあっちの方へ行ってみないか」とコルヴァン。
ミレナは「はい」と言いコルヴァンと人混みを抜けた。
◇コルヴァンside◇
ほんのり、じんわり、自分がこんな気持ちになるなんてと絵本を売りながら思うコルヴァン。
ああ、君がそばにいてくれるからか、と笑顔で絵本を売るミレナの横顔をちらっと見る。
夜になりミレナとお祭りを見てまわり、町の人たちの様子を見ているとあることを思いついた。
「ちょっとあっちの方へ行ってみないか」とお祭り会場から少々離れた場所へ移動して片手を空に上げる。
するとお祭り会場の上空にきれいな花火が咲いた。
「わぁ!」と喜ぶミレナの声に自然と笑顔がこぼれる。
町の歓声が耳に届く。
花火の光に照らされた町、笑顔の人々。
こんなに温かい場所で君もこんなに優しく育ったんだな、とコルヴァンは思う。
そしてふと、自分もこの人たちの中に溶け込めるかもしれない、と小さく胸が温かくなるのを感じた。
「むやみやたらと人間に魔法を使ってはいけないよ」
師匠の言葉が頭をよぎったが「(これくらいならいいよな)」と心の中でつぶやいた。
一冊だけ売れ残った絵本を出すと花火の光で絵本がほんのり輝く。
「わあ! 絵本が光ってるよ!」子供たちの喜ぶ声が聞こえた。
ミレナも喜んでおり、コルヴァンは自然と隣にいる距離感に安心し少しだけ心が躍った。
それは言葉にできない、微かな胸の高鳴り。
コルヴァンは少しだけ息を呑み、でもそのままそっと笑みを浮かべた。
ちょうどその頃、花火を見ていた一人の男。
絵本を買っていった背の高いサングラスをかけた男だった。
男はサングラスを外し、きれいな花火で彩られた夜空を見てほのかに笑った。